英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験
『アンスラル魔法国』
それは、全人族を支配している国である。小国は各地に存在しているが、現在はこのアンスラル魔法国が全ての国を統治している。
トップは『魔法王テスカト=タナートル』
世界最強の魔道士であり、現代魔法の父とまで呼ばれている男だ。
魔法王は、各地の国を周り魔族の支配から全てを解放した。こうして、この世界の半分にアンスラル魔法国が生まれたのだ。
日も傾き始め、アンスラル魔法国が見えてきた。休憩を入れながらの移動だったので、ざっと半日以上かかってしまった。
正直疲れた。冒険者登録をするのは、今日の夜だが、その後は冒険者適性試験がある。
『冒険者適正試験』
この試験は、ランク付けを行うための試験である。冒険者になるには、昨日の登録に続いて適性試験を必ず受ける決まりがあるのだ。
だから、今日は王都の宿でゆっくりしたい。なんて考えていると、シュナが元気よく話しかけてきた。
「アンスラル魔法国もうすぐね。魔法王様に会えるかしら。冒険者として生きるなら、1度でいいからお目にかかりたいわ!」
「どうだろうな。魔法王様とやらはとても多忙らしいぞ?もしかしたら、会える奇跡もあるかもしれんが、0.1%の可能性もないだろうな。」
「そうよね。無理よねぇ…」
珍しく、シュナが俺の言葉に同意する。要するに、そのくらい誰にでもわかるってくらい、魔法王ってのは縁遠い存在なのだ。王ではあるが、彼の姿を知るものは極一部しか居ないなんて言われているほどに。
「まぁ、んなこと考えててもしょうがねぇだろ。王都に入ったらまずは宿探しだ。魔法王より屋根のある場所が大事だ。」
「そうね!ランク、あなた珍しくまともなこと言うのね。」
シュナが冷静な顔で、こちらを見て言う。
え?俺そんなにいつもまともなこと言ってないの?酷くない?
「さぁ、とうとう入国だぞ」
俺はシュナの言葉を無視するように言った。
べ、別にショックだったからとかじゃないんだからね!
そんなことを思っていると、シュナが自分に言い聞かせるように呟く。
「気を引き締めないと…」
シュナの言う通りだ。ここから先は命をかける覚悟が必要なのだ。冗談なんか言ってる場合じゃない。だめだぞ!俺!
「さぁ、ここからが俺たちの新しい第一歩だ」
俺は、気を引き締める意味を込め、一言呟いた。そして、俺とシュナは馬を入国官に預けた後、王都への第一歩を踏みしめた。
入国後の夜。俺たちは冒険者組合である『ギルド』という魔法国指定の場所で、冒険者登録を済ませた。
しかし今、俺たちは人生最大の窮地に立たされていた。魔獣の襲来?魔族の進軍?魔王の降臨?いいや、そんなことじゃあない。事態はもっと深刻だ…
「宿がねぇぇぇええぇ!!!!」
王都中に響き渡るほどの声で俺は叫んだ。俺のキャラが変わるくらいに。
入国後、王都の端から端を歩き回り、100件以上の宿に確認を取ったが、どこも満室だったのだ。どうやら、冒険者登録の影響もあり、地方の国や町、村などからの人間が多く来ているらしく、いつもの10倍以上も繁盛しているという。
「うるさいわねぇ。まだ最後の1件があるでしょ?諦めるのは早いわ。」
いいえシュナさん。もう無理ですよ?宿無し生活ですよ。確定で。
「最後の1件はここね…」
重い足取りで赴いた先は、ボロボロの宿屋だった。正直、屋根さえあればどこでもいい。犬小屋でもノープロブレム。そんな気持ちの俺に、そのボロボロの宿屋は、まるで豪邸のように光って見えた。
「ここがダメなら犬小屋生活or野宿…。運命の分かれ道だな…」
俺とシュナは、本来は軽いはずの扉にとてつもない重みを感じていた。それはもう凄いくらいに。
「なんつー重みだ。冒険者になるのがこんなに楽じゃねぇとはな…」
「そうね。運命の時よ…」
ドアを開け、俺たちは受け付けへと駆け込んだ。それはもう、ものすごい形相で。
「「部屋ありますか!?」」
「ぜ、全部屋空いております!」
俺たちの形相に圧倒されたのか、宿屋の受け付けのお姉さんは、少しだけ引いていた。いや結構引いてるな。
しかしながら、全部屋空いてて助かった。これで、屋根のある生活ができ…ん?全部屋空いてる?
「な、なんで全部屋!?いや、空いてるのは嬉しいんだけど…」
シュナが、驚きを露わにする。俺の疑問と同じことをシュナも思っていたらしい。
「実はこの宿、ボロボロすぎて部屋が外同然なんですぅ…」
「な、なんですって…!?」
こんな感じで、俺とシュナのボロ宿生活が始まったのだった…
翌朝、犬小屋よりは少しだけマシな宿で、一夜をすごした俺とシュナは、昼から行われる冒険者適性試験に参加する準備をしていた。
今日の適性試験は、 より多くの人間を育て上げ、戦場に出すために行われる。ちなみにランクは、Sランク、Aランクと続き、1番下はEランクまで存在している。これは強さや技術などの総合点で審査される。 俺たちの目標は、無論Sランクの取得である。何故ならば、ランクの上位を取れば、ある程度の特権をとることが出来るからだ。それがひいては村の貢献と発展へと繋がる。
「さぁ、出発よ!へっくしゅん!」
外同然の部屋で寝ていたシュナは、豪快なくしゃみをかましながら歩みを進め始めた。
明らかに風邪ひいちゃってるシュナを横目に、俺は、15年祭の夜のことを思い出していた。「シュナを守る。それが俺の使命です。」これは、リーリルさんとの会話の中で俺が話した言葉だ。恩人への恩返し。俺はシュナのことを守りきる。何があっても…。俺は心の中で、再度深く誓いを立てた。
「どうしたの?早く来なさいよ!!」
「あぁ、今行くよ」
俺は、早足でシュナの元へと歩み寄った。
冒険者適性試験は三日にわたり行われる。俺たち2人にとっての長い長い、三日間が幕を開くのだ。