英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験⑥
眩しい光。目を開けずともそれはわかる程で、騒音に近い低い音がそこでは鳴り響いていた。
ーーなんだここは。俺は一体…
「魔力…いじ…う……なし。」
とぎれとぎれに見知らぬ男の声が聞こえる。目を開けようとしたが、力が入らない。
「竜王…そ……がお前の…新し…力だ」
男の言葉にあった『竜王』、それは小さい頃に読んでもらった、昔話で聞いた名だった。
ーー俺はどうしてこんなところに…
「許し…くれ…むす…よ」
男は涙を流しながらこちらへ謝罪をしているようだった。
ーーあんたは誰なんだ!何を許せってことなんだ!おい!
《はい、ここでしゅうりょー!》
その声と同時に、辺りから眩しかった光が消える。
《さぁ、ランク。起きるんだ。夢の時間は終わりだよ?》
その言葉と同時に、今まで開かなかった目が開けられるようになる。そして、辺りは真っ白な何も無い空間で、目の前には、8歳くらいの少女が、その見た目に不似合いな赤のドレスを着て、装飾がなされた王座とも言える豪華な椅子に腰をかけていた。頭には小さな王冠のようなものをのせている。
「君は一体誰なんだ?俺は冒険者適性試験の最中で…それに、さっきの声の男は誰なんだ!」
俺は先程の不思議な体験について質問をした。恐らくはこの不思議な体験をするに至った、張本人だと踏んで。
《さっきのはね?君の記憶さ!とある命令で、そこの記憶を見せろと言われていてね。ちなみにここは、君の心の中さ。》
「記憶?アホなことを言うな。俺にあんな記憶はない。それに、俺は何故ここにいる…そうだ!カリオットにみんな殺されて…シュナは!あいつは今どうなってんだ!」
俺はついさっきまで不覚にも忘れていた、カリオットとシュナたちのことを慌てて少女に聞く。
《あははは!君のそんな慌てた姿、こんな時でなきゃなかなか見れないよ!》
「誤魔化すなよ!俺の記憶があやふやなのもお前のせいなんだろ!」
《ピンポーン!正解だよ!あ、君のガールフレンドとその仲間たちだけど、息はまだあるね。死んではないよ。今ならギリギリ助かるのかも!》
謎の少女は、笑顔でこちらに喋りかける。
そして、俺はその少女に疑心の目を向ける。
「お前、カリオットの仲間か!クソ!俺の心の中からの攻撃とは…魔族ってのはどんだけ卑劣なんだ!」
《あはは!僕をそんなやつと一緒にしないでよ!僕は魔族じゃあない…“竜王”さ!!》
「ふざけてんじゃねぇよ!そんな場合じゃないんだ!!」
俺はあまりの怒りと無念さから、声を荒らげる。そもそも、伝説?竜王?所詮昔話。想像上の作り話だ。信じるわけがない。
「俺は、こんなふざけた無駄話をしている場合じゃないんだよ!早くみんなを助けないといけないんだ…!」
《はぁ、僕は本物の竜王なのに…それに、今のまでカリオットと戦えば君は死ぬよ?“本当の自分”を見失っている今の君じゃあね。》
「本当の自分?うるさい!やってみなきゃわかんねぇだろ!」
《いいや、分かるね。君は負ける。それも惨敗さ…》
竜王を名乗る少女は確信を持っているかのように語る。まるで、未来でも見てきたかのように。
「なら、強行突破する。お前を殺して!」
俺は、混合魔法の詠唱の準備を始める。
《へぇ。風魔(テンペスト)豪炎(ギガ)·極(バースト)かい?いいさ、確かめてみるといいよ。自分の愚かさをね!》
「あぁ、やってやるよ!力の源である我が命ずる!火と風の精よ、大いなる風をもって、炎を青き炎へ変えよ。そして、この全てを焼き払え!!」
「風魔(テンペスト)豪炎(ギガ)·極(バースト)!!」
俺は、試験の際に使ったものよりも、力を込めてその魔法を撃った。紛うことなき全力だ。しかし…
《うーん。やはり弱いね。僕の知る君に見せてあげたいよ。初級魔法『球炎(ファイアボール)』!》
それは、初級魔法と言うには規格外すぎるほどのバカでかい炎の球体だった。しかも驚くことに無詠唱で魔法を唱えている。
そして、それは俺の全身全霊の風魔(テンペスト)豪炎(ギガ)·極(バースト)を簡単に相殺。いや、むしろ飲み込む形で俺の魔法を包み込み、打ち消した。
「うそ、だろ…!?」
《これで分かったかい?君は弱い。そして、君もさすがに信じてくれただろうけど、僕は“竜王”。炎を司る竜族の王さ!》
「し、信じるさ…なら、そんなあんたに頼みがある。俺の代わりにカリオットをぶっ殺してくれよ!」
竜王は首を振って、それを断る。
《うーん。そうしたいのもやまやまなんだけどさ、僕は君の心に宿ってるから外へ出られないんだ。》
「じゃあ、どうしろって言うんだ!」
《考えはある。君に僕の力を貸すよ。無論対価は貰うよ。》
「そんなこと出来るのか!?だが、対価ってのは一体…」
《……魔族への憎悪。復讐心だよ。たしか君の父と母を殺したのは魔族だったよね?そして、君はまた魔族に大切なものを奪われかけている。そんな君の今の心の中にある強いものそれが復讐心だ!》
たしかに、俺の心には膨れ上がった復讐心があった。もともと、両親を殺されたことから魔族のことは恨んでいた。しかし、リーリルさんや村の人たち、シュナのおかげで和らいではいたが、やつらは俺の大切な人をまた傷つけた。それがこの復讐心が大きく膨れ上がるための起爆剤となった。
「俺の復讐心か…安いもんだ!力を貸せ、竜王!!」
そして、何回もやったかのようにすんなりと体が動き、俺は竜王へと拳を向けた。なぜかは分からないが、なんだか懐かしい。そんな気分に襲われる。
《力を渡す方法は体が覚えてたようだね。これからよろしく頼むよ。ランク!》
そして、竜王が向けられた俺の拳に、同じく拳を突き出す。
《さぁ、新しい君の始まりだ!さぁ、目を閉じてくれ。そうすれば現実へ戻れるはずさ!》
言われた通りに目を閉じると、そのまま目の前が暗くなる。光は一切感じない。そして静かに目を開けると、そこは薄暗い空間だった。そう元いた試験会場だ。
そこには、カリオットが俺を嘲笑うかのようにこちらを見て立っていた。
「カリオットォォォ!!!」
俺はカリオットへ怒りの全てをむける。
「ほぉ、この魔法を受けて立ち上がりますか…それに、“能力”に耐えるとは…なにか体に変化が起きたようですね。まぁ、いいでしょう。殺すだけです。」
「てめぇの、その余裕そうな面に1発叩き込んでやるよ!お前だけは絶対ぶっ殺す!」
そして今、俺とカリオットの戦いがはじまる。
英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験⑤
「これはまずいかな…」
現在俺たちSランク取得組は、魔法陣から召喚された12体の魔獣との戦闘をしていた。
「リーチェ!俺をしっかり守れ!」
「了解しました。クロム様。」
右奥では、クロムがリリアルに任せっきりの状態で、戦闘が続いてる。どうやら、本当にリリアルのおかげでSランクを取得したんだなと横目で見ていると、「よそ見すんじゃないわよ!ランク!」とシュナから喝が入る。
「あー、すまん。他のやつらのことも確認しててな。この最終試験は訓練という名目だが、まだ試験が続いてるという線も捨てきれない。協力を目的としている訓練なら、俺たちチームの連携を試していると言えなくもないしな。」
俺が魔獣たちの攻撃を避けながら訳を説明すると、「確かにそうね…」と手を顎にやりながら、シュナも納得する。
魔獣は熊のようなタイプと大きな虎のようなタイプの2種類が12体。名前が付いてない下位の魔獣だが、実践経験の少ない俺たちでは少々骨が折れる相手だ。
現在は、アルとリリの2人が熊タイプ2体と虎タイプ1体、ケドルとアルレフは熊タイプを2体。そして、アリスとフリジアは、虎タイプを3体相手をしている。
そして、俺とシュナは残りの熊タイプ1体と虎タイプ2体。クロムの方はリリアルしか戦っていないため、虎タイプ1体を相手してもらっている。
しかし、全員苦戦を強いられてる様子だ。
どうやら、アレを使うしかないらしい。
「おいみんな!このままじゃ埒があかない。俺に考えがある。全員後方に下がり、防御魔法を展開してくれ!」
「どんな考えかは知らんが、このままだと体力を削られて終わりだ。任せたぞ!ランク!」
アルの言葉に「任された!」と返事をし、全員が後方へ下がり、防御魔法を展開したのを確認すると、俺は混合魔法の詠唱の準備に入る。
「力の源である我が命ずる。火と風の精よ、大いなる風をもって、炎を青き炎へ変えよ。そして、この全てを焼き払え。」
「風魔豪炎·極(テンペスト·ギガ·バースト)!!」
辺りに、熱風が吹き荒れ、上級魔法の暴風魔(ザ·テンペスト)と炎炎の豪(バーストフレア)の2つの相乗効果により、誕生した巨大な青い炎が魔獣たちを襲い、爆発が起こる。辺り一体は焼け野原となったが、全ての魔獣に戦闘不能になるほどのダメージを与えることが出来た。
「すまないみんな。あのままだと怪我人が出る可能性もあったから、全部倒しちまった。通常の魔法だと、あまりに時間がかかりすぎるから俺の使える魔法で1番強力なのを使わせてもらった。熱風は防ぎきれたか?」
すると、全員ポカーンという顔をしてこちらを見る。そして、我に返ったのか全員口々に、「いや、大丈夫だけども…」と不満そうな顔をしながら俺の質問に答える。
「え、いや、いいんだが、その魔法は一体なんだ!?まさかただの混合魔法とは言わないよな?」
アルが驚いて聞いてくる。すると、他のやつらもこれを聞くためなのか、こちらへと寄ってくる。そう言えば、この前もシュナにオリジナルの混合魔法見せたとき驚かれたっけか。まぁ、今回のはそれの進化版なんだがな。
「あれは上級魔法の暴風魔(ザ·テンペスト)と炎炎の豪(バーストフレア)の混合魔法だが?風が火の火力を上げることを考慮して俺が構築した魔法だ。」
俺は丁寧に説明をする。
「この前見たやつの進化版ってことなのね。でも、そんなのデタラメな混合魔法聞いたことがないわ。」
シュナが言うと、それに続くように「たしかに、混合魔法とは通常、上級魔法と初級魔法を組み合わせるものだからな」とケドルが補足を入れる。
「あー、確かにそうだが、シュナが見た前回のやつは、暴風魔(ザ·テンペスト)をひとつしか組み合せたないんだよ。しかし今回のは、それを2つにして、炎炎の豪(バーストフレア)の火力をあげたんだ。」
俺は、今回の魔法について詳しい説明を加える。
「シュナの言う通り進化版ではあるが、改良を加えたと言った方がニュアンスとしては正しいかな。それに、上級魔法どうしでも、タイミングと比率さえ間違わなければ、通常の混合魔法よりも強力なものを失敗せずに作り上げられるはずだぞ?」
俺の言葉に、一同の頭の上には大きく「?」 のマークが出ていた。
だが、唯一コクコクと感心している人物がいる。リリアル=リーチェだ。俺の混合魔法にびびって気を失ったクロムを介抱しつつ、俺の話を聞いていたらしい。
「あなた、凄いですね。2つの上級魔法を組み合わせるあんな魔法は見たことないです。」
と、俺に言った後、リリアルはこちらへと詰め寄ってきて、俺へ感動の眼差しを送る。
「そんな大層なものじゃないから…」
俺は、照れを隠すために後退りをしてしまう。だって、こんなダイレクトに褒められるのなれてないんだもん!!
そしてその後も、魔獣を倒した安心感から、みんなで魔法について話をしていると、不穏な空気を全員が感じ取る。
「おい、今の雰囲気、感じたことの無いものだな。」
アルがいち早く反応する。
「そうですわね。ですが、なんでしょう。この胸騒ぎは…」
すると、アリスの不安が的中したかのように、結界が崩れ始める。
すると、それに気づき、クロムが飛び起きる。
「あへ…んあ!?どんなんなってんだ!?」
明らかにおかしい。魔獣を倒したあとの試験終了の合図にしては、あまりにも悪趣味すぎる。
「全員。戦闘態勢を取ってくれ。」
すると、「なぜだ?」とケドルが聞き返してくる。
「こいつはやばい雰囲気がしまくってる。恐らくは上位魔獣…いや、それ以上の何かだ。」
すると、完全に結界は破壊され、辺りは薄暗い闇に包まれる。そして、辺りに物凄い威力の暴風が吹き荒れる。
「何が起こってるんだ…」
俺はその言葉を皮切りに、直ちに、風魔豪炎·極(テンペスト·ザ·バースト)の準備に入った。
そして、闇の中からなにかが現れる。その何かは悪趣味な笑顔の仮面を被った男だった。
「やぁ、皆さま。ご機嫌麗しゅう。我はカリオット。魔王軍の幹部にして、10柱が1人でございます。」
カリオットを名乗る男が名乗った瞬間、一気に体が重くなる。
「こ、これは…!?」
俺を含め、全員が地面へと倒れ込む。しかも、俺とシュナ以外はカリオットの言う『能力』というもののせいで気を失っていた。展開は最悪である。
そして、俺の展開した魔法すらも強制的に消されてしまう。
「これはすみません。あなたたちが弱いがために、私の“能力”が作用してしまったようですね。ですが、そこのお二人はさすが1位ですね。気絶されないとは…」
「おい、てめぇの目的はなんだよ。魔族!」
「これは失礼しました。私の目的は冒険者の殲滅です。」
「な…!?」
「そのために、洗脳魔法で組合を操作したのですがね…魔獣程度で事足りると思いましたが、まさかの誤算です。」
その時、俺はあることを思い出す。最初の放送に1日目、2日目にあった「ピーー!」という音がならなかったことだ。恐らくカリオットは、組合長すらも洗脳していたが、組合長が放送をする際にあの音を鳴らすことを知らなかったのだろう。
時すでに遅しとはまさにこの事を言うのだと実感している。まさに無力そのものだ。そう思っているとカリオットは耳を疑うようなことを喋り始める。
「魔獣で殺せなかったので、私自らあなたたちを殺しますが、冥土の土産に本当の魔法というものを見せて差し上げましょう。」
すると、カリオットは詠唱を始める。
「力の源である魔王軍の幹部にして、10柱が1人の我が命ずる。最悪の魔の精よ、全てから生という幻想を奪い去れ。」
「滅亡の歌(デスマーチ)」
なんとも傲慢な詠唱が終わると、どす黒い闇の波がこちらへと押し寄せてくる。
避けようにも、体が重く、全く動くことが出来ない。
「シュナ!今守る!こっちへこい!」
「むり!体が全く動かない!」
シュナを守ろうとするも体が全く動かない。
「動けよ!動けってんだ!!」
俺は自分の体を必死に動かそうとするが、言うことを聞かない。
そして、視界は暗くなり意識が遠のいていく。
「さらばです。アインメルトの子よ」
その途切れかける意識の中カリオットの言葉を最後に俺は意識を完全に失ってしまった。
英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験④
現在、冒険者適性試験3日目、最終試験が始まる直前の正午前。昨日、選出された計200人が会場に集められていた。
『こんにちは冒険者諸君。早速だが、今回の最終試験の説明を行う。』
いつもと違い、今回は前触れがなく放送が始まる。
『それでは、説明を行う。広場中央には、5つの魔法陣が描かれてるはずだ。それは、魔法王様がお作りになった転移用の魔法陣で、それぞれのフィールドへと繋がっている。右からS、A、B、C、Dとなっているから間違えないように。』
『もう一度言う…間違えないように。間違えたら、死ぬと思え!』
あたりが静まりかえる。みんな考えることは同じようだ。「死ぬくらいやばいのかよ…!?」と。
そして、ぞろぞろと全員が移動し始めた。
俺たちも早速Sランクの魔法陣へと向かった。
「へー!君たちが1位のスーパールーキーか!!」
魔法陣の場所につくと、短髪の金髪碧眼の男が愛想よく話しかけてきた。するとそれに続いて、「こら!アル!まず名乗るのが先でしょ?」とアルと呼ばれる男に注意をしながら、同じく金髪碧眼の少女が近づいてくる。
「あ、すまんすまん。申し遅れた!俺はアル=グルガー!そして、こいつは妹のリリ=グルガーだ!俺たちは双子の兄妹だ!!そして、俺たちのコンビは950ポイントで3位だった!!」
アルは、丁寧に自己紹介を俺とシュナにしてきた。そして、その自己紹介に続くように、リリもペコッとお辞儀をして、「よろしくお願いしますね!」と挨拶をしてきた。うーん、この初対面なのに、村の人たちと喋るような安心出来る感じ。こいつら良い奴だなぁ。
「俺はランク=アインメルト。こっちのうるさいのはシュナ=リーリルだ。俺らは同じ村出身で、幼馴染なんだ。2人ともよろしくな。」
俺もアルにならって挨拶をする。すると、シュナが「うるさいって何よ!!」と、わーわー騒いでるが、気にせず続ける。
「俺たちは今まで村から出たことがなくてな。今回が初めての王都で不安だったんだ。あんたたちみたいないい人に出会えてよかったよ。」
「そいつは良かった!よろしくな!ランクとシュナ!」
このフレンドリーさ。さすがいい人だ。
アルたちと話していると、奥の方から2組がこちらへと近づいてくる。
「お前らが1位と3位の組か!!よろしくなー!俺は、5位のクルガー=レポンだ!!こっちは、親友のアルレフ=リリック!コンビを組んでもらってるんだ!」
すると、クルガーに続いて「よ、よろしくです…」と隣にいるアルレフも挨拶をする。性格真逆の男性コンビのようだが、クルガーがアルレフの肩を組んでるのを見ると、仲がいいのがすごい伝わってくる。
そしてシュナがアルレフに、「二人は仲がとってもいいのね!」と言うと、アルレフは照れながら会釈をする。
「こんにちは、皆さま。わたくしはアリス=グリモリーと申します。隣は従者のフリジア=リールですわ。」
「皆さま、フリジアにございます。よろしくお願い致します。」
もう1組は、女性コンビのようだ。しかも、片方は貴族で、もう片方はその従者だという。貴族には良い思いはないので、一瞬身構えたが、従者への不当な扱いはないように見えるので、恐らくは悪い貴族ではないのだろう。
そして、アルがみんなを代表するように、「よろしくー!!」元気よく挨拶する。
その後、とりあえず全員自己紹介をし合って、これで4組が揃ったことになる。後は、問題のあのクソ貴族様だ。
すると、噂をすればなんとやらということで、もはや聞き慣れてしまった口笛が聞こえてしまった。聞き慣れちゃったのかよ!と自分でツッコミを入れてると、周りもどんよりとした雰囲気になっていた。なるほど、全て察した。こいつらも被害者。同士かと。
「フハハハ!出迎えご苦労諸君!我が名はクロォォォム!ルーズベルトォ!その本人…っだ!」
恐らくは練習したであろうクロムの巻舌でのウザすぎる挨拶とポーズをして、周りからドン引かれていると、後ろから小さな女の子がひょこっとでてきた。
「クロム様。どうやら、滑ってドン引きされている様子ですね…プフっ」
恐らくは、リリアル=リーチェという冒険者だろう。すると、クロムの「コラ!!リーチェ!いらんことを言うな!!」という声はお構い無しに、その女の子は、「小さいですが、15歳。皆さまお初にお目にかかります。リリアル=リーチェ。クロム様の従者にございます。」と自己紹介を始めた。
「あ、こんにちは」と全員困りながら挨拶をする。それもそのはず。あのクソ貴族の従者なのに恐ろしいほど礼儀正しいのだ。しかも、可愛い。
そんなことを考えていると、シュナが張り裂けそうなくらいに膨らましたほっぺをして、クロムたちに近づく。大丈夫?割れちゃうよ?
「クロム!!あんた土下座の約束はどうなったのよ!」
確信をつく質問。どうでも良すぎて忘れてたけど、そんな約束してたよなぁと思っていると、「そ、そんなの知らないぞ?」とクロムは焦っていた。
「まーまー、ここは仲良く行こうぜ?同期のSランクの仲間なんだし!」とクルガーが仲裁に入る。それに続くように「そうですわ。クロム殿、シュナさん。ここは争うべきではありませんわ。それに、今は試験直前です。」アリスも仲裁に加わる。
クルガーとアリスの言葉により、何とか暴力沙汰を未然に防ぐことができた。恐らく、ほっぺパンパンシュナさんはあと5秒で手が出ていたと思うので、とても助かった。二人には、感謝をせざるを得ない。
だが、2人はまだ睨み合っている。ほんとめんどくさいな二人とも…。すると、そのいざこざを遮るように放送が始まる。
『えー、全員移動できたようだな。今回の試験は、5組で1チームとした、合計10人のグループになってもらう。Sランク以外は、6人以上いるので我々の独断と偏見でメンバーは決めさせてもらった。』
最終試験は実際のパーティの最大人数である、10人とするらしい。要するに、最終試験は協力プレイが大事ということだ。たしかに、初めてのメンバーでの連携も実践では不可欠だからな。理にかなっていると言えよう。
『それでは転移を始める。全員死なないように。それでは、さようなら。』
転移が始まる。そして、俺たちは全員とても広い荒野へと転移させられた
だが、そこにはモンスターは一体もいなかった。
「なんだここは、拍子抜けだなSランク。」と、クロムが調子に乗ってフラグになりかねないことを言っていると、荒野のあちらこちらから魔法陣が出現し出した。
嫌な予感しかしなくなり、フラグを立てた張本人のクロムを睨むと、案の定悪い予感は的中した。
なんと、その魔法陣からは様々な魔獣が出てきたのだ。モンスターの類ではなく。
「な、なんなのだこれは!」クロムが叫ぶと、と、それに続くかのように、周りの奴らも1歩、2歩と後退りをする。まさかの展開に驚きを隠せない様子だ。
こうして、俺たちの絶体絶命の最終試験は幕を開けた。
英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験③
現時点で、冒険者適性試験は2日目が終了していた。ここ、冒険者組合では、組合長ラルフストロノーフと各国に存在する魔法国指定の冒険者組合加盟のギルドのギルド長、総勢10名が集まっていた。
試験を審査する際、組合長を議長とした、話し合いの場を持つのだが、現在は2日目終了時点での順位を話し合っている。
「ほう…。この2人はなんて言う名前だ?」
ラルフがギルド長たちに問いかける。
「組合長、その2人はランク=アインメルト、シュナ=リーリルのツーマンセルですな。」
「彼らは、二人とも上級魔法を使いこなし、アインメルトに関してはオリジナルの混合魔法まで扱います。」
「アインメルト…、リーリル…、ちなみに出身はラック村かね?ギルド長諸君」
「その通りでございます。」
「なるほど。やつめ、粋なことをしよる…」
ラルフは、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
組合の審査会議はそれから約1時間ほど続いた。
ーーー冒険者組合広場
俺とシュナは2日目の試験を終え、冒険者組合の広場に来ていた。なんでも、冒険者適性試験の中間発表を行うらしい。なぜ2日目で?という冒険者適性試験の受験者たちの疑問はあるのだが、それについての説明がされていないため、みんなそわそわしていた。
「一体どうなんでんだ?俺はてっきり最終試験の終了時にまとめて発表だと思ってたぞ」
「わたしもよ。でも、中間発表するのには何か組合も考えがあるのよ」
確かにそうだ。10以上もの魔法国指定の支部とされるギルドを束ねる冒険者組合。そして、この広場にあるのは冒険者組合が運営するギルドの本部だ。そこが開催している冒険者適性試験だと言うのに、意味の無いことが行われるはずがない。
すると、「ピーー!!」という音がどこからともなく聞こえ始める。恐らくは1日目同様の放送があるのだろう。
すると、広場の真ん中に大きな映像が映し出される。
「あれが、物体投影魔法か。魔道具を使うって聞いてたけど、嘘じゃなかったんだな」
と感心していると、ラルフ=ストロノーフその本人がその映像に現れる。
『2日目お疲れ様である、諸君。なぜ、このタイミングで発表かと思う者もいるだろうが、それを今から説明する。』
『今回の試験では、1日目、2日目は同じフィールドで同じ試験を行ってもらった。しかし、次の試験からは、君たちが集めたポイントに応じて、指定された難易度のフィールドでそこにふさわしいモンスターと戦ってもらうのだが…』
組合長による今回の試験の真意と解説が始まった。
その解説によると、今回の試験はどうやら2日目までに、ランクを確定させて、最終試験を受けることが出来るものを選別するという試験だったらしい。
現在、1000人以上で合計500組以上の冒険者が試験を受けている。そして、それをポイントに応じて選出された上位200名のうち、200位からをDランク、100位からをCランク、50位からをBランク、20位からをAランク。そして、5位からをSランクとして、試験を行うという。
そして、残りの201位以下の組をEランクとし、Eランクのものは試験終了ということらしい。
『今回の試験、なぜランクを今回の中間発表時点で確定させたかと言うと、1つは冒険者の育成にある。今回Eランクとなったものは、国指定のギルドに別れてもらい、訓練を受けてもらう。そして、残りのDランク以上のものはそのランクに見合った場所に派遣を行うこととなった。そのため、Dランク以上のものには実戦を学んでもらうために3日目の最終試験を用意した。』
「なるほどな。現状、今の魔法国と魔王軍の戦いは平行線を辿っているからな。それを打開するための新体制ということか」
「確かに、今までだと試験を受けたらすぐに戦場に行く冒険者が選定されて、戦いになってたものね。しかも、行く戦場もランク順で決めるなら、死者もかなり減るわ」
シュナの言う通りだ。今回の試験の真意は、この新体制を用いて、新しい冒険者の形を構築するためにあったということだ。
『それでは、早速ら200位からを合計ポイントとともに発表していく時間短縮のため、Bランクまでは、広場後方のモニターにて、映すものとする。呼ばれなかったもの、モニターにて確認のないものは201位以下のものである。』
『それでは、こちらからはAランクからを発表していく』
組合長による発表が始まった。すると、自信のあるものは、その場でAランクからの発表を聞き、自分の実力を知っているものは後方の物体投影魔法により映し出されたモニターを見に行くための移動が始まる。
「Sランク取得。リーリルさんへの最初の親孝行だな」
「そうね!それに、私たちだったら確実にSランクよ!!」
俺とシュナが話していると、聞き覚えのある口笛が聞こえてきた。なんだか悪い予感しかしない。
「やぁやぁやぁ、辺境の庶民。いや、愚民じゃあないかー!君たちがSランク?冗談もそこまでいくと笑えんなぁ」
クロムが大きな声でこちらを見て言ってくる。前と同様に、シュナと一触即発の雰囲気だ。まーた、この貴族様はテンプレも言わんばかりの言葉を喋るなぁ。あー、ほらあんたのせいでシュナさん怒っちゃったじゃない!もう!
「あんたねぇ、そんなの分からないじゃない!だったら勝負よ!私たちの方が順位が上だったもう私たちに関わらないでちょうだい!!」
「この愚民が…。この間のことは水に流そうと思っていたが、そうはいかなくなった。俺が買ったらお前らは一生俺に盾つかないと約束してもらおう。そして、土下座だな!」
「へー、本当にいいんですか?貴族様。だったら、こちらからもお願いがあります。私たちが勝ったら、先程のことに加えてあなたにもこの間のことで謝ってもらいます」
「ほう、よかろう。貴様ただの媚びるだけの男だと思っていたが、違うようだな」
俺たちが口論をしていると、組合長による発表はSランクへと進んでいた。
『それでは、第5位…』
「さぁ、どうやらSランクの発表のようだが、俺が1位で決まりだろうな」
クロムが、シュナを挑発し始める。
「そんなの分からないじゃない!!」
シュナも、すかさず反論する。
すると、4位、3位と発表され、ついに2位の発表となった。ちなみに俺たちの組とクロムの組は未だ呼ばれていない。
『第2位…』
『クロム=ルーズベルト、リリアム=リーチェ!1200point!』
「ちっ!2位か。しかしこれはもう勝ったな」
すると、俺とシュナはクロムに向かって自信ありげな視線を送る。
「な、なんなのだ貴様ら…」
『そして、栄えある第1位の発表だ。第1位は…』
辺りに緊張が走る。
『ランク=アインメルト、シュナ=リーリル!!合計point、ダントツの1万5000ポイント!!』
一瞬静まり返る会場。
「「よっしゃーー!!!」」
俺たちは同時に声を上げ喜びハイタッチをする。
辺りも、あまりの高得点を見て驚きを隠せないでいるようにみてとれる。そして、当のクロムも、呆気にとられたという顔をしている。
「間違いだ!こんなもの!貴様ら不正をしたな?」
「してませーん!わたしとランクのコンビは最強なのよ!覚えてなさい!!」
「貴族様、約束。覚えてますよね?」
すると、クロムは顔を赤くして、「貴様らの不正、絶対に暴いてやる!!」そう言って走って言ってしまった。
「ほんとにしょうがないやつね。あいつ」
「そうだな。シュナよりめんどくさいやつは初めて見たよ」
俺がシュナをからかうように言うと、「どういう意味よ!」と顔を真っ赤にしてシュナは怒る。
そんなやり取りをしていると、『これで、発表は終了だ。Dランク以上のものは明日の正午、またこの広場に集まってくれたまへ』と放送が流れ、中間発表の場はお開きとなった。
にしても、クロムが2位ということはあいつの組みも同じフィールドに来ることになる。運良くあいつに会わずに試験を進めれたが、どうやら、そうもいかなくなってしまった。それに、気がかりなことはもうひとつある。メンバーとして名前が呼ばれていた、リリアム=リーチェという名前だ。クロムの感じを見ると、明らかに相方の方の実力でSランクを取得したということがよく分かる。これまで以上に気を抜けない。
「なーに、難しい顔してんのよ!明日に向けて休むため、宿に戻るわよ!!」
そして、俺たちはいつものようにボロ宿へと戻ると、疲れがどっときたのか、倒れるように眠りについた。
だが、この時俺たちを含めた冒険者たちは、まさかあんな事件が試験で起こるとは夢にも思っていなかったのだった。
英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験②
「ランク!あなたの上級魔法で、あそこのモンスターを焼き払ってちょうだい!その隙に私は罠魔法を仕掛ける!」
「りょーかいだ」
現在、俺たちは魔法演習用のフィールドにいる。今はまさに、冒険者適性試験の最中である。
俺は、シュナの命令通りに、上級魔法の詠唱を始める。
「力の源である我が命ずる。火の精よ、その真紅の炎を持って、大いなる豪炎をもたらしたまへ!」
「豪球炎(ザ・クリムゾン)!!」
なぜ、俺たちがこんな場所で戦っているのかと言うと、時間は約2時間前に少し遡る。
ーーー2時間前
「昨日来た冒険者組合前の広場に集合って言ってたけど、こんな所で試験を始めるのかしら?」
「うーむ、確かにそうだな。俺はてっきり荒野や森とかで行うものだと思っていたが、もしやこれから移動するのか?」
現在は昼。太陽の光がちょうど真上にある時間帯だ。
俺たちは冒険者適性試験のために冒険者組合前にある広場に来ていた。だが、どうもこんな所で試験なんぞできるとも思えない。ここには魔法陣が描かれているだけで、他には何も無い。第一、こんな場所で試験を始めれば結界を張ったとしても、街に被害がでてしまう。
そんなことを考えてると、後ろから鼻歌を歌いながらこちらへ向かってくる男が、俺の肩に手を置き話しかけてきた。
「はぁ、これだから辺境出身の田舎もんはなぁ」
小綺麗な身なりの男が典型的な嫌味を言ってきた。あ?やんのかこら!と心の中だけで威勢を張りつつ、俺は今の状況を知るため、その男に聞いてみることにした。もちろん敬語で。
「はじめまして。私はランク=アインメルトと申します。適性試験がここで行われると聞いたのですが、こんな場所で行うのですか?このままだと街に被害が出ると思うのですが…」
どうだ!この俺の世渡り術!必殺「とりあえず下手にでる」だ!別に相手が怖かった訳じゃないよ?決してね!
そんなことを思っていると、小綺麗な身なりの男が「しょうがないなぁ」と面倒くさがるように、ため息混じりに呟く。
じゃあ話しかけんなよ、と思っているとその男は自慢げに語り始めた。
「この魔法陣があるだろ??これは転移魔法の術式魔法陣だ!これで、魔法王様がお作りになった特殊結界が張られた空間へと転移するのだ!」
「なるほど…。この魔法陣は結界ではなく転移なのか。道理で難しい術式なわけだ。ありがとうございました。」
と、俺が納得した様子で感謝の言葉を述べると、男は腕を組み、俺を見下すように視線を向ける。
「ふんっ!光栄に思えよ?辺境出身の庶民。私は、クロム=ルーズベルト。偉大なるルーズベルト家の貴族であるぞ!そんな私に教えて貰えたことを有難く思えよ?」
なるほど、こいつ貴族だったのか。道理で身なりが周りと比べて、ずいぶん小奇麗なわけだ。
するとシュナが、怒りをあらわにした顔でクロムのことを見る。
シュナやめてよ?せっかく俺の必殺「とりあえず下手にでる」で貴族様に不快な気持ち与えずに済んでるんだからね?争いごとは嫌いよ?
「あんたねぇ!貴族だかなんだか知らないけど、冒険者登録をしたなら身分は同じよ!対等に話なさい!このイキリ野郎!!」
案の定シュナが怒り始めた。
こいつ、曲がったことは野菜の次に嫌いだからなぁ。まぁ、確かに冒険者登録をした人間は貴族であろうがなんだろうが冒険者と言う身分に統一されるんだが、争いごとはめんどくさい。正直試験前に暴力沙汰はほんとにやばい。
最悪、俺の最終兵器「ジャンピング土下座」を御見舞する羽目になってしまう。
「この女!誰にものを申してる。我はクロム=ルーズベルトであるぞ!貴様のその言動、貴族を敬わない言葉の数々は『不敬罪』に当たるぞ!!」
「そんなの知らないわ!同じ冒険者という身分なのに不敬罪もクソもないわ!」
クロムの発言に挑発されるように、シュナも怒りを露わにする。
クソっ。まさかこんなに早くとっておきの最終兵器を御見舞する羽目になるとはな…。
俺が覚悟を決めて、「ジャンピング土下座」の準備に入ろうとした瞬間、突然辺りに謎の「ピー!」という音が響き渡る。
「な、なんだ?」
困惑していると、突然声が聞こえ始める。
「こんにちは諸君。我は冒険者組合の長、ラルフ=ストロノーフである。」
「ラルフ=ストロノーフってあの四賢者の1人の!?」
シュナが声を張り上げて驚く。
まぁ、無理もない。ラルフ=ストロノーフとは『四賢者』と言われていて、魔王の配下の最高幹部を倒した英雄の1人である。
シュナに続くように、周りも驚きを隠せないでいると、ラルフ=ストロノーフを名乗る声は、試験の概要を説明し始めた。
「君たちには、昨夜冒険者登録をしてもらった訳だが、君たちはまだ冒険者(仮)に過ぎない。これから受けてもらう3日間の試験では君たちの冒険者適正度を調べる。」
「そのために、15歳となるまでに鍛え上げてきた、『魔法』『剣術』『体術』それら全てを駆使して、実戦形式でモンスターを討伐してもらいたい。そして、最終日には、君たちをS〜Eランクに適正度に応じて分けた後、パーティを組んでもらう。良いかな?」
なるほど。どうやら、今回の試験は魔獣ではなく、モンスターを倒すことが試験内容らしい。恐らくは村で倒した『キングホース』並のがゾロゾロいるイメージだろう。
「試験時間は約4時間。これまでに様々なモンスターを討伐してもらう。モンスターは強敵に応じてポイントを振ってある。無論強ければ強いほどそのポイントは高い。それが、試験の結果に大きく関わってくる。」
「どうやら、三日間での合計ポイントを争うってことらしいな。」
「そうね。面白いじゃない!!」
「ちなみに、今回の試験の三日間は2人1組。いわゆるツーマンセルで試験を受けてもらう。パートナーは自分たちで決めて良いものとする。これで説明は終了だ。」
ツーマンセルか。今回は運がいいな。シュナとのツーマンセルなら村で嫌になるほどやったし、シュナとなら作戦も立てやすい。
「あ、ひとつ言い忘れてた!その下の転移魔法。あと5秒で発動するから、パートナーとはグレないように手を握っててくれ。」
「なにーー!!」という受験者たちの声が一斉に街へ響き渡る。
「おい、シュナ手をよこせ!」
俺は急いでシュナに声をかける。するとシュナもそれに応えるように、俺の手をぎゅっと握る。
すると、さっきの貴族様。クロムがこちらを睨んで、叫びだす。
「貴様ら!俺を不快にさせたその不敬。絶対に許さないからな!!」
やっぱり根に持ってたかぁ。と思っていると、あたりが光り始め、転移が始まった。
そして、俺たちは見知らぬ野原へと転移した。恐らくは魔法演習用フィールドだろう。
「試験開始!!」
フィールド上に試験開始の合図がこだまする。
すると、シュナが両手を振り上げながら、元気よく声を張り上げる。
「燃えてきたじゃない!」
いやいや、あなたが喧嘩ふっかけた貴族様のことで俺の不安はいっぱいなのだが…。
俺のそんな不安を他所に、シュナは走り始めた。それに続くように俺も走り始める。
そうして、長い試験は始まった。
ーーー2時間後
「豪球炎(ザ・クリムゾン)!!」
俺の上級魔法がモンスターの大軍に直撃する。
「力の源である我が命ずる。地の精よ、我が声に答え、地の構造を造りかえよ!」
「地縛(グランドレストレイント)!!」
そして、シュナの上級魔法、罠魔法地縛(グランドレストレイント)が俺の豪球炎(ザ・クリムゾン)で、ダメージを負ったモンスターたちを襲う。
「これで合計100体ね!」
シュナが自信たっぷりに言い放つ。
そう、俺たちはいい感じに試験のポイントを稼いでいた。
英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験
『アンスラル魔法国』
それは、全人族を支配している国である。小国は各地に存在しているが、現在はこのアンスラル魔法国が全ての国を統治している。
トップは『魔法王テスカト=タナートル』
世界最強の魔道士であり、現代魔法の父とまで呼ばれている男だ。
魔法王は、各地の国を周り魔族の支配から全てを解放した。こうして、この世界の半分にアンスラル魔法国が生まれたのだ。
日も傾き始め、アンスラル魔法国が見えてきた。休憩を入れながらの移動だったので、ざっと半日以上かかってしまった。
正直疲れた。冒険者登録をするのは、今日の夜だが、その後は冒険者適性試験がある。
『冒険者適正試験』
この試験は、ランク付けを行うための試験である。冒険者になるには、昨日の登録に続いて適性試験を必ず受ける決まりがあるのだ。
だから、今日は王都の宿でゆっくりしたい。なんて考えていると、シュナが元気よく話しかけてきた。
「アンスラル魔法国もうすぐね。魔法王様に会えるかしら。冒険者として生きるなら、1度でいいからお目にかかりたいわ!」
「どうだろうな。魔法王様とやらはとても多忙らしいぞ?もしかしたら、会える奇跡もあるかもしれんが、0.1%の可能性もないだろうな。」
「そうよね。無理よねぇ…」
珍しく、シュナが俺の言葉に同意する。要するに、そのくらい誰にでもわかるってくらい、魔法王ってのは縁遠い存在なのだ。王ではあるが、彼の姿を知るものは極一部しか居ないなんて言われているほどに。
「まぁ、んなこと考えててもしょうがねぇだろ。王都に入ったらまずは宿探しだ。魔法王より屋根のある場所が大事だ。」
「そうね!ランク、あなた珍しくまともなこと言うのね。」
シュナが冷静な顔で、こちらを見て言う。
え?俺そんなにいつもまともなこと言ってないの?酷くない?
「さぁ、とうとう入国だぞ」
俺はシュナの言葉を無視するように言った。
べ、別にショックだったからとかじゃないんだからね!
そんなことを思っていると、シュナが自分に言い聞かせるように呟く。
「気を引き締めないと…」
シュナの言う通りだ。ここから先は命をかける覚悟が必要なのだ。冗談なんか言ってる場合じゃない。だめだぞ!俺!
「さぁ、ここからが俺たちの新しい第一歩だ」
俺は、気を引き締める意味を込め、一言呟いた。そして、俺とシュナは馬を入国官に預けた後、王都への第一歩を踏みしめた。
入国後の夜。俺たちは冒険者組合である『ギルド』という魔法国指定の場所で、冒険者登録を済ませた。
しかし今、俺たちは人生最大の窮地に立たされていた。魔獣の襲来?魔族の進軍?魔王の降臨?いいや、そんなことじゃあない。事態はもっと深刻だ…
「宿がねぇぇぇええぇ!!!!」
王都中に響き渡るほどの声で俺は叫んだ。俺のキャラが変わるくらいに。
入国後、王都の端から端を歩き回り、100件以上の宿に確認を取ったが、どこも満室だったのだ。どうやら、冒険者登録の影響もあり、地方の国や町、村などからの人間が多く来ているらしく、いつもの10倍以上も繁盛しているという。
「うるさいわねぇ。まだ最後の1件があるでしょ?諦めるのは早いわ。」
いいえシュナさん。もう無理ですよ?宿無し生活ですよ。確定で。
「最後の1件はここね…」
重い足取りで赴いた先は、ボロボロの宿屋だった。正直、屋根さえあればどこでもいい。犬小屋でもノープロブレム。そんな気持ちの俺に、そのボロボロの宿屋は、まるで豪邸のように光って見えた。
「ここがダメなら犬小屋生活or野宿…。運命の分かれ道だな…」
俺とシュナは、本来は軽いはずの扉にとてつもない重みを感じていた。それはもう凄いくらいに。
「なんつー重みだ。冒険者になるのがこんなに楽じゃねぇとはな…」
「そうね。運命の時よ…」
ドアを開け、俺たちは受け付けへと駆け込んだ。それはもう、ものすごい形相で。
「「部屋ありますか!?」」
「ぜ、全部屋空いております!」
俺たちの形相に圧倒されたのか、宿屋の受け付けのお姉さんは、少しだけ引いていた。いや結構引いてるな。
しかしながら、全部屋空いてて助かった。これで、屋根のある生活ができ…ん?全部屋空いてる?
「な、なんで全部屋!?いや、空いてるのは嬉しいんだけど…」
シュナが、驚きを露わにする。俺の疑問と同じことをシュナも思っていたらしい。
「実はこの宿、ボロボロすぎて部屋が外同然なんですぅ…」
「な、なんですって…!?」
こんな感じで、俺とシュナのボロ宿生活が始まったのだった…
翌朝、犬小屋よりは少しだけマシな宿で、一夜をすごした俺とシュナは、昼から行われる冒険者適性試験に参加する準備をしていた。
今日の適性試験は、 より多くの人間を育て上げ、戦場に出すために行われる。ちなみにランクは、Sランク、Aランクと続き、1番下はEランクまで存在している。これは強さや技術などの総合点で審査される。 俺たちの目標は、無論Sランクの取得である。何故ならば、ランクの上位を取れば、ある程度の特権をとることが出来るからだ。それがひいては村の貢献と発展へと繋がる。
「さぁ、出発よ!へっくしゅん!」
外同然の部屋で寝ていたシュナは、豪快なくしゃみをかましながら歩みを進め始めた。
明らかに風邪ひいちゃってるシュナを横目に、俺は、15年祭の夜のことを思い出していた。「シュナを守る。それが俺の使命です。」これは、リーリルさんとの会話の中で俺が話した言葉だ。恩人への恩返し。俺はシュナのことを守りきる。何があっても…。俺は心の中で、再度深く誓いを立てた。
「どうしたの?早く来なさいよ!!」
「あぁ、今行くよ」
俺は、早足でシュナの元へと歩み寄った。
冒険者適性試験は三日にわたり行われる。俺たち2人にとっての長い長い、三日間が幕を開くのだ。
英雄と6人の王【第1章】15年祭②
「ランク=アインメルト、シュナ=リーリル。2人を成人と認め、王都へ出発の許可を出す。頑張るように。」
15年祭の開幕式で、シュナの親父さん、村長のリーリルさんから出発の許可を得る。
リーリルさんは、魔族の攻撃により戦死した俺の父と母の親代わりになってくれた人だ。親を失い、独り身となった俺を育ててくれたまさに恩人である。
「リーリルさん、今日までありがとうございました。この恩は忘れません。必ず返してみせます。」
「お父さん!ランクと私は絶対死なない!この村のため、必ず貢献してくるわ!!」
俺とシュナは、リーリルさんの激励の言葉に返事をする。
「うぅ…。ランクぅ、シュナぁ…。頼むから行かないでくれよぉ…」
さっきの態度とは打って変わって、リーリルさんは泣き始める。そりゃそうだろう。明日から娘が、戦場へ赴くのだ。父親として心配なわけがない。
「大丈夫よ!お父さん!ランクと私は最強よ!!ちょっとやそっとじゃ死なないんだから!!」
「そうですよ。リーリルさん。それに、シュナのことは、俺が必ず守ります」
「ランクくん。君のことは、本当の息子として育ててきた。シュナ同様に心配なのだよ。君にも私は死んで欲しくないんだ。しっかり生きてくれ…うぅ…」
夜の風が身を震えさせるように、リーリルさんや村の人たちもみな、身体をふるわせていた。村の人たちは家族同然の仲間だ。俺とシュナの目からも自然と涙がこぼれる。
「みんな、今日は2人の門出となる祝いの日だ!存分に、盛り上がろうぞ!!」
リーリルさんが、俺やシュナ。村人たちの涙を察し、場を盛り上げる。
「うおおお!!!!」
それに続くように、村の子供たちやじいさん、ばあさんたちも涙を拭い声を上げた。
この日は、明日への門出。歌い、踊り、食い、喋る。夜遅くまで、祭りは続いた。
その夜。リーリルさんが俺に耳打ちをするように、相談があると言って「こっちだ」と手招きする。なんだろうと思い、俺は人気のない場所へと案内された。
「時にランクくん。君は息子同然に育ててきたと私は先程言ったよな」
「はい」
「ランクくんとシュナは兄妹のような関係だと私は思っている。必ず、生きて戻ってきて欲しいんだ。時に助け合い、励まし合う。そんな関係を築いてほしんだ。」
どうやら、リーリルさんの相談とは俺とシュナの事のようだ。無論当たり前である。恩人の娘であるシュナを見殺しにするはずなどあるわけもない。
「分かっています。シュナを守る。それは俺の使命です。必ずお互いに助け合い、励まし合うような冒険者になって、必ず生きて戻ってきて見せます。」
俺は、リーリルさんの目を見て語った。この言葉に嘘はない。そう訴えかけるように。
「やはり、君はすごいなランクくん。シュナからランクくんが混合魔法を使えると聞いたが、その歳でその目を出来る素晴らしい魔法使いになってくれたとは…。私も鼻が高いよ」
「いえ、俺なんてまだまだですよ」
「そんなことは無い。それに、君はシュナを守り、2人で生きて戻ってくると約束してくれた。私はそれが何より嬉しいのだよ」
リーリルさんは、涙を流しながら語った。俺にはそれが嬉しかった。誇らしかった。初めて、親代わりとなってくれた人へ、最初の親孝行ができた気がしたからだ。
その翌日、俺とシュナは早朝から出発の支度を済ませ、王都へ行く準備をした。王都へはかなりの距離があり、風魔法を付与した馬でも、半日以上はかかる。
「じゃあ、お父さん。行って来るわ!」
「リーリルさん。本当にお世話になりました。」
「うぅ…。2人のことは村から応援するからな…。頑張ってきてくれ…」
「「はい!」」
俺とシュナは簡単に挨拶を済ませると、事前に風魔法を付与した、馬に乗り、ラック村を後にした。
俺はシュナの方を見て、昨日のリーリルさんの話を思い出した。
「お前のことは必ず守るよ」
独り言のように俺は呟いた。誰にも聞こえないような、そんな声で。
「なんか言った??」
「いいや、なんでもないよ」
なんだこいつ、耳良すぎだろ…
とにかく、俺たちは今日冒険者となる。