英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験④
現在、冒険者適性試験3日目、最終試験が始まる直前の正午前。昨日、選出された計200人が会場に集められていた。
『こんにちは冒険者諸君。早速だが、今回の最終試験の説明を行う。』
いつもと違い、今回は前触れがなく放送が始まる。
『それでは、説明を行う。広場中央には、5つの魔法陣が描かれてるはずだ。それは、魔法王様がお作りになった転移用の魔法陣で、それぞれのフィールドへと繋がっている。右からS、A、B、C、Dとなっているから間違えないように。』
『もう一度言う…間違えないように。間違えたら、死ぬと思え!』
あたりが静まりかえる。みんな考えることは同じようだ。「死ぬくらいやばいのかよ…!?」と。
そして、ぞろぞろと全員が移動し始めた。
俺たちも早速Sランクの魔法陣へと向かった。
「へー!君たちが1位のスーパールーキーか!!」
魔法陣の場所につくと、短髪の金髪碧眼の男が愛想よく話しかけてきた。するとそれに続いて、「こら!アル!まず名乗るのが先でしょ?」とアルと呼ばれる男に注意をしながら、同じく金髪碧眼の少女が近づいてくる。
「あ、すまんすまん。申し遅れた!俺はアル=グルガー!そして、こいつは妹のリリ=グルガーだ!俺たちは双子の兄妹だ!!そして、俺たちのコンビは950ポイントで3位だった!!」
アルは、丁寧に自己紹介を俺とシュナにしてきた。そして、その自己紹介に続くように、リリもペコッとお辞儀をして、「よろしくお願いしますね!」と挨拶をしてきた。うーん、この初対面なのに、村の人たちと喋るような安心出来る感じ。こいつら良い奴だなぁ。
「俺はランク=アインメルト。こっちのうるさいのはシュナ=リーリルだ。俺らは同じ村出身で、幼馴染なんだ。2人ともよろしくな。」
俺もアルにならって挨拶をする。すると、シュナが「うるさいって何よ!!」と、わーわー騒いでるが、気にせず続ける。
「俺たちは今まで村から出たことがなくてな。今回が初めての王都で不安だったんだ。あんたたちみたいないい人に出会えてよかったよ。」
「そいつは良かった!よろしくな!ランクとシュナ!」
このフレンドリーさ。さすがいい人だ。
アルたちと話していると、奥の方から2組がこちらへと近づいてくる。
「お前らが1位と3位の組か!!よろしくなー!俺は、5位のクルガー=レポンだ!!こっちは、親友のアルレフ=リリック!コンビを組んでもらってるんだ!」
すると、クルガーに続いて「よ、よろしくです…」と隣にいるアルレフも挨拶をする。性格真逆の男性コンビのようだが、クルガーがアルレフの肩を組んでるのを見ると、仲がいいのがすごい伝わってくる。
そしてシュナがアルレフに、「二人は仲がとってもいいのね!」と言うと、アルレフは照れながら会釈をする。
「こんにちは、皆さま。わたくしはアリス=グリモリーと申します。隣は従者のフリジア=リールですわ。」
「皆さま、フリジアにございます。よろしくお願い致します。」
もう1組は、女性コンビのようだ。しかも、片方は貴族で、もう片方はその従者だという。貴族には良い思いはないので、一瞬身構えたが、従者への不当な扱いはないように見えるので、恐らくは悪い貴族ではないのだろう。
そして、アルがみんなを代表するように、「よろしくー!!」元気よく挨拶する。
その後、とりあえず全員自己紹介をし合って、これで4組が揃ったことになる。後は、問題のあのクソ貴族様だ。
すると、噂をすればなんとやらということで、もはや聞き慣れてしまった口笛が聞こえてしまった。聞き慣れちゃったのかよ!と自分でツッコミを入れてると、周りもどんよりとした雰囲気になっていた。なるほど、全て察した。こいつらも被害者。同士かと。
「フハハハ!出迎えご苦労諸君!我が名はクロォォォム!ルーズベルトォ!その本人…っだ!」
恐らくは練習したであろうクロムの巻舌でのウザすぎる挨拶とポーズをして、周りからドン引かれていると、後ろから小さな女の子がひょこっとでてきた。
「クロム様。どうやら、滑ってドン引きされている様子ですね…プフっ」
恐らくは、リリアル=リーチェという冒険者だろう。すると、クロムの「コラ!!リーチェ!いらんことを言うな!!」という声はお構い無しに、その女の子は、「小さいですが、15歳。皆さまお初にお目にかかります。リリアル=リーチェ。クロム様の従者にございます。」と自己紹介を始めた。
「あ、こんにちは」と全員困りながら挨拶をする。それもそのはず。あのクソ貴族の従者なのに恐ろしいほど礼儀正しいのだ。しかも、可愛い。
そんなことを考えていると、シュナが張り裂けそうなくらいに膨らましたほっぺをして、クロムたちに近づく。大丈夫?割れちゃうよ?
「クロム!!あんた土下座の約束はどうなったのよ!」
確信をつく質問。どうでも良すぎて忘れてたけど、そんな約束してたよなぁと思っていると、「そ、そんなの知らないぞ?」とクロムは焦っていた。
「まーまー、ここは仲良く行こうぜ?同期のSランクの仲間なんだし!」とクルガーが仲裁に入る。それに続くように「そうですわ。クロム殿、シュナさん。ここは争うべきではありませんわ。それに、今は試験直前です。」アリスも仲裁に加わる。
クルガーとアリスの言葉により、何とか暴力沙汰を未然に防ぐことができた。恐らく、ほっぺパンパンシュナさんはあと5秒で手が出ていたと思うので、とても助かった。二人には、感謝をせざるを得ない。
だが、2人はまだ睨み合っている。ほんとめんどくさいな二人とも…。すると、そのいざこざを遮るように放送が始まる。
『えー、全員移動できたようだな。今回の試験は、5組で1チームとした、合計10人のグループになってもらう。Sランク以外は、6人以上いるので我々の独断と偏見でメンバーは決めさせてもらった。』
最終試験は実際のパーティの最大人数である、10人とするらしい。要するに、最終試験は協力プレイが大事ということだ。たしかに、初めてのメンバーでの連携も実践では不可欠だからな。理にかなっていると言えよう。
『それでは転移を始める。全員死なないように。それでは、さようなら。』
転移が始まる。そして、俺たちは全員とても広い荒野へと転移させられた
だが、そこにはモンスターは一体もいなかった。
「なんだここは、拍子抜けだなSランク。」と、クロムが調子に乗ってフラグになりかねないことを言っていると、荒野のあちらこちらから魔法陣が出現し出した。
嫌な予感しかしなくなり、フラグを立てた張本人のクロムを睨むと、案の定悪い予感は的中した。
なんと、その魔法陣からは様々な魔獣が出てきたのだ。モンスターの類ではなく。
「な、なんなのだこれは!」クロムが叫ぶと、と、それに続くかのように、周りの奴らも1歩、2歩と後退りをする。まさかの展開に驚きを隠せない様子だ。
こうして、俺たちの絶体絶命の最終試験は幕を開けた。