【第2章】謎の存在
今は、冒険者として旅に出たあと。確かにそうだ。そして、目的地までの5分の2ほどの距離を一日中歩き続け、疲労困憊と言った程だった。そのはずだった。
「気ん持ち良いぜぇーー!!」
そう、ここは砂漠に存在するデザト村のオアシスを利用した高級宿だ。通常は貴族や英雄クラスの冒険者が宿泊するような宿だと言う。
そして、俺は今オアシスを利用した大浴場を利用していた。
「いやぁ、まさか道に迷った結果でこんな良い宿に泊まれるなんてなぁ…ま、結果オーライってやつか!なぁ、竜王!」
《おいおい、誰もいないからって声出して僕に喋りかけてこない方がいいんじゃないかい?バレちゃうよ?》
「大丈夫だろ。それに、やっぱ心の声で話すより実際に声だした方が喋ってる感あっていいな!」
《はぁ…あと、ランク。君は一つ重大なことを忘れてるよ。》
「は?重大なこと??何言って…はっ!?」
俺は自分が重大なことをすっかり忘れてしまっていることを思い出し勢いよく立ち上がる。
そう、その俺が思い出したこと、それはサラからの依頼である。それは、謎のモンスターの討伐依頼だったのだが、全てが謎ということで村全体でも対策ができなかったらしい。
「それにしても、謎のモンスターって一体なんなんだろーな。そう言えば、そのモンスターの存在が発覚した経緯とか話してたけど…なんだっけ?」
《はぁ…確か、変死体の発見じゃなかったっけ?体の水分を抜かれたカラッカラの死体のさ。》
「それだ!ナイス竜王!!」
変死体の発見。サラが言うには、その変死体には人間の犯行やただの脱水症状では説明不可能とも言えるほど綺麗に水分が抜かれたらしい。そしてその死体は、死んでからかなりの長い時間が経っている可能性も示唆されたらしいが、その死体の身元は、なんとサラの親父、ゴゴ=ノールだったのだ。そのため、その死体は短期間であの状態となった、という結論に至ったらしい。
「でもよ、人間じゃ不可能な犯行な訳だから謎のモンスターがやった、という結論に至っているだけだろ?本当にモンスターなのかね。実は、全く違う存在なのかも…」
俺がそう考えていると、大浴場の扉のとこから声が聞こえた。
「確かにそうかもしれないですね!」
それは女性の声だった。あれれー?ここは男の子のお風呂だぞー?
「おいおい、今の時間は男風呂だぞ。」
俺がそう言うと後ろから顔を赤くしながらリリアルが出てきた。無論二人ともタオルで体を隠していた。
「す、すみません!ランク!!サラさんを止められませんでした!!」
「リ、リリアルまでかよ…」
そして、俺が顔を逸らすと、サラは「ランクさんむっつりですねー?」と煽ってくる。ぶち殺そうかこの女。
俺はこのままむっつりのレッテルを貼られたままなのも嫌なので、サラに正論をぶつける。
「あのなぁ、ここは男風呂だぞ?なんでお前らがここに居るんだって話だぞ!むっつり以前に!」
俺がそう言うと、サラは「あれ?ここの風呂は時間帯で混浴にもなるって言いませんでしたっけ?」と答える。いや、聞いてねぇよ?おい。
「まぁ、冗談はさておいてですね、明日の謎のモンスター討伐についてお話し合いを、と思いまして。」
冗談だったの?と思いつつも、俺は目のやりどころを考えつつ話を聞く。
「で?明日の何を話し合いたいってんだよ。」
「あー、それはリリアルさんからまず説明があるらしいのでお願いします!」
すると、リリアルは顔を赤らめながらも、サラと共に俺のいる湯船に入り説明を始める。
「こほん!そ、それでは説明しますね!!明日は早朝から調査を始めます。全てが謎のモンスターということなので、付近の砂漠を調査します。」
「ま、それが無難だろうな。相手は、存在が不明。それに俺は、魔獣や…魔族。その線も考えている。」
俺がそう言うと「ま、魔獣や魔族!?」サラが驚きの声を上げる。
まぁ、驚くのも無理はないだろう。ここは魔法国と法国の間に位置する村のひとつだ。危険な魔獣の侵入は愚か、魔族だって入ってこない場所。しかし、2年前の事件でそんなことは関係ないということが発覚している。油断は出来ないのだ。
「ひとつ言い忘れてたが、俺たち2人は2年前の、魔族による冒険者惨殺事件の生き残りなんだ。だから俺は、魔族は人族の目を掻い潜り、潜伏している可能性は大いにあると考えている。しかも、原因不明の変死体という点や正体が全て謎という点でも、疑って損は無いと思う。」
すると、サラは「なるほど…」といって納得をする。
そして、リリアルがバッと片手を挙げて俺の言葉に賛同し、話を始める。
「確かにそうですね。私もランクに賛成です。それに、早朝から始めるのは正体を突き止めるという理由も含んでいたので、ちょうどよかったですよ!」
リリアルはそう言うと、次の説明へと移った。
「あと、正体が不明という点から二手に別れたいと思います。ひとつは私とサラさん。そして、ランクにです。そして、見つけ次第直ぐにその場からまずは逃げてください。正体が不明な以上、直ぐに戦うのは得策ではないと思いますので。」
するとサラが「あ、それについては私からも補足があります。」といって先程の説明に新たな説明を加える。
「二手に分かれるのは、正体不明の相手を効率的に探す意味があるんですが、もうひとつあって、実を言うと2人で行動してた人は殺されずに村へつくのですが、一人で行動してる人がそのターゲットとなってしまっているのです。」
「なるほどなるほど…ん?俺がそいつを誘き出す餌ってことか!?」
俺はサラの言葉の意味に気づき、質問をする。いやいや、俺だけ殺されちゃうの?
すると、リリアルはそんな俺を窘めるように話し始める。
「まぁまぁ、ランク。落ち着いてください!あなたはこの中で一番強いんですし、当たり前じゃないですか!」
「い、いやそうなんだけどね?確かにそうなんだけどさ、もうちょっと相談とかあったらなーって…」
俺はリリアルに申し訳なさそうその訳を言う。うん、最近リリアルに全く頭が上がらない。なぜかリーリルにも似てきたってのもあるから、体が条件反射しているのかもしれん。うーん、怖いなぁ…
すると、その会話を見ていたサラが手をパンパンと叩きながら笑い始める。
「あっはっは!強さはランクさんの方が上なのに、こういう時はリリアルさんが強いんですね!」
サラが笑いながらそう言うと、「ち、ちがいますよぉ!からかうのはやめてください!サラさん!」と頬を赤らめながらリリアルは否定する。
俺はこれ以上からかわれるのも面倒なので、話を無理やり本題へと戻す。
「それより、本題に戻ろうや。で、俺がその誘き出すための餌となるのは分かったけどよ、見つけたあとは逃げるんだろ?それじゃあ、一生3人で敵に出会えなくないか?」
「あ、それなら策は練ってあります。実は逃げた後からが本番なのです。」
俺はその言葉の意味がわからなかったので「どういうことだ?」とリリアルに聞くと、リリアルは直ぐに話し始めた。
「確かに、1人しか狙わないと言うなら何度やっても3人で出会うことは出来ないでしょう。しかし、逃げることで相手の行動を知ることができます。」
「行動?」
俺がリリアルにそう質問をするとリリアルは指を3本上げて見せ、説明を始める。
「はい。1つは逃げる。2つ目は追ってくる。3つ目はその他です。1つ目の場合、次回までに策を練り、討伐という流れで、2つ目の場合は逃げてきたランクと私たちが合流してそのまま迎え撃ちます。」
「なるほど、確かに力が未知数の相手ならそれが得策だろうな。で?その他ってのは?」
するとリリアルは難しい顔をしながらその説明をし始める。
「その3つ目ですが、相手が予想を超える行動をした場合です。」
「予想を超える?」
「はい。敵は人を殺害する方法に体の水分を抜き取る方法を採用しています。それがもし、私たちの想像を超える方法だとしたらどうします?」
「なるほどな。遭遇した瞬間、水分を抜き取られて即死もあり得ると?」
「そういうことです…」
確かにありえない話ではなかった。俺たちは敵のことを知らなすぎる。そんな相手を敵とするなど、とても危険であり、まさに危ない橋を渡るという事だ。
「たしかに、その場合だとまずいな。片方は気付かれずに殺される可能性があるってことだ。だから、まずは逃げるという一択という訳だな?」
「はい。1人でも生きていることが今回の作戦で最も重要なのです!!」
リリアルは自慢げに、褒めてもいいんですよ?と言わんばかりのドヤ顔をこちらへ向けてくる。はいはい、偉いねリリアルさん。
「ま、とりあえずは明日の早朝3人で捜索ってことだな!」
「はい!そうです!」
俺がリリアルに確認を取ると、その横からサラも会話に入ってくる。
「いいですね!決まりましたね!!それじゃあ、明日の捜索の成功を願って頑張るぞー!!です!!」
サラはそう言うと、「おー!!」と声を上げ立ち上がる。
いきなりのことに少々困惑しながら、サラのそれに続くように、俺も「お、おー」といって手をあげると、その横でリリアルも「お、おー!!」と勢いよく立ち上がった。
だが、その瞬間バサッ!と勢いよくタオルが肌ける。そう、それはリリアルのだった。
「あ、あー…!きゃあー!!!」
そして、俺はそのリリアルの穢れのない体を見てしまった対価だろうか。悲鳴を上げたリリアルに思いっきりぶっ叩かれる。
その瞬間、俺は叩かれた勢いで、風呂の中へと倒れ込む。
ま、リリアルの裸見れたので、我が人生に一遍の悔いなし…!なんてことは無く、悔いありありのまんま、その日の夜、俺は気を失ってしまった。