【第2章】砂の村
現在の気温およそ40度。灼熱の太陽、地平線いっぱいに広がる砂…そう、ここは砂漠。アンスラル魔法国を出ておよそ2日が経過していて、俺たちは5分の2ほど歩いた地点にいた。
ちなみに、何故ここまで遅いのか。馬に風魔法を付与し、加速をすれば法国へはもう着いてもいい頃なのに、何故こうも遅いのか。それにはちょっとした事情があった。
「まさか、馬が全て出払っていたとは思いませんでしたね。」
「あぁ、まさかだったよ。馬が貴族の連中に全て貸し出されるなんて…恐るべし冒険者適性試験。それにしても暑い…」
俺は暑さに耐えながら、リリアルと会話を交わしていた。
そう、その事情とは冒険者適性試験にあった。俺とリリアルが出発したのがちょうど2年ぶりに行われる冒険者適性試験とかぶったのだが、地方貴族を中心街へと連れていく馬車のために馬が全て出払ってしまったというのだ。
「しかもなんだ、村がひとつも見当たらん。師匠の話だと2つ村があるって話だったが…」
その言葉を聞いたリリアルが俺の肩をポンポンと叩いてきた。
「ランク、ランク。あれじゃないですか?例の2つのうちの1つの村って…」
するとそこには砂漠という場所には、不似合いな周囲からとても浮いている場所があった。水が沢山あり、まるで湖のようだった。だが、何かおかしい。
だが、リリアルは疑うことなく我先にと「先に行って水をもらっておきます!」と言って走っていってしまった。
「おい、リリアルちょっとまっ…」
俺が待てと言おうとした瞬間、その場所へ走っていたリリアルはダイナミックにそこへ飛び込んだ。湖のような場所に入り体を冷やしたかったのだろう。しかし、その願いは叶わず、リリアルは「ぶへぇ!」と嗚咽を上げながら顔面から砂へと飛び込む。
「なんですかこれ!!水ないじゃないですか!!ただの砂ですよ!?」
リリアルが怒りと驚きの声をあげる。
「たしかに、近づいて見てハッキリわかったが、遠くからだとほんとに水に見えていた。一体どういうことだ?」
俺はそんな事を考えながら、倒れているリリアルを起こす。
すると、「おーい!」と遠くから見知らぬ声がする。声の主からして女性であるのは間違いないが、見る限り知り合いではない。
「おいリリアル。あれ、お前の知り合いか?」
「いえ、知りません。敵ですかね?」
そう言うと、リリアルは先程の間抜けだった時とは打って変わって、戦闘態勢に入った。流石は貴族の元従者。
「大丈夫、敵ではないだろう。あれは敵意と言うよりは完全に善意だ。」
すると、その女性は「大丈夫でしたか!?」と言いながらこちらへと駆け寄ってきた。どうやら本当に俺たちに用事があったようだ。
「あんたは一体誰なんだ?」
俺がそう質問すると、その女性は指をピンと伸ばし、開いた片手をおでこの辺りにサッと上げ自己紹介を始める。
「これは失礼、申し遅れました!私はデザト村の自警団をやっております、冒険者のサラ=ノールです!!」
「これはどうも、ご丁寧に…じゃなくて!どういう要件なんですか?」
リリアルがそう質問すると、サラは事の経緯を説明し始める。
「この砂漠の蜃気楼地帯で、迷っておられる冒険者の男女2人がいるとのことを村の人間から聞きまして、急いで来た次第です!」
「蜃気楼…?もしかして、さっきただの砂が湖に見えたのって蜃気楼か?」
「はい!そうですね!ここら一帯は蜃気楼地帯と言われておりまして、ここに入ってしまうと、蜃気楼に惑わされてグルグルと回ってしまうのです。」
道理で村につかないわけですね。そりゃ、いつまで経っても暑いっすわ。
俺が肩を落とし、そう思っていると、リリアルがサラへとある提案をする。
「すみません。私たちが行きたい村があなたのいるデザト村なのですが、連れてってもらったりって出来ます?」
リリアルはサラへとした提案とは、デザト村までの案内だった。ナイス、リリアル!さすが俺の仲間!!
「はい!私もそのつもりで来ましたので、問題ないですよ!それでは早速行きましょう!!」
こうして、俺とリリアルは無事に、サラの案内でブレイン法国に行くまでの最初の休憩地点のデザト村へとたどり着けた。
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〈デザト村〉
この村の名はデザト村。この村にはオアシスがあり、砂漠で迷った冒険者を助けたり、その冒険者の休む場所の提供等で栄えている村だ。ちなみにブレイン法国の統治下にある村でもある。
「なるほど!お二人はブレイン法国をお目指しになっているのですね!!」
「そうなんですよ!でも、馬を1匹も借りれなくて、歩いてここまで来ました …」
リリアルがそう言うと、サラは「えぇ!?」と驚きの声を上げる。
「アンスラル魔法国からデザト村ってすごい距離ありますよ!?道理でそんなにぐったりとしてらっしゃるわけですね…お察しします。」
勝手に察されてしまった。まぁ、本当に疲れたので、一目瞭然という程に俺とリリアルは服などが砂で汚れていた。
「このデザト村には、旅で疲れた皆様を癒すために様々なオアシスを利用した施設があります!ぜひ、立ち寄ってください!」
これは宿とかも紹介してもらえるかもと思った俺はすかさずその事を聞く。宿関係に関しては、2年前に苦い思いをしているからなぁ、俺。
「ありがたい!あと、ちょうど宿とかも探してたんだよ。流石に2日連続の野宿は辛いからなぁ。」
すると、サラはパァと顔を明るくさせて、「いい宿があるんです!!」と言ってきた。
これは期待ができる!と思いながら、俺とリリアルはサラへとついて行った。
この村は俺のいたラック村と違いそこそこに大きい。さすがは冒険者を相手に観光業をしている村なだけはある。
そんなことを思って、村を見ながら歩いているとサラが立ち止まる。どうやら着いたようだ。
「ここです!」
「わぁ!すごいです!!」
そこは、宿というには少しばかり大きく、豪華な場所だった。2年前まではボロ宿を利用していた俺はこの宿を前に、少々心臓が高まっていた。
「ほんとにこんなとこ泊まっていいのか!?」
すると、サラは「はい!」と言いながらニヤニヤしている。うーん?なんかおかしくなーい?
「やったー!!ランク!行きましょう!!」
リリアルがなんの疑いもなくその場所へ入ろうとする。
「ちょーっと待て!リリアル!」
しかし、俺の言葉虚しく「へ?」という声を出してリリアルは敷地内へと入ってしまう。
すると、サラは「おめでとうございまーす!!」と言って俺とリリアルに近づいてくる。
「あなた方はここの宿泊者として登録されましたー!!と、言うことでお代は結構!!その代わりとあるモンスターを討伐していただきたい!!」
うわぁー。やっぱりねー…うまい話には裏があるとは言うが、もはや裏過ぎて表だなこりゃ。いや、表いっちゃうのかよ。
「あのーサラさん?ちなみに断ったら…」
リリアルがそう質問しようとすると、サラは顔を近づけ、「そうですねぇ…一日の宿泊の合計なので、約10万ゴールドですね!」とニコニコしながら言ってきた。こっわ!その笑顔こっわ!笑顔ってそんなに怖くないはずなんだけどなぁ。
「はぁ…どうせキャンセルもできないんだろ?分かった。やってやるよ、その依頼。」
断れば、通常の宿の100倍の大金の10万ゴールドを支払わなければならなくなる。正直こちらには断る理由等はなかった。
「はい!お願いします!」
サラはそう言うと、元気な声で「ありがどうございます!」とお辞儀をしてくる。
こうして、俺とリリアルの冒険者としての初仕事は、宿への宿泊代の代わりとして、半ば無理矢理始まることとなったのだった。