英雄と6人の王 【第1章】15年祭
「…ク!……ンク!!」「ランク!!」
聞き慣れたうるさい声がする。そして、長い長い夢から覚める。そんな感覚で俺は起きた。
「んあ?なんだ…シュナか」
「なんだじゃないわよ!今日は私たちの15歳の誕生日。15年祭のための準備なのよ!」
どうやら俺は、15年祭の準備中のため巨大な荷車を引いていたが、休憩の際に寝てしまっていたようだ。
15年祭とは、冒険者になる適正年齢を迎えた子供たちを祝う祭りで、村人全員で盛大に行われる。俺の村、ラック村も例外なく15年祭の開催をするのだ。
そして、その15年祭に出席する、俺を起こしたこの超うるさいこの女は、シュナ=リーリル。ラック村の村長、リーリルさんの一人娘だ。
「おいシュナ。俺は寝てたが寝てたわけじゃあねぇ。力を蓄えてたんだよ。明日に向けてな」
こう言えば頑固なシュナも少しは優しくしてくれるだろう。
「は?馬鹿なの??」
ダメだったみたいだ。シュナさんコワイ。
そう。俺たちは明日、アンスラル魔法国へ向けて、法律に則り冒険者登録をしに行く。
この世界では通常、国の法により、15歳になるまでは村で『魔法』『体術』『剣術』を学ぶ。基礎から応用まで全てだ。これは、魔獣と呼ばれる魔族の魔力に魅せられた獣対策と、冒険者登録後、即戦力として戦えるようにという意味があるのだ。
「てかさー、なんで俺たちの誕生日なのに俺たちが準備するの?おかしくない?それに俺ら明日から王都だよ?命張りに行くんだよ?」
「しょうがないでしょ。村の若い人たちはみんな冒険者徴集で王都に行ったんですもの。村には、おじいさんやおばあさんばかりなのよ?」
シュナは俺の冗談交じりの言葉に、真面目に答える。
「いや確かに、危険な動物を村のじいさんたちに狩らせるわけにゃあいかんけどよ。少しくらいは休みたいだろ?」
てか、俺はお前と違ってめちゃめちゃ重い荷車引いてんだよ?少しは労れクソ女。
「だめよ!それに、15年祭にはキングホースの肉をささげるのがラック村の掟。それは破れないわ!」
「シュナは真面目だなぁ…」
そう。真面目なのだこの女。
ラック村では『キングホース』と呼ばれる3メートル程ある馬を狩り、それを捧げて、15年祭を祝うのがしきたりとなっている。キングホースは、足の速さもちろんのこと強靭な筋肉で、有効なのは火の魔法攻撃だけという、倒すのすら一苦労なやつなのだ。しかもこいつ、村の近くのシキズムの森の最深部にいるのでとても見つけずらい。
「これも修行よ。それに、確かに昔は歯が立たない相手だったけど、今の私たちなら十分にやれるわ!」
シュナは興奮気味に、フンっと鼻息を鳴らしながら話し始める。
それもそのはず。キングホースを狩るということは、村の誇りとなることなのだ。村長の娘の、クソ真面目なシュナなら、やる気になるのも当然だ。
「さぁ!行くわよ!キングホースは森の最深部にいるわ!急ぎましょ!」
「へいへい…」
俺たちは、森の最深部へと一歩一歩、歩み始めた。
なんだかんだ3時間が経過していた。15年祭に間に合うようにするには、あと1時間が限界だ。
「あの、シュナさん?」
「なによ」
「キングホースのキの字もありませんが大丈夫です?間に合わないとかないですか?」
「そ、そ、そんなわけないじゃない!も、もちろん間に合うわ!」
どうやら図星のようだ。
「素直に謝ろうぜ。見つからないもんはしょうがねぇよ?」
そのときだった。俺の背後から黒い影が、一瞬にして通り過ぎた。その瞬間辺りに風が吹き荒れる。キングホースだ。
「ほら見なさい!私の見立ては合ってたわ!」
いや、偶然だろ。そんな本音を言えば殴られるので、ここは空気を読む。
「当たることもあるんだな」
「うっさい!!2手に別れて追いかけるわよ!」
結局怒られた。女心って難しい!
「りょーかい」
俺はそう言うと、シュナとは別方向の右方向へと進んだ。
キングホースは確かに速いが、スピード魔法を足に付与すれば追いつけないことは無い。2手に別れることで追い詰めるという作戦なのだ。
「「力の源である我が命ずる。風の精よ、我に風の力を!!」」
「「疾風脚!!」」
二人同時に、詠唱を始めて、風属性に分類される自己強化魔法『疾風脚』を展開した。
これで、キングホースを追い詰めることが出来るはずだ。
「俺が右から回り込む。その瞬間、シュナは左から回り込んで、火魔法でやつの移動範囲をせばめてくれ。」
「分かったわ!」
そして、シュナは魔法の詠唱をはじめる。
「力の源である我が命ずる。火の精よ、我に火の力を!」
「フレイムサークル!」
キングホースの周りに巨大な炎の円が広がりはじめた。
これで、準備は完了だ。火に弱いキングホースにはこれが一番効果的な作戦だ。
ここまで行けばもう簡単。ジワジワと体力を削られ始めたとこで、最後のトドメだ。
「力の源である我が命ずる。火と風の精よ、風をもってその火を炎とし、すべてを焼き尽くせ」
「風魔豪炎!」
これは混合魔法という。2つの属性を同時に発動することにより、通常魔法の何倍もの威力を出すことができ、俺が密かに開発していたオリジナルの混合魔法でもある。
そして、 風の力で、何倍にも膨れ上がった火の力が一気にキングホースへと撃ち込まれる。
「キィィヤァァァイ!!」
キングホースの気味の悪い唸り声が森中に響き渡る。
何度聞いても、キングホースの死の間際の鳴き声は慣れない。ほんとにキモイんだよ、これが。
そして、風魔豪炎をもろに食らったキングホースは、無事焼きホースになっていた。
そんなどうでもいいことを考えていると、シュナがポカーンと口を開けてこちらを見ている。とんでもない馬鹿面だ。鏡を渡して見せてやりたい。
「どーしたシュナ。すげぇ馬鹿面だぞ」
「あ、あんた混合魔法なんて、超上級魔法いつ覚えたのよ!それに、そんな混合魔法は見た事ないわ!!」
どうやらシュナは、俺の開発した混合魔法に驚いていたようだ。しかし、そんなことどうでもいい。俺は、いち早く焼きホースを持って帰り、村でどんちゃん騒ぎしたい。マジで。俺もう疲れたよぉ。
「シュナ。そんなこと、どうでもいいだろ?俺は村に帰るぞ」
「あ、ちょっとまってよー!!」
そして、俺たちは巨大な丸焼きとなったキングホースを近くに置いていた巨大な荷車でなんとか運びきった。
村へ帰ると、キングホースは料理され、すぐに15年祭は始まった。