Hachi_amumusanのブログ

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【エピローグ】今の話

 春の爽やかな風が、国の少々雨露の着いた木々をほのかに揺らし、まるで雨で濡れた国全体を乾かしているようだった。この国、アンスラル魔法国は春前の1週間にも及ぶ大雨を終え、今は、新しい季節が始まろうとしていた。

 現在は、冒険者適性試験で起こった、カリオットによる冒険者の殺害事件から、およそ4ヶ月が経っていた。この事件では、今年加入の冒険者がSランク組とEランク組を残し全員が死亡。そして、魔獣の出現により冒険者組合のギルド本部も壊滅状態。その周辺の街にも被害を及ぼした。俺が事件後師匠の助けにより、すぐに魔法王の城へと行ったため、この事実を知ったのは既にすべての事が済んだあとだったのは言うまでもない。

 壊滅したギルド本部と被害があった周辺の街はほぼ復興を終えていて、まるでそんな大きな事件が起こったのかという程であった。

 「あ!ランク!こんな所でなにしてるんですか!?」

 聞きなれた敬語と可愛らしい声が後方から飛んでくる。リリアルだ。

 実はあの事件の後、リリアルはカリオットの能力から唯一解放された冒険者として、重要参考人となった。だが、ハーフエルフだという背景や俺が上層部へと説得をしたのもあり、約1ヶ月で地下の収容所からは開放されていた。その後は街の復興に協力しつつ、街に部屋を借りて生活しているとの事だ。

 「あー、ちょっと買い物にな?かれこれこの街にも計4ヶ月ほどいたからな!もはやここら辺は俺の庭ですよー!」

 俺が冗談っぽく言うと、「なんですかそれー!」とリリアルは俺をぺちぺちと叩きながら笑って言ってきた。その顔からは以前の、主人を傷つけられ、ハーフエルフとしての一人での生活に不安を抱いていた彼女の顔とは違ったものを俺は感じていた。

 「で、そんなお前は何してんだ?もう復興の仕事もないんだろ?」

 俺がそう質問するとリリアルは少し照れくさそうにモジモジとする。え?なに?新手のテクニック?

 「じ、実はですね…今日はこれをランクに渡したくて!」

 その手から差し出されたのは、魔法向上の付与がなされた腕輪だった。

 「なに?これ」

 本当に、なんで急に腕輪を渡されたのかよくわからなかったので、恐らく聞くのは野暮なのだろうが、俺は思わずリリアルに聞いてしまった。

 「え?忘れちゃったんですか!?今度会ったらお礼するって言ったじゃないですか!!結局会って直接渡す機会がなくて、4ヶ月も経っちゃいましたけど…」

 すると、リリアルは申し訳なさそうに肩をすくめる。 

 「あ、あーあれね!いやーすまんすまん!最近はずーっと修行だったし、そんなこと考える暇なかったからなぁー。ありがとな!」

 そして、そんなリリアルをフォローする意味も込めて笑いながら頭をポンポンとする。

 「えへへ…どういたしまして、です!そう言えば、買い物って言ってましたけど今日は修行ないんですか?」

 「そうなんだよー。だから、どうしても欲しいものがあってな…」

 すると、「その欲しいものとは?」とリリアルは首を傾げて聞いてくる。

 「これだよ。」

 俺はそう言って、少し古い本を手に持っていた布製のカバンから取り出す。その本の題名は、『Legendary hero』。それはこの世界に伝わる昔話である英雄王の話の本だ。

 「あ!それ私好きでした!かっこよくて、いつか結婚するとか昔は思ってましたよ!」

 「あー、それシュナも言ってたよ。やっぱ女の子ってそう思うのかね?」

 懐かしいことを思い出してしまった。元々、この本もシュナが好きだった本という理由だけで買ったものなのだが、シュナは小さい頃毎日のように「私は英雄王と結婚するの!」と言っていた。リリアルのその言葉でその時の記憶が鮮明に蘇る。

 「へー!シュナさんも好きだったんですね!シュナさんが起きたら私、英雄王の話をしたいです!」

 「お!頼むよ!あいつも喜ぶと思うぜ?俺は昔色々あってその本好きじゃなかったから、あんまり話し相手になってやれなかったんだよ。」

 俺がそう言うと、「任せてください!」と握った手を胸にポンっと当てて自信ありげにリリアルは言った。しかしその後で、「でも、私の出番はないかもですねー」と、付け加える。

 俺は「ん?」と思ったので、リリアルにその言葉の意味を聞くことにした。

 「え?どういう意味だ?」

 「だってそれ、シュナさんが起きたら一緒にその話をするために買ったんですよね?」

 俺はまさかの図星を疲れたので「え、いや」と変な返事を返してしまう。リリアルの言うことは照れくさいがほとんど合ってる。

 「バレバレですよー!」

 リリアルが茶化すようにそう言ってきたので、「うっさい!」と俺はリリアルにツッコミを入れる。

 それを聞いて、なぜだかリリアルは「えへへー」と嬉しそうにしていた。え?ドMなの?

 今は、こんな感じで楽しく話しているが、リリアルのことは最初、油断ならないなんて思っていた。

 しかしそんなことは無く、リリアルがクロムのことを守りながらSランク2位の地位を獲得出来ていたのは、ハーフエルフという魔力操作のプロフェッサーだったからであり、別に疑うようなものでもなかったのだ。そして、リリアルは今では良き友人となっている。

 「腕輪ありがとな!早速明日からの修行で使ってみるよ!!」

 「はい!それでは失礼します!また機会があればご飯でも!」

 リリアルはそう言って、手を振りながら去っていった。

 そして俺も、「おう!またなー!」と言って手を振り返すと、帰るために城へと歩き出す。

 季節が代わり、あれから4ヶ月が経っていてもなお、心にはポッカリ穴が空いたままだった。恐らくはリリアルも同じだろう。

 だが、俺はいつも通りを貫くことを決め、リリアルもそれに賛同し、同じくいつも通りを貫いている。別にそれは、今も尚カリオットの能力に苦しむみんなのことを忘れたからとかでは無い。俺たちは一時の時間だけでも仲間だったのだから。

 みんなはまだ死んだ訳では無い。俺たちが前を向き続ければ必ず助けられる存在だ。だからこそ、俺とリリアルは前を向き続け、いつも通りでいることを決心したのだ。

 明日からも、みんなを助けるために俺は修行に励む。魔法王と竜王。2人の師匠の元で。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それから約1年6ヶ月…あの事件から2年が経った頃、俺の修行も終わりを迎えていた。

 「いやぁ〜、ランク。お主やるのぉ!たった2年で、わしと戦えるようになるとは…」

 「いやいや、師匠がまだ本気じゃないからだよ。いつか本気の師匠に勝てるくらい強くなるよ!」

 俺は師匠にお疲れ様の意味を込めグッと拳を出し、師匠もそれに応え、トンっと拳を当ててくれる。

 「ほっほっほ!楽しみじゃな!明日からはとうとう出発か…長い準備期間となってしまったが、大丈夫かね?」

 「あぁ、今の俺の実力がどれだけ通用するかはまだ分からない…でも強くなれた気がするんだ!試したい。それが今の気持ちだよ。」

 そう言うと、師匠はにっこり笑って「ほっほっほ!」といつもの笑いをして見せる。

 「その意気込みはよしじゃ!お主はわしですら到達出来なかった、“無詠唱の境地”へと至った。恐らくはどんな相手でも勝てる。わしが保証しよう!」

 「そうだといいんだがな…まぁ、まずは仲間探しもしなきゃダメだし、やることはいっぱいさ!」

 俺がそう言うと、師匠は俺の目を見て話を始める。

 「ランク。君の目的はたしか、カリオットの討伐、そして仲間たちの能力からの解放…じゃったよな。なら、その目的を達するために、お前の全てをぶつけてくるんじゃ!あと、君たちの仲間はわしを筆頭に絶対に守る。安心しなさい。」

 その言葉を聞いた俺は、師匠へ向けて深くお辞儀をする。

 「ありがとう…何から何まで本当に。絶対にカリオットを倒して、師匠にも恩を返すよ!今日の最後の修行、本当にありがとう!!」

 「ほっほっほ!まぁ、気長にやりなさい。」

 そして、俺と師匠は固い握手を交わした。

 俺は明日冒険者として旅立つ。長い長い、準備の期間だったが、全ては整った。もう、誰も傷つけやしない。全てを守る。そのためにはまず、冒険者として4人の仲間を集め、カリオットを倒す。俺はそう静か決意を固めていた。

 ここから始まる、長い長い物語。ランク=アインメルトの英雄への物語。