【第1章】竜王との修行!
ここは俺の心の中。いわゆる精神世界だ。俺は今、竜王との修行の最中である。
《まず、無詠唱魔法に関しては2種類の方法があるんだよ。》
「2種類?」
《まずは1つ。君も魔法にはイメージを必要とするということは知っていると思うが、これは普通なら精霊の力を借りなければ不可能だ。だが、イメージ力は鍛えることが出来るんだ。これがあまり浸透してないのは、通常の魔法を行使する人は、精霊召喚と属性変換の仕組みさえ知れれば、イメージ力なんて鍛えず詠唱を覚えて、魔法を使うからだね。》
「で、その鍛え方ってどーやんだ?」
すると竜王は、なんの変哲のない丸い玉を手に出す。
《この玉は君の記憶にあったものを具現化したものだよ。まずはこれをただただ眺めてもらう。》
「へ?」
唐突におかしなことを竜王が言い出したので、俺は気の抜けた声が出てしまう。
《そして、その玉を眺めたあとはその玉を触り、硬さや温度、味、感触、大きさとかのさまざまな情報を知る。》
「え!味もか!?」
すると竜王は「味もだよ?」と真面目な顔でそれに答える。
《最後は玉をなしで玉を感じてもらう。1つ目と2つ目を真面目にやるとイメージだけで何も無くてもそこに玉のすべての情報を感じることができるようになる。その時に初級魔法程度の魔法を無詠唱で行使できるようになるのさ。》
「でもよ、初級魔法だけか?それじゃあ、無詠唱で唱えられても勝てないんじゃ…」
そう質問すると、竜王は「ほんと学ばないねぇ」と言い、やれやれという感じのジェスチャーをして見せる。こいつ、いちいち腹立つ幼女だ。見た目は可愛らしいのに。
《君と僕が最初に戦った時があっただろ?僕は初級中の初級の球炎(ファイアボール)だったのにも関わらず、君の上級魔法どうしを組み合わせた混合魔法に勝っただろ?それさ。》
「すまん、もう少し詳しく頼む」
《要するに、イメージ力を鍛えるということは無詠唱で唱え、魔力を節約することに加え、魔法のレベルアップの意味もあるということさ。精霊に補強されたイメージで扱う魔法よりも、強化した自分のイメージで作られた魔法の方がより強力となるんだよ。》
それを聞いて、俺は感心したようにコクコクと頷き、「じゃあ、2つ目は?」と竜王に質問をする。
《2つ目は、能力で強引に無詠唱という状況を作り出すということさ。》
「でも、能力って自分の意志で決められるものなのか?」
俺の質問に竜王は少々浮かない顔でこたえる。
《まぁ、正直こっちはオススメしない方なんだよね。能力はしっかりとした鍛錬を積めば任意の能力を手に入れることは可能。だけど能力には制約(ルール)が必ずついてくる。》
「制約(ルール)ってのは?」
すると、竜王は能力について詳しく説明を加える。
《それについては、順を追って説明していくよ。それにはまず、能力には“系統”があるということを知ってもらう。》
「その系統ってのは何種類あるんだよ」
俺が質問すると、竜王は指を2本立てて答える。
《大きく分けて2種類ある。魔法に関係がある能力を密接系、魔法とは関係の無い能力を分離系という。君は無詠唱を売りにした能力にしたいという事だから密接系を学ぶこととなる。》
「へぇ。でもそれだけだったら1つ目のやつよりも楽そうだけど?」
すると、竜王は能力についての問題点をあげる。
《2つほど問題はあるんだ。能力は一見万能とも思える力だけど、リスクがあるんだ。まず1つは自分の任意の能力にすることは可能。しかし、本人の潜在能力。いわゆる才能が大きくかかわる。》
「でも、可能なんだろ?」
俺の言葉を聞いた途端、竜王は伝え方を考えてるのか、「うーん…」と悩み始める。
《例えばの話をするけど、すごい大きい瓶と小さい瓶。どちらの方が水が入ると思う?》
竜王が子供でもわかるような質問をしてくる。
「馬鹿にしてんのか?そりゃ大きいほうだろ」
すると、竜王は「正解!」と言うと、先程の話の続きを話し始める。
《それが能力にも言えるんだ。大きい方を才能のある人、小さい方を才能のない人とした時、より強く大きい能力を扱えるのは才能のある人だろ?ない人はその能力を使おうと思っても、その10分の1の力も扱えないんだ。》
「要するに、どんなに強い能力を使おうと努力をすれば、習得することは可能。しかし、才能がなければその全てを使う事ができないってことだろ?」
そして、竜王は「そういうことー!」と言って次の問題点について説明を始める。
《そしてもう一つの問題点が、制約(ルール)にある。これは、能力を縛る行為だ。》
「能力を縛る?なんでそんなことを…」
《能力を縛るのは、自らの能力を強化するためさ。例えば、『木を武器にする能力』があるとする。これに『変えられる数は1日10個に限定する』という制約(ルール)を付けると、能力をつける前は大した剣が作れなかったのに、その制約(ルール)を付けた瞬間に業物の剣を作り出せたりするんだ。》
竜王の話によれば、制約(ルール)とはそれを使うことで能力の質を飛躍的にあげることが出来ると言う。だが、ここで少し疑問が生じる。
「でも、一体何が問題なんだ?それだけ聞けば何も悪いことはないんじゃないのか?」
《ここからが本題さ。前の話にもでた才能のない人がいるだろ?そいつらは能力を実戦まで使えるようにするために制約(ルール)を使うんだ。でも、ちょっとしたものでは強くはなれない。だから、自分の命を制約(ルール)に取り入れるんだ。》
「命を!?」
竜王の言葉から出た「命」という単語への驚きのあまり声が大きくなってしまう。
《うん。命っていうのはすごく重くてね。よくやるのは『能力を使って勝てなければ死ぬ』とかかな。これが『能力の使用後確実に死ぬ』だったらもーっと強力になるんだけどね。》
「それがお前の言っていた問題点か…たしかに、問題だな。」
《そうなんだよ。まぁ、才能があれば別にいいんだけど、それに乏しい力を求める人達が、制約(ルール)に死を取り入れて破滅する姿を僕は何回も見てきた。今の君が後者にならなきゃいいけどね。》
才能がない人間…この世界が完全な実力主義であり、才能がないものの努力など無意味であるのは明白な事実だ。この世界は才能がある人間もない人間も等しく努力を惜しまない。だからこそ、より力を求め、死をも惜しまない人間がいるのだろう。
「そう言えば、最初あった時から今とは違う俺を知っているみたいに言ってるけどどういう意味なんだ?ずっと気になってるんだよ」
《あー…いや、それは言い間違い?ってゆーか言葉のあやっていうかー…あはははは!》
竜王は笑ってそれを誤魔化す。
「まぁ、いいか。それはまた今度聞くことにする。じゃあ、イメージの修行と能力の修行を付けてくれよ!問題ない!俺は後者じゃなく、才能のある人間だ!心配すんな竜王!」
俺はそう言いながら竜王の頭を優しくポンポンとする。
《お、おい!子供扱いをするなー!僕は君よりもずーっと長生きしてるんだぞ!それに心配なんかしてないぞ!》
竜王がムキになって反論してくるので俺は「はいはい」と軽くあしらう。
《まぁ、それはいいよ!僕の修行は魔法王のやつよりもずっと厳しいよ!》
「あぁ、望むとこだ!」
そして、俺と竜王は俺が起きるまでの時間のおよそ6時間を精神世界で修行をして過ごした。
この魔法王と竜王による徹底された修行が、俺を一気にレベルアップさせるのだが、そのことに俺が気づくのは、もう少しあとの話…