英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験⑥
眩しい光。目を開けずともそれはわかる程で、騒音に近い低い音がそこでは鳴り響いていた。
ーーなんだここは。俺は一体…
「魔力…いじ…う……なし。」
とぎれとぎれに見知らぬ男の声が聞こえる。目を開けようとしたが、力が入らない。
「竜王…そ……がお前の…新し…力だ」
男の言葉にあった『竜王』、それは小さい頃に読んでもらった、昔話で聞いた名だった。
ーー俺はどうしてこんなところに…
「許し…くれ…むす…よ」
男は涙を流しながらこちらへ謝罪をしているようだった。
ーーあんたは誰なんだ!何を許せってことなんだ!おい!
《はい、ここでしゅうりょー!》
その声と同時に、辺りから眩しかった光が消える。
《さぁ、ランク。起きるんだ。夢の時間は終わりだよ?》
その言葉と同時に、今まで開かなかった目が開けられるようになる。そして、辺りは真っ白な何も無い空間で、目の前には、8歳くらいの少女が、その見た目に不似合いな赤のドレスを着て、装飾がなされた王座とも言える豪華な椅子に腰をかけていた。頭には小さな王冠のようなものをのせている。
「君は一体誰なんだ?俺は冒険者適性試験の最中で…それに、さっきの声の男は誰なんだ!」
俺は先程の不思議な体験について質問をした。恐らくはこの不思議な体験をするに至った、張本人だと踏んで。
《さっきのはね?君の記憶さ!とある命令で、そこの記憶を見せろと言われていてね。ちなみにここは、君の心の中さ。》
「記憶?アホなことを言うな。俺にあんな記憶はない。それに、俺は何故ここにいる…そうだ!カリオットにみんな殺されて…シュナは!あいつは今どうなってんだ!」
俺はついさっきまで不覚にも忘れていた、カリオットとシュナたちのことを慌てて少女に聞く。
《あははは!君のそんな慌てた姿、こんな時でなきゃなかなか見れないよ!》
「誤魔化すなよ!俺の記憶があやふやなのもお前のせいなんだろ!」
《ピンポーン!正解だよ!あ、君のガールフレンドとその仲間たちだけど、息はまだあるね。死んではないよ。今ならギリギリ助かるのかも!》
謎の少女は、笑顔でこちらに喋りかける。
そして、俺はその少女に疑心の目を向ける。
「お前、カリオットの仲間か!クソ!俺の心の中からの攻撃とは…魔族ってのはどんだけ卑劣なんだ!」
《あはは!僕をそんなやつと一緒にしないでよ!僕は魔族じゃあない…“竜王”さ!!》
「ふざけてんじゃねぇよ!そんな場合じゃないんだ!!」
俺はあまりの怒りと無念さから、声を荒らげる。そもそも、伝説?竜王?所詮昔話。想像上の作り話だ。信じるわけがない。
「俺は、こんなふざけた無駄話をしている場合じゃないんだよ!早くみんなを助けないといけないんだ…!」
《はぁ、僕は本物の竜王なのに…それに、今のまでカリオットと戦えば君は死ぬよ?“本当の自分”を見失っている今の君じゃあね。》
「本当の自分?うるさい!やってみなきゃわかんねぇだろ!」
《いいや、分かるね。君は負ける。それも惨敗さ…》
竜王を名乗る少女は確信を持っているかのように語る。まるで、未来でも見てきたかのように。
「なら、強行突破する。お前を殺して!」
俺は、混合魔法の詠唱の準備を始める。
《へぇ。風魔(テンペスト)豪炎(ギガ)·極(バースト)かい?いいさ、確かめてみるといいよ。自分の愚かさをね!》
「あぁ、やってやるよ!力の源である我が命ずる!火と風の精よ、大いなる風をもって、炎を青き炎へ変えよ。そして、この全てを焼き払え!!」
「風魔(テンペスト)豪炎(ギガ)·極(バースト)!!」
俺は、試験の際に使ったものよりも、力を込めてその魔法を撃った。紛うことなき全力だ。しかし…
《うーん。やはり弱いね。僕の知る君に見せてあげたいよ。初級魔法『球炎(ファイアボール)』!》
それは、初級魔法と言うには規格外すぎるほどのバカでかい炎の球体だった。しかも驚くことに無詠唱で魔法を唱えている。
そして、それは俺の全身全霊の風魔(テンペスト)豪炎(ギガ)·極(バースト)を簡単に相殺。いや、むしろ飲み込む形で俺の魔法を包み込み、打ち消した。
「うそ、だろ…!?」
《これで分かったかい?君は弱い。そして、君もさすがに信じてくれただろうけど、僕は“竜王”。炎を司る竜族の王さ!》
「し、信じるさ…なら、そんなあんたに頼みがある。俺の代わりにカリオットをぶっ殺してくれよ!」
竜王は首を振って、それを断る。
《うーん。そうしたいのもやまやまなんだけどさ、僕は君の心に宿ってるから外へ出られないんだ。》
「じゃあ、どうしろって言うんだ!」
《考えはある。君に僕の力を貸すよ。無論対価は貰うよ。》
「そんなこと出来るのか!?だが、対価ってのは一体…」
《……魔族への憎悪。復讐心だよ。たしか君の父と母を殺したのは魔族だったよね?そして、君はまた魔族に大切なものを奪われかけている。そんな君の今の心の中にある強いものそれが復讐心だ!》
たしかに、俺の心には膨れ上がった復讐心があった。もともと、両親を殺されたことから魔族のことは恨んでいた。しかし、リーリルさんや村の人たち、シュナのおかげで和らいではいたが、やつらは俺の大切な人をまた傷つけた。それがこの復讐心が大きく膨れ上がるための起爆剤となった。
「俺の復讐心か…安いもんだ!力を貸せ、竜王!!」
そして、何回もやったかのようにすんなりと体が動き、俺は竜王へと拳を向けた。なぜかは分からないが、なんだか懐かしい。そんな気分に襲われる。
《力を渡す方法は体が覚えてたようだね。これからよろしく頼むよ。ランク!》
そして、竜王が向けられた俺の拳に、同じく拳を突き出す。
《さぁ、新しい君の始まりだ!さぁ、目を閉じてくれ。そうすれば現実へ戻れるはずさ!》
言われた通りに目を閉じると、そのまま目の前が暗くなる。光は一切感じない。そして静かに目を開けると、そこは薄暗い空間だった。そう元いた試験会場だ。
そこには、カリオットが俺を嘲笑うかのようにこちらを見て立っていた。
「カリオットォォォ!!!」
俺はカリオットへ怒りの全てをむける。
「ほぉ、この魔法を受けて立ち上がりますか…それに、“能力”に耐えるとは…なにか体に変化が起きたようですね。まぁ、いいでしょう。殺すだけです。」
「てめぇの、その余裕そうな面に1発叩き込んでやるよ!お前だけは絶対ぶっ殺す!」
そして今、俺とカリオットの戦いがはじまる。