Hachi_amumusanのブログ

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【第2章】真実と代償

  「私が…私たちが貴様を、主にランク=アインメルト…貴様の命を狙っている理由は、単にカリオット様の分身を倒したことが理由ではない。それだけならば、私たちへの脅威とはなり得ない。」

  「なら、なんで俺たちを襲った。それにお前は、これからも10柱は刺客として襲ってくる…そう言っていたな?」

 俺は、リアムズへそう質問した。それは、俺が思っていた、想定していた答えと違うものからリアムズの口から発されたからである。俺は、魔族が俺とリリアルを狙っているのは、カリオットの分身を倒した報復だと思っていたからだ。しかし、それはどうも違っていたようだ。

  「ランク=アインメルト。貴様の、その“力”だ。古いにしえの王の力…それが私たち魔王軍に衝撃を与えたのだ。カリオット様の分身を通して、貴様の戦いぶりは魔王様はもちろんのこと、全ての幹部、10柱へと伝えられた。貴様は、意図せずに私たちへの宣戦布告を行ってしまったのだよ…」

  「古の王の力…?まさか…」

 リアムズの言うその力。それはまさにあ・の・力・だった。そう、竜王の力である。俺は、この全く予想外の状況を知るため、竜王を早速問いただす。

(おい、竜王!お前こりゃあどういうことだよ!)

 《あぁ、話は全て君を通して聞いていたが、まさか意図せず君がやっていたとはねぇ…僕はてっきり、魔王軍に喧嘩を売るつもりで僕の力を行使したのかと思ったよ?》

(いやいやいや!あれは、あの状況を打破するためであって…いや、でもあそこでお前の力を使わなければ全員を助けられなかったわけだし…あぁ!もう!こうなったらやってやろうじゃあねぇか!!魔王軍との全面戦争!!)

 俺は、四肢を失ったリアムズにドスドスと近づき、そこでしゃがみこみ、指を指した。

「意図せずだと?リアムズ…何か勘違いしているようだが、俺は意図せずやったんじゃあない。意図してやったんだ。お前の言うその宣・戦・布・告・。あぁ…そうだぜ。2年前、カリオットの野郎の分身をぶっ殺してやった時、俺はお前ら全員を…一体も残さずに殺し尽くすと決心したんだ!この決心は、俺の人生の『決断』であり、俺が歩むべき、『運命』そのものだ!」

「なるほどなぁ…その決心、敵ながらアッパレと言う他言葉が、見つからんな…」

「ありがとよ。そんなことより、お前の今回の事件の計画を言いやがれ!時間稼ぎのつもりならよぉ…また、ナイフをぶっ刺してもいいんだぜ?」

「わ、私は能力ゆえに痛みには弱いんだ!話すから勘弁してくれ!!」

 リアムズは先程の拷問の恐怖からなのか、体と声を震わせて直ぐにその計画の全貌を話し始めた。

「まずは、私が所属している10柱について。10柱は現在、10体の幹部候補とも呼ばれる魔族が、『力柱』、『心柱』、『音柱』、『知柱』、『楽柱』、『喜柱』、『悲柱』、『苦柱』、『怒柱』、『無柱』をになっている。ちなみに私は、心柱だ。そのうちの知柱は以前は幹部と掛け持ちでカリオット様がになっていたが、つい最近になって補充されたと聞く。基本私たちは、ほかの10柱のことは顔すらも知らない。それは、内部分裂を避けるためだと言われている。」

「なるほど。ちなみに、お前をのことを俺たちが倒した場合にはその『心柱』は補充されるのか?」

「いや、その確率はほぼ無いだろう。柱レベルの魔族が生まれるなど、ほぼないと断言出来る。知柱を任されたその魔族はいわゆる天才だったのだろうな。」

 リアムズの言ったその情報、それは、とても有益な情報だった。なぜなら、この世界では、昔から人間と魔族が交戦状態にあった。しかしながら、お互いに膠着状態を保っていて、上位の存在の情報はお互いにあまり知らないからだ。要するに、10柱という幹部候補の魔族の組織の情報もあまり確かなものではなかったのだ。この10柱が刺客として、送り込まれてくるという状況下においてそれは、こちらの立場を有利にする可能性もある大きな情報だった。

「それで?10柱という組織がそういった構成であることは理解した。次はお前の今回の計画についてだ。」

「あぁ。今回の指令は魔王様からの直接のものだった。それは、緊急を要するものということを意味している。命令の内容とは『アンスラル魔法国を出立したランク=アインメルトとその仲間、リリアル=リーチェの首を持ち帰れ』というものだった。私は、貴様らのことは2年前の事件で知っていたので、直ぐにおそらく立ち寄るであろうこの『デザト村』へと向かった。そこで、私はその村の村人を洗脳し、支配下に置いた。そして、急ぎで干からびた死体を作り、謎のモンスターによる殺人事件をでっち上げたのだ。」

 リアムズの口から語られたそれは、衝撃の2文字では言い表せないほどのものだった。俺とリリアルは今回起こってる事件がリアムズが起こしたものだということだと予測はしていた。しかしながら、その事件のでっち上げを行ったのが、俺とリリアルがデザト村周辺に着くまでに起こっていたという事は全くの予想外のものだったからだ。恐らくは、俺たちが蜃気楼に合うことも想定して、作戦を短期間で完成させたのだろう。

「村の建物等には一切の傷などがなく、そこで戦闘が行われた形跡も全くなかった。だから、恐怖と脅しなどでの村人への精神操作では無いことは、踏んでいた。リリアルには『精神干渉魔法マインドサーチ』でそれを探って貰おうとしていたが、お前の存在そのものや計画、そういった根本的なものは探ることは出来なかった…なるほどな、お前の『精神操作魔法コントロールマインド』が原因だったのか。」

「その通りだ。精神系の特殊魔法を施した人間に対し、精神系の魔法を上書きすることは不可能。私が施した『精神操作魔法コントロールマインド』では、『命令の遵守』と『術者の秘密の保護』を命令していた。だから、私の存在自体を探ることは出来なかったのだよ。」

 俺とリリアルが、デザト村付近へと到着したのは、出発してからおよそ2日ほど経った頃だった。その短い時間で村人全員に特殊魔法をかける…それは、全く簡単なことではなく、普通は1ヵ月はかかる作業だ。10柱というのは非常になめられない存在である。事実、リリアルが回復魔法を習得してなければ、このようにリアムズから情報を引き出すことは出来なかった。今回の勝利は、運が良かったというのもあったのかもしれない。

「次を聞くが、お前の魔法は解除できるのか?」

「可能だ。私を殺せば、魔法は解除されるはずだ。」

 俺がその答えを聞き、安堵していると、後ろからリリアルが出てきて、リアムズへと質問をする。

「私からも一つ質問があります。あなた方は、人間を殺したり、操ったりすることに抵抗や罪悪感と言ったものは無いのですか?」

「そんなもの、あるわけないだろ?私たちにあるのは、魔族として魔王様の命令を遂行すること。ただそれだけだ。下等な人間風情に感情移入をするわけが無いだろう?」

「こ、この外道が…!!あなたは考えたことは無いのですか!いつも通りの幸せな…平穏な生活をする人達が突然、一瞬にしてその幸せを奪われる悲しみを!!私は知っています。それは、絶望という言葉だけでは語り尽くせないほどの圧倒的な負の感情が押し寄せる。そんな体験です。あなたにはこの気持ちが理解できないのですか!!」

 すると、リアムズは鼻で笑いながら、リリアルへと言葉を返す。

「ならば逆に質問するが、貴様らは魔族に対してそういった同情に近い感情を抱くのか?抱かないであろう?普通なら、殺したい。そう考えるはずだ。」

「違います!!あなたたちと私たちでは…根本的に、全く違うのです!!」

 リリアルは言葉をつまらせながら、そう答えた。リアムズのその質問。確かにそれは、確信をつくようなそんな質問だった。決して、揚げ足取りとかそういうのではなく、ただ単純に俺たち人族が魔族に対する憎悪と、魔族が人間に対する憎悪が同じなのか否かというそんな質問。リリアルが、それに対し言葉を詰まらせるのは至極当然なこと。正常な判断の出来る心の持ち主ならば、それは必然的なものなのである。

 だがしかし、俺は違う。俺は正常ではないからだ。俺には、魔族に対し、同情やそういった感情などの不要な感情は、一切捨て去る決断を2年前に既にしているのだ。だから俺は魔族に対してはこう思う。すべて、ぶっ殺すと…

「まぁまぁ、二人とも…とりあえず、落ち着けよ。」

 俺は、いつもなら出さないような低い声で、怒りの篭もったかのような声でその言葉を口にした。

 そして近くに落ちていた、先程まで使用していたナイフでリアムズの胸を刺す。

「く、あ゛、あぁぁあああ゛!!なんで、刺したあぁあ!!」

「ムカつくからだよ。クソ野郎!ひとつ言わせてもらうと、俺は魔族にそんな感情は一切持たない。同情もしないし哀れみもしない。そこにあるのはただの復讐心だ。だから、お前のことは躊躇なく刺せるぞ?こんな風にな!」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛…どうしてくれんだ!もう刺すとこがないぞ!クソッタレがァァァ!この私がこんな人間程度に…!!」

「これが、お前の言う人間の力だ。あとお前、全て話したら助けて貰えるとか甘い理想描いてんじゃあねぇよな?まぁ、安心してくれ…」

 俺がそう言うとリアムズは少しだけ希望がある顔をこちらへと見せる。どちらが悪魔かわからない?それで結構。俺は奴ら全員をぶち殺せるなら喜んで悪魔になろう…

 そして俺は言葉を続ける。

「情報をくれたお礼だ。痛みも何も無く、殺してやるよ…!」

 そして、リアムズは死んだ。胴を完全に自身の能力により破壊されて。リアムズ本人を殺したのはリリアルの回復魔法ではあるが、これは、言ってしまえば自分の能力で死んだも同然なのだ。自分の無敵の能力で自分を殺してしまうとは、なんとも皮肉なものである。

「さぁ、リリアル。すべてのことは済んだ。村へ戻り、村人たちを解放しに行こう。」

「はい…!」

 そして俺たち2人は村へと行くために、リアムズの亡骸を後にした。

【第2章】悪魔の誤算

 「ランク=アインメルト!!諦めたのか?俺の黒薔薇(ブラッディローズ)を生身の体に受けるとはなぁ!!」

 俺がやつの魔法、黒薔薇(ブラッディローズ)受けたことを見て、リアムズは俺を完全に仕留めるために、こちらへと近づく。

 それは、黒薔薇(ブラッディローズ)が持続力が高い魔法なために、相手を殺すという点においては決め手に欠けるからである。しかしながら、攻撃力が弱い魔法という訳でもなく、無論ダメージは受ける。

 だがしかし、俺はタダで相手のダメージを受けるほど、簡単な男じゃあない。

 「現在の距離…約10メートル、9、8…」

 「何をブツブツと言ってやがる!!てめぇはここで死ぬんだよ!!この反転のリアムズ様によってなぁ!!余計な真似は死を惨めにするだけだぜぇ?」

 「5、4…今だ!リリアル!!」

 俺がそう叫んだ瞬間、リリアルは、黒薔薇(ブラッディローズ)を避けるのを一旦終了する。そして、リリアルのステッキ『滅魔の証(デビルブレイカー)』が光を発する。

 「馬鹿か!!ランク=アインメルト!貴様の仲間の女になんの魔法を発動させたかは知らんが、全てはこの『反転(リバース)』によって無と化す!!無意味無意味無意味イィィイイィイ!!!」

 「無意味?本当にそう思うなら、今からてめぇの右の腕を見てみろや。クソ悪魔よ。」

 「あ?何を言って……あ、あぁぁぁああぁぁ!痛いぃぃいいいぃ!!わ、私の…う、腕がぁあぁああ!!」

 リアムズの腕は、グチャッという生々しい音を立て空中へ血をぶちまけながら飛散した。

 「リリアル、次はもう片方の左腕を狙え。」

 そして、その俺の言葉と同時にリアムズの左腕が右腕同様に飛散する。

 「ぐ、あぁぁああぁ!!ま、まただぁぁ!!…私の、腕…わ、わた、私にな、なにをしたぁああぁあ!!私の『反転(リバース)』は無敵の能力のはず…!それを掻い潜った!?いや、ありえない…だがしかし、私は現にダメージを受けてるわけで…」

 「あら、リアムズ。まだ分かってないんですね。ランクと私にあなたはまた嵌められたのですよ?最も、今回の作戦立案はランクでしたけど」

 「なん…だと…しかし、貴様たちにそんな、そんな素振りは一切確認できなかった!!一体いつ…一体いつ!!」

 「そうだな…お前の敗因となりゆる今回の要因は、俺とリリアルにお前という存在を認識されたという事だ。お前は、サラ=ノールという冒険者に成り代わり、俺たち2人を欺き殺そうとした。しかしながら、そこが失敗とも言えよう。お前はことを焦りすぎたんだ。トントン拍子とも取れる展開を俺とリリアルが疑わないはずがない。サラ=ノールという女性のことについては、性格や仕草までもを周りの村人から情報を集めることができる時間は十二分に存在したしな。」

 「ま、まさか…そういったことで私は全てを勘づかれて…だが!村人から聞いた?それはありえない!!奴らは私と管理下にあるのだ!」

 リアムズは、声を荒らげる。恐らくは、信じられない事の連続に、認識が追いついていってないからであろう。しかし、それが真実。やつは、能力に縋りすぎ、傲慢になりすぎたのだ。

 「だろうな。そんなことは、お前の存在を疑い始めた時から予想の範疇だった。だから、使ったのさ。『精神干渉魔法(マインドサーチ)』をな。」

 「そ、その魔法は…!?」

 『精神干渉魔法(マインドサーチ)』とは、魔力に自分の意識を僅かながらではあるが加え、相手へと流し込む魔法で、これにより、相手の精神の奥深くへと入り込むことができ、一定の情報を相手に気づかれずに知ることが出来るのだ。これは、特殊魔法という通常魔法とは全く異なる魔法の一つであり、特殊魔法は熟練の魔法使いでも行使することは難しく、エルフやハーフエルフなどの魔力操作を得意とする人族が使用することが多い。ちなみに、特殊魔法には回復魔法も該当している。

  「こっちには、エルフ以上の天性の魔法センスを持つハーフエルフのリリアルがいるんだ。高難易度の特殊魔法も、2年間の修行で習得している。お前は、俺たちの情報を知らなすぎたんだよ。」

 「クソ…だ、だが、俺の腕をぶっ飛ばした説明にはなってないぞ!これまでの一連の流れ、確かに見事なまでに私の負けだ。情報戦という戦いにおいて、貴様らに遅れをとっていた。しかし、能力についてはさすがに分からなかったはずだ!それに、我が能力『反転(リバース)』はまさに無敵。それを掻い潜った方法とは、一体…」

 「それは、私からさせて頂きましょう。両腕を落とされ、瀕死のあなたへの最初で最後の慈悲です。」

 リリアルはそう言いながら、俺の前へと出て、説明を始める。

 「まず、第一として私たちがあなたの能力について知ったのは、先刻の出来事。だから、ランクがあなたから攻撃を遠距離から受けたことは予想外の出来事だったのです。しかし、それにより、あなたの能力をランクは見抜いた。そして、私はランクから、合図をしたと同時にとある魔法を発動してくれと言う言葉をもらいました。」

 そう、実は俺は黒薔薇(ブラッディローズ)を避けている際に、リリアルへそう呟いていた。そして、その合図…それこそが攻撃を受け、魔法発動のタイミングを大声で叫ぶこと。これにより、やつの気を引き、油断を誘うことにも成功した。

 「そして、あなたの能力『反転(リバース)』は一見無敵とも取れる能力ですが、とある穴があります。それが、あなたの能力は広範囲に、そして無差別にその効果が発揮されることです。それが今回は私の回復魔法に反応したのです。そう、そのランクが私に頼んだ“とある魔法”とは、回復魔法だったのです。正直、これには私も驚きました。」

 「か、回復魔法だと…!?まさか…貴様ごときが魔法王の回復魔法を…!?」

 「えぇ、そのまさかですよ。私が魔族への復讐を糧にすごしたこの2年間。それは、無駄に過ごしていた訳じゃあありません。魔法王様にその期間、回復魔法について教えて頂いていたのです。」

 だが、それを聞いたリアムズは、腕の痛みのためなのか、声を掠られせなが叫ぶ。

 「ふ、不可能だ!確かに貴様の言う通り、私の能力は遠距離タイプの能力…だから、貴様が私に回復魔法を唱えれば、反転の対象となる。しかし、それが仮に反転し、回復から破壊になったとて、その振り幅から魔法は消滅するはずだ…!」

 「その振り幅を小さくしたんですよ…私は。あなたは、回復魔法を反転させたことがないために、それを受けるケースを一切考えていなかったんですね。」

 「振り幅を…はっ!?」

 何かに気がついたのか、リアムズは目をギョッとさせる。その何かとは、本人にすら気づいてなかった能力の穴である。それこそが、この能力の根本を支えている反転された際の変化の振り幅だ。反転されれば、それは、対極のものに変化する。火は氷や水へ、光は闇へと言うように。そして、今回は回復が破壊へと反転されたのだ。

 通常は、魔法の威力的に全ての魔法は反転した瞬間に消滅する。しかし、その例外が一つだけ存在する。それが、回復魔法だ。回復魔法は、傷口を治す程度から、切断された腕などを治すものと多岐にわたる。そのため、他の魔法よりも振り幅の調整をしやすい。なので、消滅しずらいのだ。

 そして、もう一点。それは回復魔法を扱えるものがこの世界では、師匠とリリアルの2人だけであり、リアムズが回復魔法使用者との戦闘が皆無という点だ。これが、やつを混乱させるまでに至った。これが、一見無敵とも取れるやつの能力の大きな穴だ。

 「てめぇは、もう負けているんだ。リアムズ。死ぬ前にせめて、お前の知る全てを吐いてもらうぞ。」

 「わ、私はまだ負けてなどいないぞぉぉおおぉ!!貴様らなど、わ、私が本気を…ぐぁああぁぁああぁ!!」

 リアムズの会話の途中で、リリアルがさらに追い打ちをかけるように、リアムズの右足へ回復魔法をかける。

 「あなた、今逃げようとしましたね?私が話に気を取られるとでも思ったのですか?私の回復魔法は、ステッキに仕込んだ魔法陣で唱えています。残り数は2回…あなたを絶命させるには十分です。それに、私の武器『滅魔の証(デーモンブレイカー)』の特性『攻撃魔法を魔族に与えた際に、威力が何十倍にもなる』で、回復から破壊という攻撃魔法へ変更されたことにより、あなたに当たる瞬間に、その特性が発揮され、傷を作る程度が、あなたの四肢をねじり切る程の威力となったのですよ。」

 それを聞いたリアムズは、自分の今置かれている立場、自分が取らなければいけない行動、その全てを察したようだった。やつからは、先程までの覇気は全く感じられず、疲れ切り、燃え尽きたようにグダったしていた。

 「あと、10秒だけ数えます。それまでに、今回の計画の経緯とその全貌を言わなければ、左足も破壊します。はい、10、9、8……5、4…」

 そして、数字のカウントを聞き、最初の方は耐えてはいたようだったが、リアムズは次第に青ざめていき、人が変わったように叫んでいた。

 「分かった!!わ、分かった!!言う!!言うからぁ!!もう痛いのはやめ……ぐ、あぁああぁ!!なんでぇええぇぇ!?なんで、攻撃するんだよぉぉおおぉ!?」

 「あー、すいません…10秒のカウント中に気が変わったんですよ。その言葉が嘘だったら困るので。でも、大丈夫。魔族は、痛みは感じているでしょうが、それくらいでは死にませんし、今の四肢をもがれたあなたにはナイフだって容易に当てられます。絶対に吐いてもらいますよ。絶対に…!!」

 そして、それからはナイフを何度も、何度も何度もリアムズへ突き立てた。リアムズが全ての真実を語ろうとするまで。

 「分かった…もういい。全てを話す。包み隠さず真実を…」

 そう言うと、リアムズは今回の経緯と計画の全貌。その全てを語りだした。

【第2章】反転の悪魔

  「球炎(ファイアボール)!!」

 その魔法は、通常の球炎(ファイアボール)の何倍もの大きさがあり、無詠唱での発動であったことから、リアムズに対し先手を打つことが出来た。

 相手の能力が不明ことからも、先手を取ることはこの戦いにおいて、とても重要な意味を持っていた。影に関する能力の可能性も高いが、そう断定するには、証拠不十分ということである。

 しかし、その大きく増大した炎を見て、リアムズは余裕の表情を浮かべる。

  「無詠唱…あの噂は本当だったようだなぁ!しかし、先程も言った通り私の能力の前には全ては無力となってしまう」

 そう言うと、リアムズは球炎(ファイアボール)の方へ手を出し、それを止めようとするような動作をする。

 「無駄だぜ、リアムズ!俺の魔法は無詠唱だから、召喚の魔力となるはずの魔力も属性の魔力に加算されている。そのため、その火力は他の魔法と一線を画している!」

 だが、俺のその余裕は次の瞬間で一気になくなることとなる。

 「能力発動…!!」

 その瞬間、巨大な炎が一瞬にして消え失せる。そして、それと同時に辺りを、肌を刺すような寒さが襲う。

 「い、一体どうなって…」

 「ふふふ…これが私の最強の能力。『反転(リバース)』だ!この能力の前では全ての生物以外の現象は反転する。それは、どのようは強大なものでも該当する。貴様の、無詠唱魔法も無論例外ではないわ!」

 その能力の力を目の当たりにした俺とリリアルは、リアムズからある程度の距離をとる。こいつは手強い相手だ。俺の魔法は、炎魔法がメインであり、それ以外はやつを倒すほどの威力は出せない。相性最悪…と言ったところである。

 「なるほどな。“現象”を反転か…魔法もひとつの現象であり、反転の対象。そして、影に入った人間の水分が抜けたのはその反転の力だな?通常、影では体温が下がるが、それが反転。一気にその部位の水分が蒸発したということか。」

 「大当たりだ。さすがは、カリオット様の分身を倒しただけはあるなぁ。ランク=アインメルト。」

 「なに?カリオット…だと?」

 その名前、それは忘れるはずもない名前だった。因縁にして、俺たち2人の復讐の相手。魔王軍の幹部『呪術皇(カースエンペラー)』の名だった。

 「我ら魔族は、ランク=アインメルト。貴様の命を狙っている。貴様はカリオット様の分身を倒した。しかしそれは、ただの分身ではなく、我らが魔王軍の幹部を倒したと同義なのだよ。わかるかい?これにより、貴様は我々の抹殺対象となったのだ。」

 「てことは、お前を倒した後も刺客はどんどん送られてくると?」

 俺がそう言うと、リアムズは俺を馬鹿にしたような口調で喋り始める。

 「そういう事だーなぁ!まぁ、万が一にも君たちが勝つことはありえないけどねー。10柱はそれほどに強力なのだよ!」

 リアムズがそう言うと、それを聞いていたリリアルは、今まで黙り込んで閉ざしていた口を開く。

 「リアムズ!私たちはあなたを殺し、先に進みます。それに、この先多くの刺客が送り込まれようとも、私たちは絶対に挫けない!カリオットを倒すその日まで!!」 

 「良いなぁ、私は君たちのような誰にも折れない強い意志と目を持つ奴らの心を完膚なきまでに叩き折り、絶望へと落とすことが何よりの楽しみなのだ!さぁ、直ぐに折れては面白くないからな!存分に抵抗するが良い!!力の源である10柱が1人、リアムズが命ずる。闇の精よ、全てを貫く、不変の棘を作り出し、他の者に絶望を与えよ…『黒薔薇(ブラッディローズ)』!」

 リアムズが詠唱を終え、魔法を唱えた瞬間、至る所から黒い棘が地面から生え始める。そして、その棘は複数に枝分かれを繰り返し、俺たちの方へと向かってきた。

 (おい!おい竜王!起きろ!!)

 《やぁ、ランク…どうしたんだい?》

 (あの魔法はなんなんだ!)

 俺は今の状況と魔法について、簡単に竜王へと説明をした。

 《ほー、あれは黒薔薇(ブラッディローズ)じゃあないか!あの魔法は闇属性の上級魔法の中でもかなり厄介な魔法だねぇ。》

 (あれを止めるにはどうすればいい!?時間が惜しいんだ!急いでくれ!)

 《避けの一択さ。あの魔法は発動者に直接攻撃を当てなければ、半永久的に対象を追いかける。でも、その分消費魔力はそこそこ高い。なんとか隙をついて、リアムズとかいう魔族に攻撃を当てれれば、こちらが有利な方へと持ち込めるだろう。しかし、当てれればの話だけどね…》

 「リリアル!この魔法は基本的に半永久的に発動し続ける!しかし、やつはその分魔力をごっそり奪われるし、やつの体に攻撃さえ当てられれば、この魔法は止められる!それこそが勝機だ!」

 俺はリリアルへ竜王から聞いた情報を全て伝えた。そして、その言葉に対しリリアルは「はい!」と返事をし、俺とリリアルは、二手に別れ魔法による攻撃を始めた。

 「力の源である我が命ずる!光の精よ、天からの光を一点に集め、その光線で何もかもを照らしだせ!『天光道(ライトロード)』!!」

 最初に右からリリアルが光の上級魔法で攻撃を仕掛ける。それによる光は、黒薔薇(ブラッディローズ)を破壊しながらリアムズの方へと向かっていく。それに続くように、俺も左から無詠唱での下級魔法を唱える。

 「指螢(ファイアフライ)!!」

 俺は指から、複数の巨大な炎が凝縮された高濃度の小さな炎の塊を放つ。その炎は、ふわふわと浮遊し、敵へと接近する。

 「ほう、実践ではクソの役にも立たん指螢(ファイアフライ)も無詠唱ではここまでの恐ろしい力となるのか…」

 挟み撃ちにしたことにより、その攻撃は確実に当たるはずだった。ましてや、リリアルの発動した『天光道(ライトロード)』も、俺の発動した『指螢(ファイアフライ)』も必中と言ってもいいほどの高確率で、相手へと攻撃を与えることの出来る魔法だった。だが、やつの…リアムズの能力はそれら全てを反転し、無に変える。

 リアムズはその能力により、『指螢(ファイアフライ)』で作り出した炎を反転させ、一瞬で氷に変えられた。これにより炎は気化。そして、『天光道(ライトロード)』は闇へと変換されてしまい、急な弱点属性への変化により、魔法が属性に耐えられなくなってしまい、消し飛んでしまった。

 「だーかーらー!最初に忠告したでしょ?私の前では全てが無力なのだとね!どんな強者も、私の前ではこの能力に絶望してしまう。それが私の能力…それが私なのだよ!!」

 反転…。現象を反転させることがここまでめんどくさい能力だとは、俺とリリアルは予想だにしていなかった。しかも、リアムズは反転させることにより、いかなる魔法をも弱点属性へと一瞬で変化させる。これが、全ての魔法が取り消される要因となってしまっていて、早急な対処法を考えなければいけない。

 「リリアル、お前こいつのこと倒せる魔法あるか?ちなみに俺はない…」

 「ランク、奇遇ですね…私もそのような魔法は持ち合わせていません…」

 『反転(リバース)』の能力を持つ悪魔に対し、それを破り、打開するための魔法は、俺とリリアルには一切無し。しかも、リアムズの発動した上級魔法『黒薔薇(ブラッディローズ)』は未だに発動しているため、避けながらの思考を余儀なくされている。

 「諦める訳にはいかんが、このままでは確実に二人とも死んでしまう…!動き続けたままだと、思考が上手くまとまらない。このままでは、この状況を打開することは絶対に出来ない…」

 そして俺は、やつへの対処法を考えるために、その場で立ちどまり『黒薔薇(ブラッディローズ)』の複数攻撃をこの身一つに受けるのだった。

【第2章】訪れる真実

 〈リリアルサイド〉

 リリアルとサラは現在、捜索の道を折り返していた。

 作戦では、ランクと会った後に情報交換。そして、道を折り返すというものだったのだが、ランクの消息が分からなくなるという事態が発生してしまう。しかしながら、作戦の遂行のためには、時間にも猶予がないために、2人は、先に道を折り返すこととなった。

 「ランクが消息不明…。先に行った可能性に賭けてはいますが、大丈夫でしょうか。」

 「そうですねぇ…でも、ランクさんはお強いのでしょう?なら大丈夫です!それに、もし敵に出くわしているならば、作戦を実行している可能性があります。それなら、あの場所に来なかったのも納得ですし!」

 「確かにそうですね。敵にあっていたなら作戦通り、まずは逃げの一手を打っているはず。そして、所定の時間に情報交換場所に来た形跡が無いことから、前方にランクは現れるでしょう。なので、私たちは捜索よりも戦いの準備に重点を置きましょう。」

 「了解です!リリアルさん!」

 そしてリリアルは、自らのカバンから自分の魔法の武器を取り出す。それは、直径約20センチほどのステッキで、色は黒みがかった木製のものだった。

 「リリアルさん、それは?」

 サラからの質問に、リリアルはステッキを見せて説明をする。

 「あ、これはですね、私の武器で『滅魔(デビル)の証(ブレイカー)』です!!アンスラル魔法国を出国する前の日に魔法王様からプレゼントされたものでして…」

 リリアルが照れながら、その経緯を話す。すると、サラは「えー!!」と言いながらリリアルへと近づく。

 「魔法王様直々のプレゼントって凄くないですか!?しかもこのステッキ…とても強い魔力を感じます。」

 「そうなんです!この杖には『反悪魔(アンチデビル)』という特性がありまして、悪魔に対して真価を発揮することが出来るんです!」

 その言葉に対し、サラはニッと笑い小さな声で「へぇーなるほど、それはいい情報ですね…」とボソッと呟く。

 「え、なんか言いましたか?」

 「いいえ!なんでもないです…」

 サラが誤魔化すように言ったその言葉を聞くと、リリアルは前へと向き直り捜索を再開した。

 「ただ、しかしですね…」

 「はい?なんですかー?」

 「あなたの、血を頂きたいのですよ!」

 サラはそう言うと、手に潜ませたナイフを持ち、リリアルへと襲いかかった。

 しかしそのナイフは、何かに弾かれたかのように、パキーンという音を立てて後方へと飛んでいく。

 「ふぅ、間に合った…作戦通りって感じかな?リリアルさんよ。」

 「えぇ…バッチリです!ランク!!」

 リリアルが話しかけたその男。そう、そこいたのは消息不明となっていたランクの姿であった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 「な、一体これはどうなって…」

 「まだわかんねぇのか!このペテン師女!おめぇの作戦はお見通しだったんだよ。まぁ、少し誤算もあったがな。それでも、俺たちの計画通りだ。」

 すると、俺の言葉を聞いたサラは「でも、私の聞いた作戦では…」と動揺を隠せないでいるようだった。

 「そういうことですサラさん。あなたは、私たちに対し、1人で行動している人間が狙われていると話していましたよね?しかし、見つかった変死体が一体ずつしか見つかっていないだけであって、一人で行動していたと断定は出来ないはずなんです。」

 「まさかそんな些細なことで?そんなことであなた方はこんな危ない橋を渡ったんですか…!?どちらかが死ぬ可能性が大いにあったんですよ!」

 サラは未だに、状況を飲み込めていないようだった。おそらくその理由には、俺が死んでいなかったというのもあるのだろう。

 「確かにそうだなサラ。それにお前、俺がなんで死んでいないのかって思ってるだろ?お前の計画だと、俺は既に干物になっている予定だったもんなぁ?」

 「な!?そ、そこまでお見通しでしたか…」 

 「まぁ、正直右手がカラカラになった時は焦ったぜ。犯人がお前ということは予想は立っていたが、まさかここまで証拠を出さない不思議な殺し方をするとは思わなかったんでな。」

 そう、俺の片腕の水分が抜けた時。あれは、予想外の出来事だったのだ。攻撃を受けるとは思っていたが、直接ではなかったからだ。しかしながら、やつは失敗したのだ。2人のうち1番強い俺を先に始末しようとしたこと。リリアルから、始末しようとなかったことが、逆にやつを追い詰める結果となっていたのだ。

 「お前が、俺の体の水分を抜き、殺そうとした際、俺は運良く左手だけで済んだ。それは何故か、それを考えた際にとある仮説へと至った。それが影だ。左手の水分な抜けた際、俺の左手のみが影に入っていたんだ。太陽は東から登るが、俺の探索した場所は、村の防壁によってできる影がちょうど俺の方へと向くようになっていた。一方、リリアルの方は、東側なために影にはいる確率がとてつもなく低い。そして、時間帯が早朝だったこと。これは西側を探索するものに、より大きい影が向くようにするためだろう?」

 俺のその仮説に、リリアルも続く。実を言えば、この計画の立案はリリアルである。リリアルは、サラとともに嘘の計画を立てる裏で、俺と真の計画を立てていたのだ。

 「正直、これは賭けでした。私があなたにランクが強いということを嘘の作戦立案の際に言っていたので、ランクを狙うと思っていたのですが、もし私が最初のターゲットになっていれば、作戦は完全に破綻していました。まぁ、成功の確率は半分と言ったものだったので、誤算もありましたが、あなたは私の思う通りに動いてくれました。ありがとうございます。」

 この作戦は、サラが馬鹿正直に俺を狙うことで、成功する作戦だったのだ。まぁ、誤算は誤算だったが、仮に体全体の水分を抜かれたとしても、竜王の力があるので時間があれば回復は出来るんだがな。

  「やっぱり、あんたらおかしい!!私の計画は…計画は完璧だった!こんな奴らごときにこの私が…!」

 サラはカリカリと爪を噛みながら、俺達と距離を取る。おそらく逃げる気だろう。

  「まぁ、この状況じゃあ逃げるのはしょうがないか。生き物としては真っ当な心得だ。だが、駄目だ!絶対に逃がさない。」

 「ふふ…、違いますよ!私の…真の力であなたたちを殺す!そのために距離を取ったのです!『解除(アンロック)』!」

 サラがそう叫んだ瞬間、背中から黒い羽根が生える。そして、額からは禍々しい角も生えていた。そう、それはまさに悪魔の姿であった。

 「へぇー。分かってはいたけどやっぱり魔族か。」

 「私の名は、リアムズ。10柱が1人である。我が完全無欠の能力を前に絶望するがいい!!」

 「ランク!あなたの、見込み通り魔族の犯行でしたね。それよりもリアムズ!本物のサラさんはどこへやったのですか!」

 リリアルがそう質問すると、リアムズは笑いながら話し出す。

 「ふふふ…愚問ですねぇ。殺したに決まっているでしょう!その上で彼女に成り代わったのですよ?私はね!」

 愚問…か。リアムズ、こいつさ本当に魔族のクズ中のクズだ。こんな奴にはそれなりの制裁と然るべき処分が必要である。

 「ふぅ…なるほどな?でもよぉ、お前がクズってことが分かったんだ…。これで気兼ねなく、お前を攻撃できるってもんだぜ!」

 「威勢が良いな、人間。しかしなぁ、私の前では、無力なのだよ。私の能力の前ではね…」

 「ごちゃごちゃうるせぇ!行くぞ!『球炎(ファイアボール)』!!」

 そして、俺の実践初使用の無詠唱魔法を皮切りに、俺たち2人と、10柱が1人、リアムズとの戦いが始まった。

【第2章】隠された悪

 「ランク!!起きてください!出発の時間ですよ!」

 まだ日が昇り切ってない朝、俺はリリアルの可愛らしいモーニングコールで目を覚ました。

 「ふぁ〜。お、リリアルか…もうそんな時間か。」

 「そうですよぉー!じゃあ、準備お願いします!あ、あとですね…き、昨日ことー…なんですけど…覚えていますか?」

 「あ?そう言えば、昨日の記憶が風呂入ってお前らと作戦話し合った後から曖昧なんだよなぁ…それに、何故か頬が痛てぇ。」

 俺がそう言うとリリアルは「よ、良かったぁ」と安堵の声を浮かべていた。

 しかしだ。ふむ、覚えていない?否。全て記憶にはいってマース!いや、だってそうでしょ?あんな奇跡体験普通に覚えてるでしょ。覚えてなきゃ完全にホモだねそれは。

 まぁ、そんなことを正直に言えば、またリリアルのクリティカルビンタが俺の頬をぶち抜くことはもはや明確なので、空気を読んで嘘をつく。これができる大人の対応である。

 「ちょっとお二人さーん!イチャつくのも大概にして、早く支度をしてくださいねー!」

 サラの言葉を聞きリリアルが我に返ったかのように慌てて準備等に取りかかっていた。

 俺も急ぎに、武器や道具の準備などに取り掛かる。何があるかは分からないので、少し多めに準備をしておく。

 「さてと、それじゃあ捜索と行きますか!」

 俺たち3人は宿を後にして、日が登りきる前に捜索するため、急いで付近の砂漠へと赴いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 デザト村は、数ある村の中でも観光業に富んでいるために、比較的に裕福な村である。そのため、面積がとても大きく、大規模な村である。ちなみに、俺の地元であるラック村は、基本的に自給自足の村であるため、規模はあまり大きくはない。

 「じゃあ、ランクさん!リリアルさん!デザト村の周辺を捜索致しましょう!もしかしたら新たな被害者がいる可能性もありますしね!」

 「了解だ。あとよ、被害者って今のところ何人くらいなんだ?」

 「そうですねぇ〜…今のところは3人が発見されていますよ。」

 その3人とは、サラの父、コゴ=ノールと村外からの冒険者だと言う。この話を聞く限りでは、敵は無差別に標的を狙っていることが分かる。しかし、現段階では情報が少なすぎるため、そう断定するのは少々早い可能性がある…。俺たちはあらゆる状況に対処する必要性があるだろう。

 「それでは皆さん!昨日説明した通りの作戦で今日は行きます!二手に別れたあとは、村の外周を捜索し、合流した時点で折り返してもらいます!」

 「了解だ!」

 俺がそう言うとそれに続いて、サラも、「それでは、レッツゴーです!」と声を出す。

 そして俺達は、二手に分かれて、謎のモンスターの捜索に出発した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〈ランクサイド〉

 現在ランクは、捜索を始めてから約1時間が経ち、約半分ほど歩いた地点にいた。相手モンスターの情報は全て謎という点から、一つ一つの気になる箇所を探しながらの捜索になるために、そこそこの時間がかかっていた。

 「うむ、変わったところは全くないな。あいつらの話だと、1人の俺は真っ先に狙われて殺されるという話だったが…」

 《そうだね。確かに変わったことは今のところは全くない。昨日と代わり映えのしないただの砂漠だねぇ。》

 「そうなんだよなぁ。ただ、万が一もがあるからしっかりとした捜索は大事という訳で、手は抜けない。」

 ランクは竜王の力を借りることで、魔力探知を発動させていた。その魔力探知では、半径1km以内の魔力を持つ生物を大小関係なく探ることができる。しかし、生物と物質を判別することが出来なく、魔力を完全に消せる生物の場合は探知が出来ないと言う短所もある。

 「にしても暑いなぁ…しかも、何だか…気持ちの問題かもしれんが、喉がカラカラだ。だが、その割にあまり汗をかいてないんだよな。」

 《カバンに、水の入った水筒があるでしょ?それ飲みなよ。我慢はこういう場合には禁物さ。》

 「あ、そう言えばそうだったな。ナイス竜王!」

 そう言うと、ランクはおもむろにカバンのボタンを外し、中から水の入った水筒を取り出す。

 「ふはぁ〜!うめぇなぁ!こういう暑い日に飲む水はさ!さて、元気になったことだし、捜索再開だ!」

 《お、おい…ランク!!君のその腕!一体どーしたんだ!!》

 「あ?腕??一体何を言って…!?なにィー!!なんだこりゃあ!!」

  ランクのその腕は、ハリのあった腕ではなく、まるで老人のような、細い枯れ木のような腕となっていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〈リリアルサイド〉

 同時刻、ランクと同様にリリアルとサラのペアも約半分ほどの地点へと到達していた。

 「リリアルさん。どうしたんですか?そんな思い詰めた顔して。」

 サラは難しい顔で「うーん…」と考え込んでいるリリアルへと質問をする。

 「実を言うと、少々気になっていたことがあったんです。」

 「気になっていること?」

 サラはリリアルの言葉を復唱するかのように質問をした。その言葉に、リリアルは何かを感じたのか「勘違いしないでくださいね?」と焦りながら言って、言葉を続ける。

 「少し見落としていたのですが、何故この村はこんなに通常通りなのだろうと思いまして…別にサラさんやこの村の人を疑っている訳ではありませんよ!?でも、誰一人としてそれに危機感を感じていないというか…私達もサラさんからその話を聞くまでこの不穏な空気を感じ取れませんでした。」

 その言葉を聞いたサラは「あーそういうことですか。」と一言いって、立ち止まる。

 それ見たリリアルは、一体どうしたのだろうと思い、振り返ってサラの方へとつめよる。

 「私たちの村は観光業で成り立っている村と言いましたよね?実はそれが関係しているのです。」 

 「関係?一体どんな関係が…?」

 「この村は、砂漠に存在している唯一の水と温泉の村と呼ばれています。そのため、この村の観光業には村人総出で尽力しています。だから、観光客の皆様の為にもそれを悟らせないようにしているのです。」

 サラはリリアルに全てを説明した。その村の、デザト村の全てについて。

 「それは…なんというか…とても酷いです!だって、お父さんが亡くなったのにサラさんは悲しめないし、ほかの村人の方々が亡くなっていても、ダメなんですよね!?なんですかそれ!!」

 「ありがとうざいます…リリアルさん!あなたくらいですよ!私たちのことをここまで考えてくれるのは…」

 「いえいえ、当然ですよ!そんなことを決めた人達に説教したいです!」

 その後も、リリアルとサラは村のことについて話しながら、そのまま合流地点へと到着した。

 「早く着きすぎたんですかね?ランクがまだいません。」

 「あれれー、ほんとーですねぇ。ま、先に引き返しましょう!捜索から2時間が経っていますし、もしかしたらランクさん、うっかり先へ行ったのかもしれないです。」

 「うーん…それもそうですねぇ。恐らく、先へ行ったのでしょう!」

 リリアルはそうサラに言うと、リリアルを先頭に2人は道を折り返し始めた。

  現在、ランクは消息不明(既に折り返した可能性があり)。そして、リリアルとサラの2人は折り返していた。

 ただ、捜索中の道を折り返し始めたリリアルは、水面下で動きつつある悪意に気づいていないのであった。

【第2章】謎の存在

 今は、冒険者として旅に出たあと。確かにそうだ。そして、目的地までの5分の2ほどの距離を一日中歩き続け、疲労困憊と言った程だった。そのはずだった。

 「気ん持ち良いぜぇーー!!」

 そう、ここは砂漠に存在するデザト村のオアシスを利用した高級宿だ。通常は貴族や英雄クラスの冒険者が宿泊するような宿だと言う。

 そして、俺は今オアシスを利用した大浴場を利用していた。

 「いやぁ、まさか道に迷った結果でこんな良い宿に泊まれるなんてなぁ…ま、結果オーライってやつか!なぁ、竜王!」

 《おいおい、誰もいないからって声出して僕に喋りかけてこない方がいいんじゃないかい?バレちゃうよ?》

 「大丈夫だろ。それに、やっぱ心の声で話すより実際に声だした方が喋ってる感あっていいな!」

 《はぁ…あと、ランク。君は一つ重大なことを忘れてるよ。》

 「は?重大なこと??何言って…はっ!?」

 俺は自分が重大なことをすっかり忘れてしまっていることを思い出し勢いよく立ち上がる。

 そう、その俺が思い出したこと、それはサラからの依頼である。それは、謎のモンスターの討伐依頼だったのだが、全てが謎ということで村全体でも対策ができなかったらしい。

 「それにしても、謎のモンスターって一体なんなんだろーな。そう言えば、そのモンスターの存在が発覚した経緯とか話してたけど…なんだっけ?」

 《はぁ…確か、変死体の発見じゃなかったっけ?体の水分を抜かれたカラッカラの死体のさ。》

 「それだ!ナイス竜王!!」

 変死体の発見。サラが言うには、その変死体には人間の犯行やただの脱水症状では説明不可能とも言えるほど綺麗に水分が抜かれたらしい。そしてその死体は、死んでからかなりの長い時間が経っている可能性も示唆されたらしいが、その死体の身元は、なんとサラの親父、ゴゴ=ノールだったのだ。そのため、その死体は短期間であの状態となった、という結論に至ったらしい。

 「でもよ、人間じゃ不可能な犯行な訳だから謎のモンスターがやった、という結論に至っているだけだろ?本当にモンスターなのかね。実は、全く違う存在なのかも…」

 俺がそう考えていると、大浴場の扉のとこから声が聞こえた。

 「確かにそうかもしれないですね!」

 それは女性の声だった。あれれー?ここは男の子のお風呂だぞー?

 「おいおい、今の時間は男風呂だぞ。」

 俺がそう言うと後ろから顔を赤くしながらリリアルが出てきた。無論二人ともタオルで体を隠していた。

 「す、すみません!ランク!!サラさんを止められませんでした!!」

 「リ、リリアルまでかよ…」

 そして、俺が顔を逸らすと、サラは「ランクさんむっつりですねー?」と煽ってくる。ぶち殺そうかこの女。

 俺はこのままむっつりのレッテルを貼られたままなのも嫌なので、サラに正論をぶつける。

 「あのなぁ、ここは男風呂だぞ?なんでお前らがここに居るんだって話だぞ!むっつり以前に!」

 俺がそう言うと、サラは「あれ?ここの風呂は時間帯で混浴にもなるって言いませんでしたっけ?」と答える。いや、聞いてねぇよ?おい。

 「まぁ、冗談はさておいてですね、明日の謎のモンスター討伐についてお話し合いを、と思いまして。」

 冗談だったの?と思いつつも、俺は目のやりどころを考えつつ話を聞く。

 「で?明日の何を話し合いたいってんだよ。」

 「あー、それはリリアルさんからまず説明があるらしいのでお願いします!」

 すると、リリアルは顔を赤らめながらも、サラと共に俺のいる湯船に入り説明を始める。

 「こほん!そ、それでは説明しますね!!明日は早朝から調査を始めます。全てが謎のモンスターということなので、付近の砂漠を調査します。」

 「ま、それが無難だろうな。相手は、存在が不明。それに俺は、魔獣や…魔族。その線も考えている。」

 俺がそう言うと「ま、魔獣や魔族!?」サラが驚きの声を上げる。

 まぁ、驚くのも無理はないだろう。ここは魔法国と法国の間に位置する村のひとつだ。危険な魔獣の侵入は愚か、魔族だって入ってこない場所。しかし、2年前の事件でそんなことは関係ないということが発覚している。油断は出来ないのだ。

 「ひとつ言い忘れてたが、俺たち2人は2年前の、魔族による冒険者惨殺事件の生き残りなんだ。だから俺は、魔族は人族の目を掻い潜り、潜伏している可能性は大いにあると考えている。しかも、原因不明の変死体という点や正体が全て謎という点でも、疑って損は無いと思う。」

 すると、サラは「なるほど…」といって納得をする。

 そして、リリアルがバッと片手を挙げて俺の言葉に賛同し、話を始める。

 「確かにそうですね。私もランクに賛成です。それに、早朝から始めるのは正体を突き止めるという理由も含んでいたので、ちょうどよかったですよ!」

 リリアルはそう言うと、次の説明へと移った。

 「あと、正体が不明という点から二手に別れたいと思います。ひとつは私とサラさん。そして、ランクにです。そして、見つけ次第直ぐにその場からまずは逃げてください。正体が不明な以上、直ぐに戦うのは得策ではないと思いますので。」

 するとサラが「あ、それについては私からも補足があります。」といって先程の説明に新たな説明を加える。

 「二手に分かれるのは、正体不明の相手を効率的に探す意味があるんですが、もうひとつあって、実を言うと2人で行動してた人は殺されずに村へつくのですが、一人で行動してる人がそのターゲットとなってしまっているのです。」

  「なるほどなるほど…ん?俺がそいつを誘き出す餌ってことか!?」

 俺はサラの言葉の意味に気づき、質問をする。いやいや、俺だけ殺されちゃうの?

 すると、リリアルはそんな俺を窘めるように話し始める。

 「まぁまぁ、ランク。落ち着いてください!あなたはこの中で一番強いんですし、当たり前じゃないですか!」

 「い、いやそうなんだけどね?確かにそうなんだけどさ、もうちょっと相談とかあったらなーって…」

 俺はリリアルに申し訳なさそうその訳を言う。うん、最近リリアルに全く頭が上がらない。なぜかリーリルにも似てきたってのもあるから、体が条件反射しているのかもしれん。うーん、怖いなぁ…

 すると、その会話を見ていたサラが手をパンパンと叩きながら笑い始める。

 「あっはっは!強さはランクさんの方が上なのに、こういう時はリリアルさんが強いんですね!」

 サラが笑いながらそう言うと、「ち、ちがいますよぉ!からかうのはやめてください!サラさん!」と頬を赤らめながらリリアルは否定する。

 俺はこれ以上からかわれるのも面倒なので、話を無理やり本題へと戻す。

 「それより、本題に戻ろうや。で、俺がその誘き出すための餌となるのは分かったけどよ、見つけたあとは逃げるんだろ?それじゃあ、一生3人で敵に出会えなくないか?」

 「あ、それなら策は練ってあります。実は逃げた後からが本番なのです。」

 俺はその言葉の意味がわからなかったので「どういうことだ?」とリリアルに聞くと、リリアルは直ぐに話し始めた。

 「確かに、1人しか狙わないと言うなら何度やっても3人で出会うことは出来ないでしょう。しかし、逃げることで相手の行動を知ることができます。」

 「行動?」

 俺がリリアルにそう質問をするとリリアルは指を3本上げて見せ、説明を始める。

 「はい。1つは逃げる。2つ目は追ってくる。3つ目はその他です。1つ目の場合、次回までに策を練り、討伐という流れで、2つ目の場合は逃げてきたランクと私たちが合流してそのまま迎え撃ちます。」

 「なるほど、確かに力が未知数の相手ならそれが得策だろうな。で?その他ってのは?」  

 するとリリアルは難しい顔をしながらその説明をし始める。

 「その3つ目ですが、相手が予想を超える行動をした場合です。」

 「予想を超える?」

 「はい。敵は人を殺害する方法に体の水分を抜き取る方法を採用しています。それがもし、私たちの想像を超える方法だとしたらどうします?」

 「なるほどな。遭遇した瞬間、水分を抜き取られて即死もあり得ると?」

 「そういうことです…」

 確かにありえない話ではなかった。俺たちは敵のことを知らなすぎる。そんな相手を敵とするなど、とても危険であり、まさに危ない橋を渡るという事だ。

 「たしかに、その場合だとまずいな。片方は気付かれずに殺される可能性があるってことだ。だから、まずは逃げるという一択という訳だな?」

 「はい。1人でも生きていることが今回の作戦で最も重要なのです!!」

  リリアルは自慢げに、褒めてもいいんですよ?と言わんばかりのドヤ顔をこちらへ向けてくる。はいはい、偉いねリリアルさん。

 「ま、とりあえずは明日の早朝3人で捜索ってことだな!」

 「はい!そうです!」

 俺がリリアルに確認を取ると、その横からサラも会話に入ってくる。

 「いいですね!決まりましたね!!それじゃあ、明日の捜索の成功を願って頑張るぞー!!です!!」

 サラはそう言うと、「おー!!」と声を上げ立ち上がる。

 いきなりのことに少々困惑しながら、サラのそれに続くように、俺も「お、おー」といって手をあげると、その横でリリアルも「お、おー!!」と勢いよく立ち上がった。

 だが、その瞬間バサッ!と勢いよくタオルが肌ける。そう、それはリリアルのだった。

 「あ、あー…!きゃあー!!!」

 そして、俺はそのリリアルの穢れのない体を見てしまった対価だろうか。悲鳴を上げたリリアルに思いっきりぶっ叩かれる。

 その瞬間、俺は叩かれた勢いで、風呂の中へと倒れ込む。

 ま、リリアルの裸見れたので、我が人生に一遍の悔いなし…!なんてことは無く、悔いありありのまんま、その日の夜、俺は気を失ってしまった。

【第2章】砂の村

 現在の気温およそ40度。灼熱の太陽、地平線いっぱいに広がる砂…そう、ここは砂漠。アンスラル魔法国を出ておよそ2日が経過していて、俺たちは5分の2ほど歩いた地点にいた。

 ちなみに、何故ここまで遅いのか。馬に風魔法を付与し、加速をすれば法国へはもう着いてもいい頃なのに、何故こうも遅いのか。それにはちょっとした事情があった。

 「まさか、馬が全て出払っていたとは思いませんでしたね。」

 「あぁ、まさかだったよ。馬が貴族の連中に全て貸し出されるなんて…恐るべし冒険者適性試験。それにしても暑い…」

 俺は暑さに耐えながら、リリアルと会話を交わしていた。

 そう、その事情とは冒険者適性試験にあった。俺とリリアルが出発したのがちょうど2年ぶりに行われる冒険者適性試験とかぶったのだが、地方貴族を中心街へと連れていく馬車のために馬が全て出払ってしまったというのだ。

 「しかもなんだ、村がひとつも見当たらん。師匠の話だと2つ村があるって話だったが…」

 その言葉を聞いたリリアルが俺の肩をポンポンと叩いてきた。

 「ランク、ランク。あれじゃないですか?例の2つのうちの1つの村って…」

 するとそこには砂漠という場所には、不似合いな周囲からとても浮いている場所があった。水が沢山あり、まるで湖のようだった。だが、何かおかしい。

 だが、リリアルは疑うことなく我先にと「先に行って水をもらっておきます!」と言って走っていってしまった。

 「おい、リリアルちょっとまっ…」

 俺が待てと言おうとした瞬間、その場所へ走っていたリリアルはダイナミックにそこへ飛び込んだ。湖のような場所に入り体を冷やしたかったのだろう。しかし、その願いは叶わず、リリアルは「ぶへぇ!」と嗚咽を上げながら顔面から砂へと飛び込む。

 「なんですかこれ!!水ないじゃないですか!!ただの砂ですよ!?」

 リリアルが怒りと驚きの声をあげる。

 「たしかに、近づいて見てハッキリわかったが、遠くからだとほんとに水に見えていた。一体どういうことだ?」

 俺はそんな事を考えながら、倒れているリリアルを起こす。

 すると、「おーい!」と遠くから見知らぬ声がする。声の主からして女性であるのは間違いないが、見る限り知り合いではない。

 「おいリリアル。あれ、お前の知り合いか?」

 「いえ、知りません。敵ですかね?」

 そう言うと、リリアルは先程の間抜けだった時とは打って変わって、戦闘態勢に入った。流石は貴族の元従者。

 「大丈夫、敵ではないだろう。あれは敵意と言うよりは完全に善意だ。」

 すると、その女性は「大丈夫でしたか!?」と言いながらこちらへと駆け寄ってきた。どうやら本当に俺たちに用事があったようだ。

 「あんたは一体誰なんだ?」

 俺がそう質問すると、その女性は指をピンと伸ばし、開いた片手をおでこの辺りにサッと上げ自己紹介を始める。

 「これは失礼、申し遅れました!私はデザト村の自警団をやっております、冒険者のサラ=ノールです!!」

 「これはどうも、ご丁寧に…じゃなくて!どういう要件なんですか?」

 リリアルがそう質問すると、サラは事の経緯を説明し始める。

 「この砂漠の蜃気楼地帯で、迷っておられる冒険者の男女2人がいるとのことを村の人間から聞きまして、急いで来た次第です!」

 「蜃気楼…?もしかして、さっきただの砂が湖に見えたのって蜃気楼か?」

 「はい!そうですね!ここら一帯は蜃気楼地帯と言われておりまして、ここに入ってしまうと、蜃気楼に惑わされてグルグルと回ってしまうのです。」

 道理で村につかないわけですね。そりゃ、いつまで経っても暑いっすわ。

 俺が肩を落とし、そう思っていると、リリアルがサラへとある提案をする。

 「すみません。私たちが行きたい村があなたのいるデザト村なのですが、連れてってもらったりって出来ます?」

 リリアルはサラへとした提案とは、デザト村までの案内だった。ナイス、リリアル!さすが俺の仲間!!

 「はい!私もそのつもりで来ましたので、問題ないですよ!それでは早速行きましょう!!」

 こうして、俺とリリアルは無事に、サラの案内でブレイン法国に行くまでの最初の休憩地点のデザト村へとたどり着けた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〈デザト村〉

 この村の名はデザト村。この村にはオアシスがあり、砂漠で迷った冒険者を助けたり、その冒険者の休む場所の提供等で栄えている村だ。ちなみにブレイン法国の統治下にある村でもある。

 「なるほど!お二人はブレイン法国をお目指しになっているのですね!!」

 「そうなんですよ!でも、馬を1匹も借りれなくて、歩いてここまで来ました …」

 リリアルがそう言うと、サラは「えぇ!?」と驚きの声を上げる。

 「アンスラル魔法国からデザト村ってすごい距離ありますよ!?道理でそんなにぐったりとしてらっしゃるわけですね…お察しします。」

 勝手に察されてしまった。まぁ、本当に疲れたので、一目瞭然という程に俺とリリアルは服などが砂で汚れていた。

 「このデザト村には、旅で疲れた皆様を癒すために様々なオアシスを利用した施設があります!ぜひ、立ち寄ってください!」

 これは宿とかも紹介してもらえるかもと思った俺はすかさずその事を聞く。宿関係に関しては、2年前に苦い思いをしているからなぁ、俺。

 「ありがたい!あと、ちょうど宿とかも探してたんだよ。流石に2日連続の野宿は辛いからなぁ。」

 すると、サラはパァと顔を明るくさせて、「いい宿があるんです!!」と言ってきた。

 これは期待ができる!と思いながら、俺とリリアルはサラへとついて行った。

 この村は俺のいたラック村と違いそこそこに大きい。さすがは冒険者を相手に観光業をしている村なだけはある。

 そんなことを思って、村を見ながら歩いているとサラが立ち止まる。どうやら着いたようだ。

 「ここです!」

 「わぁ!すごいです!!」

 そこは、宿というには少しばかり大きく、豪華な場所だった。2年前まではボロ宿を利用していた俺はこの宿を前に、少々心臓が高まっていた。

 「ほんとにこんなとこ泊まっていいのか!?」

 すると、サラは「はい!」と言いながらニヤニヤしている。うーん?なんかおかしくなーい?

 「やったー!!ランク!行きましょう!!」

 リリアルがなんの疑いもなくその場所へ入ろうとする。

 「ちょーっと待て!リリアル!」

 しかし、俺の言葉虚しく「へ?」という声を出してリリアルは敷地内へと入ってしまう。

 すると、サラは「おめでとうございまーす!!」と言って俺とリリアルに近づいてくる。

 「あなた方はここの宿泊者として登録されましたー!!と、言うことでお代は結構!!その代わりとあるモンスターを討伐していただきたい!!」

 うわぁー。やっぱりねー…うまい話には裏があるとは言うが、もはや裏過ぎて表だなこりゃ。いや、表いっちゃうのかよ。

 「あのーサラさん?ちなみに断ったら…」

 リリアルがそう質問しようとすると、サラは顔を近づけ、「そうですねぇ…一日の宿泊の合計なので、約10万ゴールドですね!」とニコニコしながら言ってきた。こっわ!その笑顔こっわ!笑顔ってそんなに怖くないはずなんだけどなぁ。

 「はぁ…どうせキャンセルもできないんだろ?分かった。やってやるよ、その依頼。」

 断れば、通常の宿の100倍の大金の10万ゴールドを支払わなければならなくなる。正直こちらには断る理由等はなかった。

 「はい!お願いします!」

 サラはそう言うと、元気な声で「ありがどうございます!」とお辞儀をしてくる。

 こうして、俺とリリアルの冒険者としての初仕事は、宿への宿泊代の代わりとして、半ば無理矢理始まることとなったのだった。