Hachi_amumusanのブログ

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【第2章】反転の悪魔

  「球炎(ファイアボール)!!」

 その魔法は、通常の球炎(ファイアボール)の何倍もの大きさがあり、無詠唱での発動であったことから、リアムズに対し先手を打つことが出来た。

 相手の能力が不明ことからも、先手を取ることはこの戦いにおいて、とても重要な意味を持っていた。影に関する能力の可能性も高いが、そう断定するには、証拠不十分ということである。

 しかし、その大きく増大した炎を見て、リアムズは余裕の表情を浮かべる。

  「無詠唱…あの噂は本当だったようだなぁ!しかし、先程も言った通り私の能力の前には全ては無力となってしまう」

 そう言うと、リアムズは球炎(ファイアボール)の方へ手を出し、それを止めようとするような動作をする。

 「無駄だぜ、リアムズ!俺の魔法は無詠唱だから、召喚の魔力となるはずの魔力も属性の魔力に加算されている。そのため、その火力は他の魔法と一線を画している!」

 だが、俺のその余裕は次の瞬間で一気になくなることとなる。

 「能力発動…!!」

 その瞬間、巨大な炎が一瞬にして消え失せる。そして、それと同時に辺りを、肌を刺すような寒さが襲う。

 「い、一体どうなって…」

 「ふふふ…これが私の最強の能力。『反転(リバース)』だ!この能力の前では全ての生物以外の現象は反転する。それは、どのようは強大なものでも該当する。貴様の、無詠唱魔法も無論例外ではないわ!」

 その能力の力を目の当たりにした俺とリリアルは、リアムズからある程度の距離をとる。こいつは手強い相手だ。俺の魔法は、炎魔法がメインであり、それ以外はやつを倒すほどの威力は出せない。相性最悪…と言ったところである。

 「なるほどな。“現象”を反転か…魔法もひとつの現象であり、反転の対象。そして、影に入った人間の水分が抜けたのはその反転の力だな?通常、影では体温が下がるが、それが反転。一気にその部位の水分が蒸発したということか。」

 「大当たりだ。さすがは、カリオット様の分身を倒しただけはあるなぁ。ランク=アインメルト。」

 「なに?カリオット…だと?」

 その名前、それは忘れるはずもない名前だった。因縁にして、俺たち2人の復讐の相手。魔王軍の幹部『呪術皇(カースエンペラー)』の名だった。

 「我ら魔族は、ランク=アインメルト。貴様の命を狙っている。貴様はカリオット様の分身を倒した。しかしそれは、ただの分身ではなく、我らが魔王軍の幹部を倒したと同義なのだよ。わかるかい?これにより、貴様は我々の抹殺対象となったのだ。」

 「てことは、お前を倒した後も刺客はどんどん送られてくると?」

 俺がそう言うと、リアムズは俺を馬鹿にしたような口調で喋り始める。

 「そういう事だーなぁ!まぁ、万が一にも君たちが勝つことはありえないけどねー。10柱はそれほどに強力なのだよ!」

 リアムズがそう言うと、それを聞いていたリリアルは、今まで黙り込んで閉ざしていた口を開く。

 「リアムズ!私たちはあなたを殺し、先に進みます。それに、この先多くの刺客が送り込まれようとも、私たちは絶対に挫けない!カリオットを倒すその日まで!!」 

 「良いなぁ、私は君たちのような誰にも折れない強い意志と目を持つ奴らの心を完膚なきまでに叩き折り、絶望へと落とすことが何よりの楽しみなのだ!さぁ、直ぐに折れては面白くないからな!存分に抵抗するが良い!!力の源である10柱が1人、リアムズが命ずる。闇の精よ、全てを貫く、不変の棘を作り出し、他の者に絶望を与えよ…『黒薔薇(ブラッディローズ)』!」

 リアムズが詠唱を終え、魔法を唱えた瞬間、至る所から黒い棘が地面から生え始める。そして、その棘は複数に枝分かれを繰り返し、俺たちの方へと向かってきた。

 (おい!おい竜王!起きろ!!)

 《やぁ、ランク…どうしたんだい?》

 (あの魔法はなんなんだ!)

 俺は今の状況と魔法について、簡単に竜王へと説明をした。

 《ほー、あれは黒薔薇(ブラッディローズ)じゃあないか!あの魔法は闇属性の上級魔法の中でもかなり厄介な魔法だねぇ。》

 (あれを止めるにはどうすればいい!?時間が惜しいんだ!急いでくれ!)

 《避けの一択さ。あの魔法は発動者に直接攻撃を当てなければ、半永久的に対象を追いかける。でも、その分消費魔力はそこそこ高い。なんとか隙をついて、リアムズとかいう魔族に攻撃を当てれれば、こちらが有利な方へと持ち込めるだろう。しかし、当てれればの話だけどね…》

 「リリアル!この魔法は基本的に半永久的に発動し続ける!しかし、やつはその分魔力をごっそり奪われるし、やつの体に攻撃さえ当てられれば、この魔法は止められる!それこそが勝機だ!」

 俺はリリアルへ竜王から聞いた情報を全て伝えた。そして、その言葉に対しリリアルは「はい!」と返事をし、俺とリリアルは、二手に別れ魔法による攻撃を始めた。

 「力の源である我が命ずる!光の精よ、天からの光を一点に集め、その光線で何もかもを照らしだせ!『天光道(ライトロード)』!!」

 最初に右からリリアルが光の上級魔法で攻撃を仕掛ける。それによる光は、黒薔薇(ブラッディローズ)を破壊しながらリアムズの方へと向かっていく。それに続くように、俺も左から無詠唱での下級魔法を唱える。

 「指螢(ファイアフライ)!!」

 俺は指から、複数の巨大な炎が凝縮された高濃度の小さな炎の塊を放つ。その炎は、ふわふわと浮遊し、敵へと接近する。

 「ほう、実践ではクソの役にも立たん指螢(ファイアフライ)も無詠唱ではここまでの恐ろしい力となるのか…」

 挟み撃ちにしたことにより、その攻撃は確実に当たるはずだった。ましてや、リリアルの発動した『天光道(ライトロード)』も、俺の発動した『指螢(ファイアフライ)』も必中と言ってもいいほどの高確率で、相手へと攻撃を与えることの出来る魔法だった。だが、やつの…リアムズの能力はそれら全てを反転し、無に変える。

 リアムズはその能力により、『指螢(ファイアフライ)』で作り出した炎を反転させ、一瞬で氷に変えられた。これにより炎は気化。そして、『天光道(ライトロード)』は闇へと変換されてしまい、急な弱点属性への変化により、魔法が属性に耐えられなくなってしまい、消し飛んでしまった。

 「だーかーらー!最初に忠告したでしょ?私の前では全てが無力なのだとね!どんな強者も、私の前ではこの能力に絶望してしまう。それが私の能力…それが私なのだよ!!」

 反転…。現象を反転させることがここまでめんどくさい能力だとは、俺とリリアルは予想だにしていなかった。しかも、リアムズは反転させることにより、いかなる魔法をも弱点属性へと一瞬で変化させる。これが、全ての魔法が取り消される要因となってしまっていて、早急な対処法を考えなければいけない。

 「リリアル、お前こいつのこと倒せる魔法あるか?ちなみに俺はない…」

 「ランク、奇遇ですね…私もそのような魔法は持ち合わせていません…」

 『反転(リバース)』の能力を持つ悪魔に対し、それを破り、打開するための魔法は、俺とリリアルには一切無し。しかも、リアムズの発動した上級魔法『黒薔薇(ブラッディローズ)』は未だに発動しているため、避けながらの思考を余儀なくされている。

 「諦める訳にはいかんが、このままでは確実に二人とも死んでしまう…!動き続けたままだと、思考が上手くまとまらない。このままでは、この状況を打開することは絶対に出来ない…」

 そして俺は、やつへの対処法を考えるために、その場で立ちどまり『黒薔薇(ブラッディローズ)』の複数攻撃をこの身一つに受けるのだった。