【第2章】プロローグ 旅立ち
今日、街では冒険者組合による冒険者適性試験がギルド本部にて行われていた。
2年前の例の事件により試験の見直しや管理体制、防御体制等に不備があったことが発覚し、ここ最近は試験の開催は見送られていた。しかし、今回は満を持して開催にこぎつけたらしい。しかも、冒険者登録はしたが、試験の開催が見送られていたために、試験を受けれてなかった人間が多くいたためか、受験者は過去最多となっていた。
「凄いな。もはや街がお祭り騒ぎだ。」
俺は城の廊下の窓から外の様子を眺めていた。すると、昼前にもかかわらず、道には溢れんばかりに人がごった返している。
すると、師匠がいつもの笑い声をしながらこちらへとやってきた。
「ほっほっほ!今回は人数が多いがために、6日間に渡って開催されるからのぉ。街はお祭も同然じゃよ。」
「そういうことか。旅立つ日がちょうど一番人が多い時だなんて…これって国から出れんのか?」
俺は手を顎に当てて、考えていた。
なぜなら、俺が今いる場所は城とギルド本部がある中央街なのだが、国を出るには東西南北に中央街を囲むようにして出来ている街のどれかへと行く必要があるのだ。そのため、一番賑わっていて人の多い中央街を通るのも困難だし、宿を取るために周りの街も混んでいると思うので、出国するにはとても時間がかかってしまうのだ。
「まぁ、そこは大丈夫。わしの転移があるからのぉ。ランクなら絶対そう言うと思って用意しといたんじゃ!」
そう言って、師匠は魔法陣を展開する。それは前に見たことがあった、空間移動術式(キャリーウェイ)だった。
「さすが師匠!今日は昼前には出たかったから助かった!」
「まぁ、最初に目指すのがブレイン法国と言うのだから、早めに出るに限る。あそこは加速の魔法を使っても2日はかかるからのぉ。」
そう、今回俺が最初に選んだ目的地はブレイン法国という、法治国家である。この国は王は存在しているが、法律が1番権力を持つとされる特殊な国家であり、アンスラル魔法国の統治下にある国のひとつだ。
「だが何故、ブレイン法国を選んだんじゃ?魔法の近くにも国はあるぞ?」
師匠の言う通り、たしかにある。しかし、ブレイン法国にはある目的のために行くのだ。
「それは、ブレイン法国は治安が最も良く、そこを旅の休憩として立ち寄る冒険者も多いからだよ。だから、仲間集めには最適化と思って。それに、今年は4年に一度の『魔闘大会』が行われると聞いてな。」
「なるほどのぉ。より強い仲間を求めるランクらしい選択じゃな。」
「俺には強い仲間があと4人必要だからな。」
実は、魔王や魔王幹部クラスとの戦いともなると、4〜5人のパーティを組む必要があるのだ。これは、魔法国が決めている規定であり違反することは出来ない。
すると師匠は、首を傾げて「あれ?3人じゃないのか?」と言ってきた。うーん。ボケたのかな?師匠。
「俺一人で冒険者として旅に出るんだぜ?魔王討伐は4〜5人必要だから、俺は最大数の5人でカリオットと魔王を討伐するって前言ったろ?なのに3人じゃ4人じゃねぇか。まぁ、規定内ではあるけども。」
「いやいや、そういう事じゃなくてのぉ…」
師匠がそう言いながらあたふたし始める。まるで時間でも稼いでいるかのように。
すると、後方から走ってくる女の子が一人。肩にかかったミディアムくらいの金色の短い髪をなびかせ、翡翠色の瞳が日にあたり輝いている。そして、髪からほんの少し尖った耳がひょこっと出ていた。そう、リリアルだ。
「ちょっと待ってくださいよー!!」
そう言いながらリリアルは走ってこちらへと向かってくる。
うーん。ちょっと待ってね?俺はリリアル巻き込みたくないから出発時間はリリアルに話さなかったんだよ?
そして、俺は気づく。なぜ師匠があんなに、あたふたしながら時間稼ぎとも取れる行動をしていたのか。あのクソジジイ!やりやがった!
「おい!師匠!事情を説明しろよ。これはどう言う…」
すると、それを遮るようにリリアルが息を切らせながら喋り始める。
「それは私が説明しましょう!ランクが私に心配をかけないように、何も言わずに出発しようとしていることを魔法王様から聞きました!なので、来ちゃいました!」
「いや、来ちゃいましたじゃねぇよ。師匠も師匠だ!俺言ったよな?」
すると師匠は、リリアルの肩を持つように「だってリリアル可哀想じゃん?」と言う。こんの、クソジジィ…
「ランク!私も連れていってください!!私だってあの被害者だし…それに、ランクを助けたいんです!仲間として!!」
リリアルが真っ直ぐにこちらへと思いをぶつけてくる。しかし、こちらにも譲れないものはあるというものだ。
「だめだ。お前のことだから、ついて行くとか絶対に言うと思った。だから、俺はお前にあえて伝えなかったんだ。」
「なんでですか!あなたは私を仲間と言ってくれた…だから、私はあなたの助けになりたいんです!」
気持ちはありがたい。だが、さっきも言った通り、俺にも譲れないものがある。
「だからこそだ。お前は仲間だからこそ、もう失いたくない。リリアル、お前は人一倍努力家で仲間思いなやつだからな。そんなお前を傷つけられたくないんだ…」
すると、師匠から怒りの声が発せられる。
「コラ!ランク!!お前ちとリリアルを舐めすぎじゃぞ?実は言っていなかったが、リリアルにもわしは修行をつけてたのじゃ。どうしてもお前の力になりたいからとお願いされてのぉ。」
すると、リリアルは頭を下げて、「黙っててすみません!」と言ってくる。
「私、魔法王様にお願いをして癒しの魔法の援護系の魔法を学んでたんです。そして、あなたを助けたくて…!」
「癒しの魔法を!?」
俺がそう言うと、師匠はリリアルの肩に手をポンと乗せてその経緯を説明する。
「癒しの魔法はわし以外は使えない魔法じゃった。しかし、ハーフエルフという潜在能力の高さや高い魔力操作性。そして彼女の努力がそれを可能にしたんじゃ。それに、援護系の魔法もランクを助けたいという一心から習得したんじゃ。」
どうやらリリアルは陰でものすごい努力をしていたようだ。癒しの魔法というこの世界で魔法王のみしか使えないとされていた魔法は、才能だけでは習得はできない。
「まさか、お前がそこまでして俺について行きたいなんて思わなかった…分かった!分かったよ!着いてきてもいい!好きにしやがれだ!」
俺がそう言うと、リリアルは師匠に「やりました!!魔法王様!!」とかいいながら喜んでいた。
「ただし!お前になにか危険があったり、これ以上ついてきたらダメだと思ったら国に返すからな。それが条件だ!」
すると、プクッと頬を膨らませて「分かりましたよー」と拗ねたように言ってきた。可愛い。
そして、師匠もリリアルに続くように「ケチケチー」と頬をふくらませながら言ってきた。ジジイ。あんたは可愛くない。
「師匠。そういう事だから、二人分になるけど大丈夫か?」
「無論、最初から2人行けるように用意しとったわ!」
そう言うと、師匠はすぐに空間転移術式(キャリーウェイ)が発動させた。
「じゃあな、師匠!今までありがとう!」
俺がそうお礼を言うと、リリアルも続くように「魔法王様ありがとうございました!」と挨拶をする。
「たまには戻ってくるんじゃぞ?頑張れ2人とも!」
師匠がそう言うとあたりが光り始める。
そして、俺とリリアルの2人は北街の門の前へと転移した。
「こっから先は危険なことも多いだろう。しっかり着いてこいよ。リリアル!」
「はい!ランクのお役に立てるよう、修行の成果を見せちゃいます!」
そして、俺とリリアルはブレイン法国へ向けて歩き始めた。
集めるべき残る仲間はあと3人。長い準備期間を得て、俺たちの長い長い旅が今、幕を開けた。