英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験⑤
「これはまずいかな…」
現在俺たちSランク取得組は、魔法陣から召喚された12体の魔獣との戦闘をしていた。
「リーチェ!俺をしっかり守れ!」
「了解しました。クロム様。」
右奥では、クロムがリリアルに任せっきりの状態で、戦闘が続いてる。どうやら、本当にリリアルのおかげでSランクを取得したんだなと横目で見ていると、「よそ見すんじゃないわよ!ランク!」とシュナから喝が入る。
「あー、すまん。他のやつらのことも確認しててな。この最終試験は訓練という名目だが、まだ試験が続いてるという線も捨てきれない。協力を目的としている訓練なら、俺たちチームの連携を試していると言えなくもないしな。」
俺が魔獣たちの攻撃を避けながら訳を説明すると、「確かにそうね…」と手を顎にやりながら、シュナも納得する。
魔獣は熊のようなタイプと大きな虎のようなタイプの2種類が12体。名前が付いてない下位の魔獣だが、実践経験の少ない俺たちでは少々骨が折れる相手だ。
現在は、アルとリリの2人が熊タイプ2体と虎タイプ1体、ケドルとアルレフは熊タイプを2体。そして、アリスとフリジアは、虎タイプを3体相手をしている。
そして、俺とシュナは残りの熊タイプ1体と虎タイプ2体。クロムの方はリリアルしか戦っていないため、虎タイプ1体を相手してもらっている。
しかし、全員苦戦を強いられてる様子だ。
どうやら、アレを使うしかないらしい。
「おいみんな!このままじゃ埒があかない。俺に考えがある。全員後方に下がり、防御魔法を展開してくれ!」
「どんな考えかは知らんが、このままだと体力を削られて終わりだ。任せたぞ!ランク!」
アルの言葉に「任された!」と返事をし、全員が後方へ下がり、防御魔法を展開したのを確認すると、俺は混合魔法の詠唱の準備に入る。
「力の源である我が命ずる。火と風の精よ、大いなる風をもって、炎を青き炎へ変えよ。そして、この全てを焼き払え。」
「風魔豪炎·極(テンペスト·ギガ·バースト)!!」
辺りに、熱風が吹き荒れ、上級魔法の暴風魔(ザ·テンペスト)と炎炎の豪(バーストフレア)の2つの相乗効果により、誕生した巨大な青い炎が魔獣たちを襲い、爆発が起こる。辺り一体は焼け野原となったが、全ての魔獣に戦闘不能になるほどのダメージを与えることが出来た。
「すまないみんな。あのままだと怪我人が出る可能性もあったから、全部倒しちまった。通常の魔法だと、あまりに時間がかかりすぎるから俺の使える魔法で1番強力なのを使わせてもらった。熱風は防ぎきれたか?」
すると、全員ポカーンという顔をしてこちらを見る。そして、我に返ったのか全員口々に、「いや、大丈夫だけども…」と不満そうな顔をしながら俺の質問に答える。
「え、いや、いいんだが、その魔法は一体なんだ!?まさかただの混合魔法とは言わないよな?」
アルが驚いて聞いてくる。すると、他のやつらもこれを聞くためなのか、こちらへと寄ってくる。そう言えば、この前もシュナにオリジナルの混合魔法見せたとき驚かれたっけか。まぁ、今回のはそれの進化版なんだがな。
「あれは上級魔法の暴風魔(ザ·テンペスト)と炎炎の豪(バーストフレア)の混合魔法だが?風が火の火力を上げることを考慮して俺が構築した魔法だ。」
俺は丁寧に説明をする。
「この前見たやつの進化版ってことなのね。でも、そんなのデタラメな混合魔法聞いたことがないわ。」
シュナが言うと、それに続くように「たしかに、混合魔法とは通常、上級魔法と初級魔法を組み合わせるものだからな」とケドルが補足を入れる。
「あー、確かにそうだが、シュナが見た前回のやつは、暴風魔(ザ·テンペスト)をひとつしか組み合せたないんだよ。しかし今回のは、それを2つにして、炎炎の豪(バーストフレア)の火力をあげたんだ。」
俺は、今回の魔法について詳しい説明を加える。
「シュナの言う通り進化版ではあるが、改良を加えたと言った方がニュアンスとしては正しいかな。それに、上級魔法どうしでも、タイミングと比率さえ間違わなければ、通常の混合魔法よりも強力なものを失敗せずに作り上げられるはずだぞ?」
俺の言葉に、一同の頭の上には大きく「?」 のマークが出ていた。
だが、唯一コクコクと感心している人物がいる。リリアル=リーチェだ。俺の混合魔法にびびって気を失ったクロムを介抱しつつ、俺の話を聞いていたらしい。
「あなた、凄いですね。2つの上級魔法を組み合わせるあんな魔法は見たことないです。」
と、俺に言った後、リリアルはこちらへと詰め寄ってきて、俺へ感動の眼差しを送る。
「そんな大層なものじゃないから…」
俺は、照れを隠すために後退りをしてしまう。だって、こんなダイレクトに褒められるのなれてないんだもん!!
そしてその後も、魔獣を倒した安心感から、みんなで魔法について話をしていると、不穏な空気を全員が感じ取る。
「おい、今の雰囲気、感じたことの無いものだな。」
アルがいち早く反応する。
「そうですわね。ですが、なんでしょう。この胸騒ぎは…」
すると、アリスの不安が的中したかのように、結界が崩れ始める。
すると、それに気づき、クロムが飛び起きる。
「あへ…んあ!?どんなんなってんだ!?」
明らかにおかしい。魔獣を倒したあとの試験終了の合図にしては、あまりにも悪趣味すぎる。
「全員。戦闘態勢を取ってくれ。」
すると、「なぜだ?」とケドルが聞き返してくる。
「こいつはやばい雰囲気がしまくってる。恐らくは上位魔獣…いや、それ以上の何かだ。」
すると、完全に結界は破壊され、辺りは薄暗い闇に包まれる。そして、辺りに物凄い威力の暴風が吹き荒れる。
「何が起こってるんだ…」
俺はその言葉を皮切りに、直ちに、風魔豪炎·極(テンペスト·ザ·バースト)の準備に入った。
そして、闇の中からなにかが現れる。その何かは悪趣味な笑顔の仮面を被った男だった。
「やぁ、皆さま。ご機嫌麗しゅう。我はカリオット。魔王軍の幹部にして、10柱が1人でございます。」
カリオットを名乗る男が名乗った瞬間、一気に体が重くなる。
「こ、これは…!?」
俺を含め、全員が地面へと倒れ込む。しかも、俺とシュナ以外はカリオットの言う『能力』というもののせいで気を失っていた。展開は最悪である。
そして、俺の展開した魔法すらも強制的に消されてしまう。
「これはすみません。あなたたちが弱いがために、私の“能力”が作用してしまったようですね。ですが、そこのお二人はさすが1位ですね。気絶されないとは…」
「おい、てめぇの目的はなんだよ。魔族!」
「これは失礼しました。私の目的は冒険者の殲滅です。」
「な…!?」
「そのために、洗脳魔法で組合を操作したのですがね…魔獣程度で事足りると思いましたが、まさかの誤算です。」
その時、俺はあることを思い出す。最初の放送に1日目、2日目にあった「ピーー!」という音がならなかったことだ。恐らくカリオットは、組合長すらも洗脳していたが、組合長が放送をする際にあの音を鳴らすことを知らなかったのだろう。
時すでに遅しとはまさにこの事を言うのだと実感している。まさに無力そのものだ。そう思っているとカリオットは耳を疑うようなことを喋り始める。
「魔獣で殺せなかったので、私自らあなたたちを殺しますが、冥土の土産に本当の魔法というものを見せて差し上げましょう。」
すると、カリオットは詠唱を始める。
「力の源である魔王軍の幹部にして、10柱が1人の我が命ずる。最悪の魔の精よ、全てから生という幻想を奪い去れ。」
「滅亡の歌(デスマーチ)」
なんとも傲慢な詠唱が終わると、どす黒い闇の波がこちらへと押し寄せてくる。
避けようにも、体が重く、全く動くことが出来ない。
「シュナ!今守る!こっちへこい!」
「むり!体が全く動かない!」
シュナを守ろうとするも体が全く動かない。
「動けよ!動けってんだ!!」
俺は自分の体を必死に動かそうとするが、言うことを聞かない。
そして、視界は暗くなり意識が遠のいていく。
「さらばです。アインメルトの子よ」
その途切れかける意識の中カリオットの言葉を最後に俺は意識を完全に失ってしまった。