【第2章】真実と代償
「私が…私たちが貴様を、主にランク=アインメルト…貴様の命を狙っている理由は、単にカリオット様の分身を倒したことが理由ではない。それだけならば、私たちへの脅威とはなり得ない。」
「なら、なんで俺たちを襲った。それにお前は、これからも10柱は刺客として襲ってくる…そう言っていたな?」
俺は、リアムズへそう質問した。それは、俺が思っていた、想定していた答えと違うものからリアムズの口から発されたからである。俺は、魔族が俺とリリアルを狙っているのは、カリオットの分身を倒した報復だと思っていたからだ。しかし、それはどうも違っていたようだ。
「ランク=アインメルト。貴様の、その“力”だ。古いにしえの王の力…それが私たち魔王軍に衝撃を与えたのだ。カリオット様の分身を通して、貴様の戦いぶりは魔王様はもちろんのこと、全ての幹部、10柱へと伝えられた。貴様は、意図せずに私たちへの宣戦布告を行ってしまったのだよ…」
「古の王の力…?まさか…」
リアムズの言うその力。それはまさにあ・の・力・だった。そう、竜王の力である。俺は、この全く予想外の状況を知るため、竜王を早速問いただす。
(おい、竜王!お前こりゃあどういうことだよ!)
《あぁ、話は全て君を通して聞いていたが、まさか意図せず君がやっていたとはねぇ…僕はてっきり、魔王軍に喧嘩を売るつもりで僕の力を行使したのかと思ったよ?》
(いやいやいや!あれは、あの状況を打破するためであって…いや、でもあそこでお前の力を使わなければ全員を助けられなかったわけだし…あぁ!もう!こうなったらやってやろうじゃあねぇか!!魔王軍との全面戦争!!)
俺は、四肢を失ったリアムズにドスドスと近づき、そこでしゃがみこみ、指を指した。
「意図せずだと?リアムズ…何か勘違いしているようだが、俺は意図せずやったんじゃあない。意図してやったんだ。お前の言うその宣・戦・布・告・。あぁ…そうだぜ。2年前、カリオットの野郎の分身をぶっ殺してやった時、俺はお前ら全員を…一体も残さずに殺し尽くすと決心したんだ!この決心は、俺の人生の『決断』であり、俺が歩むべき、『運命』そのものだ!」
「なるほどなぁ…その決心、敵ながらアッパレと言う他言葉が、見つからんな…」
「ありがとよ。そんなことより、お前の今回の事件の計画を言いやがれ!時間稼ぎのつもりならよぉ…また、ナイフをぶっ刺してもいいんだぜ?」
「わ、私は能力ゆえに痛みには弱いんだ!話すから勘弁してくれ!!」
リアムズは先程の拷問の恐怖からなのか、体と声を震わせて直ぐにその計画の全貌を話し始めた。
「まずは、私が所属している10柱について。10柱は現在、10体の幹部候補とも呼ばれる魔族が、『力柱』、『心柱』、『音柱』、『知柱』、『楽柱』、『喜柱』、『悲柱』、『苦柱』、『怒柱』、『無柱』をになっている。ちなみに私は、心柱だ。そのうちの知柱は以前は幹部と掛け持ちでカリオット様がになっていたが、つい最近になって補充されたと聞く。基本私たちは、ほかの10柱のことは顔すらも知らない。それは、内部分裂を避けるためだと言われている。」
「なるほど。ちなみに、お前をのことを俺たちが倒した場合にはその『心柱』は補充されるのか?」
「いや、その確率はほぼ無いだろう。柱レベルの魔族が生まれるなど、ほぼないと断言出来る。知柱を任されたその魔族はいわゆる天才だったのだろうな。」
リアムズの言ったその情報、それは、とても有益な情報だった。なぜなら、この世界では、昔から人間と魔族が交戦状態にあった。しかしながら、お互いに膠着状態を保っていて、上位の存在の情報はお互いにあまり知らないからだ。要するに、10柱という幹部候補の魔族の組織の情報もあまり確かなものではなかったのだ。この10柱が刺客として、送り込まれてくるという状況下においてそれは、こちらの立場を有利にする可能性もある大きな情報だった。
「それで?10柱という組織がそういった構成であることは理解した。次はお前の今回の計画についてだ。」
「あぁ。今回の指令は魔王様からの直接のものだった。それは、緊急を要するものということを意味している。命令の内容とは『アンスラル魔法国を出立したランク=アインメルトとその仲間、リリアル=リーチェの首を持ち帰れ』というものだった。私は、貴様らのことは2年前の事件で知っていたので、直ぐにおそらく立ち寄るであろうこの『デザト村』へと向かった。そこで、私はその村の村人を洗脳し、支配下に置いた。そして、急ぎで干からびた死体を作り、謎のモンスターによる殺人事件をでっち上げたのだ。」
リアムズの口から語られたそれは、衝撃の2文字では言い表せないほどのものだった。俺とリリアルは今回起こってる事件がリアムズが起こしたものだということだと予測はしていた。しかしながら、その事件のでっち上げを行ったのが、俺とリリアルがデザト村周辺に着くまでに起こっていたという事は全くの予想外のものだったからだ。恐らくは、俺たちが蜃気楼に合うことも想定して、作戦を短期間で完成させたのだろう。
「村の建物等には一切の傷などがなく、そこで戦闘が行われた形跡も全くなかった。だから、恐怖と脅しなどでの村人への精神操作では無いことは、踏んでいた。リリアルには『精神干渉魔法マインドサーチ』でそれを探って貰おうとしていたが、お前の存在そのものや計画、そういった根本的なものは探ることは出来なかった…なるほどな、お前の『精神操作魔法コントロールマインド』が原因だったのか。」
「その通りだ。精神系の特殊魔法を施した人間に対し、精神系の魔法を上書きすることは不可能。私が施した『精神操作魔法コントロールマインド』では、『命令の遵守』と『術者の秘密の保護』を命令していた。だから、私の存在自体を探ることは出来なかったのだよ。」
俺とリリアルが、デザト村付近へと到着したのは、出発してからおよそ2日ほど経った頃だった。その短い時間で村人全員に特殊魔法をかける…それは、全く簡単なことではなく、普通は1ヵ月はかかる作業だ。10柱というのは非常になめられない存在である。事実、リリアルが回復魔法を習得してなければ、このようにリアムズから情報を引き出すことは出来なかった。今回の勝利は、運が良かったというのもあったのかもしれない。
「次を聞くが、お前の魔法は解除できるのか?」
「可能だ。私を殺せば、魔法は解除されるはずだ。」
俺がその答えを聞き、安堵していると、後ろからリリアルが出てきて、リアムズへと質問をする。
「私からも一つ質問があります。あなた方は、人間を殺したり、操ったりすることに抵抗や罪悪感と言ったものは無いのですか?」
「そんなもの、あるわけないだろ?私たちにあるのは、魔族として魔王様の命令を遂行すること。ただそれだけだ。下等な人間風情に感情移入をするわけが無いだろう?」
「こ、この外道が…!!あなたは考えたことは無いのですか!いつも通りの幸せな…平穏な生活をする人達が突然、一瞬にしてその幸せを奪われる悲しみを!!私は知っています。それは、絶望という言葉だけでは語り尽くせないほどの圧倒的な負の感情が押し寄せる。そんな体験です。あなたにはこの気持ちが理解できないのですか!!」
すると、リアムズは鼻で笑いながら、リリアルへと言葉を返す。
「ならば逆に質問するが、貴様らは魔族に対してそういった同情に近い感情を抱くのか?抱かないであろう?普通なら、殺したい。そう考えるはずだ。」
「違います!!あなたたちと私たちでは…根本的に、全く違うのです!!」
リリアルは言葉をつまらせながら、そう答えた。リアムズのその質問。確かにそれは、確信をつくようなそんな質問だった。決して、揚げ足取りとかそういうのではなく、ただ単純に俺たち人族が魔族に対する憎悪と、魔族が人間に対する憎悪が同じなのか否かというそんな質問。リリアルが、それに対し言葉を詰まらせるのは至極当然なこと。正常な判断の出来る心の持ち主ならば、それは必然的なものなのである。
だがしかし、俺は違う。俺は正常ではないからだ。俺には、魔族に対し、同情やそういった感情などの不要な感情は、一切捨て去る決断を2年前に既にしているのだ。だから俺は魔族に対してはこう思う。すべて、ぶっ殺すと…
「まぁまぁ、二人とも…とりあえず、落ち着けよ。」
俺は、いつもなら出さないような低い声で、怒りの篭もったかのような声でその言葉を口にした。
そして近くに落ちていた、先程まで使用していたナイフでリアムズの胸を刺す。
「く、あ゛、あぁぁあああ゛!!なんで、刺したあぁあ!!」
「ムカつくからだよ。クソ野郎!ひとつ言わせてもらうと、俺は魔族にそんな感情は一切持たない。同情もしないし哀れみもしない。そこにあるのはただの復讐心だ。だから、お前のことは躊躇なく刺せるぞ?こんな風にな!」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛…どうしてくれんだ!もう刺すとこがないぞ!クソッタレがァァァ!この私がこんな人間程度に…!!」
「これが、お前の言う人間の力だ。あとお前、全て話したら助けて貰えるとか甘い理想描いてんじゃあねぇよな?まぁ、安心してくれ…」
俺がそう言うとリアムズは少しだけ希望がある顔をこちらへと見せる。どちらが悪魔かわからない?それで結構。俺は奴ら全員をぶち殺せるなら喜んで悪魔になろう…
そして俺は言葉を続ける。
「情報をくれたお礼だ。痛みも何も無く、殺してやるよ…!」
そして、リアムズは死んだ。胴を完全に自身の能力により破壊されて。リアムズ本人を殺したのはリリアルの回復魔法ではあるが、これは、言ってしまえば自分の能力で死んだも同然なのだ。自分の無敵の能力で自分を殺してしまうとは、なんとも皮肉なものである。
「さぁ、リリアル。すべてのことは済んだ。村へ戻り、村人たちを解放しに行こう。」
「はい…!」
そして俺たち2人は村へと行くために、リアムズの亡骸を後にした。