英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験③
現時点で、冒険者適性試験は2日目が終了していた。ここ、冒険者組合では、組合長ラルフストロノーフと各国に存在する魔法国指定の冒険者組合加盟のギルドのギルド長、総勢10名が集まっていた。
試験を審査する際、組合長を議長とした、話し合いの場を持つのだが、現在は2日目終了時点での順位を話し合っている。
「ほう…。この2人はなんて言う名前だ?」
ラルフがギルド長たちに問いかける。
「組合長、その2人はランク=アインメルト、シュナ=リーリルのツーマンセルですな。」
「彼らは、二人とも上級魔法を使いこなし、アインメルトに関してはオリジナルの混合魔法まで扱います。」
「アインメルト…、リーリル…、ちなみに出身はラック村かね?ギルド長諸君」
「その通りでございます。」
「なるほど。やつめ、粋なことをしよる…」
ラルフは、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
組合の審査会議はそれから約1時間ほど続いた。
ーーー冒険者組合広場
俺とシュナは2日目の試験を終え、冒険者組合の広場に来ていた。なんでも、冒険者適性試験の中間発表を行うらしい。なぜ2日目で?という冒険者適性試験の受験者たちの疑問はあるのだが、それについての説明がされていないため、みんなそわそわしていた。
「一体どうなんでんだ?俺はてっきり最終試験の終了時にまとめて発表だと思ってたぞ」
「わたしもよ。でも、中間発表するのには何か組合も考えがあるのよ」
確かにそうだ。10以上もの魔法国指定の支部とされるギルドを束ねる冒険者組合。そして、この広場にあるのは冒険者組合が運営するギルドの本部だ。そこが開催している冒険者適性試験だと言うのに、意味の無いことが行われるはずがない。
すると、「ピーー!!」という音がどこからともなく聞こえ始める。恐らくは1日目同様の放送があるのだろう。
すると、広場の真ん中に大きな映像が映し出される。
「あれが、物体投影魔法か。魔道具を使うって聞いてたけど、嘘じゃなかったんだな」
と感心していると、ラルフ=ストロノーフその本人がその映像に現れる。
『2日目お疲れ様である、諸君。なぜ、このタイミングで発表かと思う者もいるだろうが、それを今から説明する。』
『今回の試験では、1日目、2日目は同じフィールドで同じ試験を行ってもらった。しかし、次の試験からは、君たちが集めたポイントに応じて、指定された難易度のフィールドでそこにふさわしいモンスターと戦ってもらうのだが…』
組合長による今回の試験の真意と解説が始まった。
その解説によると、今回の試験はどうやら2日目までに、ランクを確定させて、最終試験を受けることが出来るものを選別するという試験だったらしい。
現在、1000人以上で合計500組以上の冒険者が試験を受けている。そして、それをポイントに応じて選出された上位200名のうち、200位からをDランク、100位からをCランク、50位からをBランク、20位からをAランク。そして、5位からをSランクとして、試験を行うという。
そして、残りの201位以下の組をEランクとし、Eランクのものは試験終了ということらしい。
『今回の試験、なぜランクを今回の中間発表時点で確定させたかと言うと、1つは冒険者の育成にある。今回Eランクとなったものは、国指定のギルドに別れてもらい、訓練を受けてもらう。そして、残りのDランク以上のものはそのランクに見合った場所に派遣を行うこととなった。そのため、Dランク以上のものには実戦を学んでもらうために3日目の最終試験を用意した。』
「なるほどな。現状、今の魔法国と魔王軍の戦いは平行線を辿っているからな。それを打開するための新体制ということか」
「確かに、今までだと試験を受けたらすぐに戦場に行く冒険者が選定されて、戦いになってたものね。しかも、行く戦場もランク順で決めるなら、死者もかなり減るわ」
シュナの言う通りだ。今回の試験の真意は、この新体制を用いて、新しい冒険者の形を構築するためにあったということだ。
『それでは、早速ら200位からを合計ポイントとともに発表していく時間短縮のため、Bランクまでは、広場後方のモニターにて、映すものとする。呼ばれなかったもの、モニターにて確認のないものは201位以下のものである。』
『それでは、こちらからはAランクからを発表していく』
組合長による発表が始まった。すると、自信のあるものは、その場でAランクからの発表を聞き、自分の実力を知っているものは後方の物体投影魔法により映し出されたモニターを見に行くための移動が始まる。
「Sランク取得。リーリルさんへの最初の親孝行だな」
「そうね!それに、私たちだったら確実にSランクよ!!」
俺とシュナが話していると、聞き覚えのある口笛が聞こえてきた。なんだか悪い予感しかしない。
「やぁやぁやぁ、辺境の庶民。いや、愚民じゃあないかー!君たちがSランク?冗談もそこまでいくと笑えんなぁ」
クロムが大きな声でこちらを見て言ってくる。前と同様に、シュナと一触即発の雰囲気だ。まーた、この貴族様はテンプレも言わんばかりの言葉を喋るなぁ。あー、ほらあんたのせいでシュナさん怒っちゃったじゃない!もう!
「あんたねぇ、そんなの分からないじゃない!だったら勝負よ!私たちの方が順位が上だったもう私たちに関わらないでちょうだい!!」
「この愚民が…。この間のことは水に流そうと思っていたが、そうはいかなくなった。俺が買ったらお前らは一生俺に盾つかないと約束してもらおう。そして、土下座だな!」
「へー、本当にいいんですか?貴族様。だったら、こちらからもお願いがあります。私たちが勝ったら、先程のことに加えてあなたにもこの間のことで謝ってもらいます」
「ほう、よかろう。貴様ただの媚びるだけの男だと思っていたが、違うようだな」
俺たちが口論をしていると、組合長による発表はSランクへと進んでいた。
『それでは、第5位…』
「さぁ、どうやらSランクの発表のようだが、俺が1位で決まりだろうな」
クロムが、シュナを挑発し始める。
「そんなの分からないじゃない!!」
シュナも、すかさず反論する。
すると、4位、3位と発表され、ついに2位の発表となった。ちなみに俺たちの組とクロムの組は未だ呼ばれていない。
『第2位…』
『クロム=ルーズベルト、リリアム=リーチェ!1200point!』
「ちっ!2位か。しかしこれはもう勝ったな」
すると、俺とシュナはクロムに向かって自信ありげな視線を送る。
「な、なんなのだ貴様ら…」
『そして、栄えある第1位の発表だ。第1位は…』
辺りに緊張が走る。
『ランク=アインメルト、シュナ=リーリル!!合計point、ダントツの1万5000ポイント!!』
一瞬静まり返る会場。
「「よっしゃーー!!!」」
俺たちは同時に声を上げ喜びハイタッチをする。
辺りも、あまりの高得点を見て驚きを隠せないでいるようにみてとれる。そして、当のクロムも、呆気にとられたという顔をしている。
「間違いだ!こんなもの!貴様ら不正をしたな?」
「してませーん!わたしとランクのコンビは最強なのよ!覚えてなさい!!」
「貴族様、約束。覚えてますよね?」
すると、クロムは顔を赤くして、「貴様らの不正、絶対に暴いてやる!!」そう言って走って言ってしまった。
「ほんとにしょうがないやつね。あいつ」
「そうだな。シュナよりめんどくさいやつは初めて見たよ」
俺がシュナをからかうように言うと、「どういう意味よ!」と顔を真っ赤にしてシュナは怒る。
そんなやり取りをしていると、『これで、発表は終了だ。Dランク以上のものは明日の正午、またこの広場に集まってくれたまへ』と放送が流れ、中間発表の場はお開きとなった。
にしても、クロムが2位ということはあいつの組みも同じフィールドに来ることになる。運良くあいつに会わずに試験を進めれたが、どうやら、そうもいかなくなってしまった。それに、気がかりなことはもうひとつある。メンバーとして名前が呼ばれていた、リリアム=リーチェという名前だ。クロムの感じを見ると、明らかに相方の方の実力でSランクを取得したということがよく分かる。これまで以上に気を抜けない。
「なーに、難しい顔してんのよ!明日に向けて休むため、宿に戻るわよ!!」
そして、俺たちはいつものようにボロ宿へと戻ると、疲れがどっときたのか、倒れるように眠りについた。
だが、この時俺たちを含めた冒険者たちは、まさかあんな事件が試験で起こるとは夢にも思っていなかったのだった。