【第2章】訪れる真実
〈リリアルサイド〉
リリアルとサラは現在、捜索の道を折り返していた。
作戦では、ランクと会った後に情報交換。そして、道を折り返すというものだったのだが、ランクの消息が分からなくなるという事態が発生してしまう。しかしながら、作戦の遂行のためには、時間にも猶予がないために、2人は、先に道を折り返すこととなった。
「ランクが消息不明…。先に行った可能性に賭けてはいますが、大丈夫でしょうか。」
「そうですねぇ…でも、ランクさんはお強いのでしょう?なら大丈夫です!それに、もし敵に出くわしているならば、作戦を実行している可能性があります。それなら、あの場所に来なかったのも納得ですし!」
「確かにそうですね。敵にあっていたなら作戦通り、まずは逃げの一手を打っているはず。そして、所定の時間に情報交換場所に来た形跡が無いことから、前方にランクは現れるでしょう。なので、私たちは捜索よりも戦いの準備に重点を置きましょう。」
「了解です!リリアルさん!」
そしてリリアルは、自らのカバンから自分の魔法の武器を取り出す。それは、直径約20センチほどのステッキで、色は黒みがかった木製のものだった。
「リリアルさん、それは?」
サラからの質問に、リリアルはステッキを見せて説明をする。
「あ、これはですね、私の武器で『滅魔(デビル)の証(ブレイカー)』です!!アンスラル魔法国を出国する前の日に魔法王様からプレゼントされたものでして…」
リリアルが照れながら、その経緯を話す。すると、サラは「えー!!」と言いながらリリアルへと近づく。
「魔法王様直々のプレゼントって凄くないですか!?しかもこのステッキ…とても強い魔力を感じます。」
「そうなんです!この杖には『反悪魔(アンチデビル)』という特性がありまして、悪魔に対して真価を発揮することが出来るんです!」
その言葉に対し、サラはニッと笑い小さな声で「へぇーなるほど、それはいい情報ですね…」とボソッと呟く。
「え、なんか言いましたか?」
「いいえ!なんでもないです…」
サラが誤魔化すように言ったその言葉を聞くと、リリアルは前へと向き直り捜索を再開した。
「ただ、しかしですね…」
「はい?なんですかー?」
「あなたの、血を頂きたいのですよ!」
サラはそう言うと、手に潜ませたナイフを持ち、リリアルへと襲いかかった。
しかしそのナイフは、何かに弾かれたかのように、パキーンという音を立てて後方へと飛んでいく。
「ふぅ、間に合った…作戦通りって感じかな?リリアルさんよ。」
「えぇ…バッチリです!ランク!!」
リリアルが話しかけたその男。そう、そこいたのは消息不明となっていたランクの姿であった。
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「な、一体これはどうなって…」
「まだわかんねぇのか!このペテン師女!おめぇの作戦はお見通しだったんだよ。まぁ、少し誤算もあったがな。それでも、俺たちの計画通りだ。」
すると、俺の言葉を聞いたサラは「でも、私の聞いた作戦では…」と動揺を隠せないでいるようだった。
「そういうことですサラさん。あなたは、私たちに対し、1人で行動している人間が狙われていると話していましたよね?しかし、見つかった変死体が一体ずつしか見つかっていないだけであって、一人で行動していたと断定は出来ないはずなんです。」
「まさかそんな些細なことで?そんなことであなた方はこんな危ない橋を渡ったんですか…!?どちらかが死ぬ可能性が大いにあったんですよ!」
サラは未だに、状況を飲み込めていないようだった。おそらくその理由には、俺が死んでいなかったというのもあるのだろう。
「確かにそうだなサラ。それにお前、俺がなんで死んでいないのかって思ってるだろ?お前の計画だと、俺は既に干物になっている予定だったもんなぁ?」
「な!?そ、そこまでお見通しでしたか…」
「まぁ、正直右手がカラカラになった時は焦ったぜ。犯人がお前ということは予想は立っていたが、まさかここまで証拠を出さない不思議な殺し方をするとは思わなかったんでな。」
そう、俺の片腕の水分が抜けた時。あれは、予想外の出来事だったのだ。攻撃を受けるとは思っていたが、直接ではなかったからだ。しかしながら、やつは失敗したのだ。2人のうち1番強い俺を先に始末しようとしたこと。リリアルから、始末しようとなかったことが、逆にやつを追い詰める結果となっていたのだ。
「お前が、俺の体の水分を抜き、殺そうとした際、俺は運良く左手だけで済んだ。それは何故か、それを考えた際にとある仮説へと至った。それが影だ。左手の水分な抜けた際、俺の左手のみが影に入っていたんだ。太陽は東から登るが、俺の探索した場所は、村の防壁によってできる影がちょうど俺の方へと向くようになっていた。一方、リリアルの方は、東側なために影にはいる確率がとてつもなく低い。そして、時間帯が早朝だったこと。これは西側を探索するものに、より大きい影が向くようにするためだろう?」
俺のその仮説に、リリアルも続く。実を言えば、この計画の立案はリリアルである。リリアルは、サラとともに嘘の計画を立てる裏で、俺と真の計画を立てていたのだ。
「正直、これは賭けでした。私があなたにランクが強いということを嘘の作戦立案の際に言っていたので、ランクを狙うと思っていたのですが、もし私が最初のターゲットになっていれば、作戦は完全に破綻していました。まぁ、成功の確率は半分と言ったものだったので、誤算もありましたが、あなたは私の思う通りに動いてくれました。ありがとうございます。」
この作戦は、サラが馬鹿正直に俺を狙うことで、成功する作戦だったのだ。まぁ、誤算は誤算だったが、仮に体全体の水分を抜かれたとしても、竜王の力があるので時間があれば回復は出来るんだがな。
「やっぱり、あんたらおかしい!!私の計画は…計画は完璧だった!こんな奴らごときにこの私が…!」
サラはカリカリと爪を噛みながら、俺達と距離を取る。おそらく逃げる気だろう。
「まぁ、この状況じゃあ逃げるのはしょうがないか。生き物としては真っ当な心得だ。だが、駄目だ!絶対に逃がさない。」
「ふふ…、違いますよ!私の…真の力であなたたちを殺す!そのために距離を取ったのです!『解除(アンロック)』!」
サラがそう叫んだ瞬間、背中から黒い羽根が生える。そして、額からは禍々しい角も生えていた。そう、それはまさに悪魔の姿であった。
「へぇー。分かってはいたけどやっぱり魔族か。」
「私の名は、リアムズ。10柱が1人である。我が完全無欠の能力を前に絶望するがいい!!」
「ランク!あなたの、見込み通り魔族の犯行でしたね。それよりもリアムズ!本物のサラさんはどこへやったのですか!」
リリアルがそう質問すると、リアムズは笑いながら話し出す。
「ふふふ…愚問ですねぇ。殺したに決まっているでしょう!その上で彼女に成り代わったのですよ?私はね!」
愚問…か。リアムズ、こいつさ本当に魔族のクズ中のクズだ。こんな奴にはそれなりの制裁と然るべき処分が必要である。
「ふぅ…なるほどな?でもよぉ、お前がクズってことが分かったんだ…。これで気兼ねなく、お前を攻撃できるってもんだぜ!」
「威勢が良いな、人間。しかしなぁ、私の前では、無力なのだよ。私の能力の前ではね…」
「ごちゃごちゃうるせぇ!行くぞ!『球炎(ファイアボール)』!!」
そして、俺の実践初使用の無詠唱魔法を皮切りに、俺たち2人と、10柱が1人、リアムズとの戦いが始まった。