Hachi_amumusanのブログ

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【第2章】プロローグ 旅立ち

 今日、街では冒険者組合による冒険者適性試験がギルド本部にて行われていた。

 2年前の例の事件により試験の見直しや管理体制、防御体制等に不備があったことが発覚し、ここ最近は試験の開催は見送られていた。しかし、今回は満を持して開催にこぎつけたらしい。しかも、冒険者登録はしたが、試験の開催が見送られていたために、試験を受けれてなかった人間が多くいたためか、受験者は過去最多となっていた。

 「凄いな。もはや街がお祭り騒ぎだ。」

 俺は城の廊下の窓から外の様子を眺めていた。すると、昼前にもかかわらず、道には溢れんばかりに人がごった返している。

 すると、師匠がいつもの笑い声をしながらこちらへとやってきた。

 「ほっほっほ!今回は人数が多いがために、6日間に渡って開催されるからのぉ。街はお祭も同然じゃよ。」

 「そういうことか。旅立つ日がちょうど一番人が多い時だなんて…これって国から出れんのか?」

 俺は手を顎に当てて、考えていた。

 なぜなら、俺が今いる場所は城とギルド本部がある中央街なのだが、国を出るには東西南北に中央街を囲むようにして出来ている街のどれかへと行く必要があるのだ。そのため、一番賑わっていて人の多い中央街を通るのも困難だし、宿を取るために周りの街も混んでいると思うので、出国するにはとても時間がかかってしまうのだ。

 「まぁ、そこは大丈夫。わしの転移があるからのぉ。ランクなら絶対そう言うと思って用意しといたんじゃ!」

  そう言って、師匠は魔法陣を展開する。それは前に見たことがあった、空間移動術式(キャリーウェイ)だった。

 「さすが師匠!今日は昼前には出たかったから助かった!」

 「まぁ、最初に目指すのがブレイン法国と言うのだから、早めに出るに限る。あそこは加速の魔法を使っても2日はかかるからのぉ。」

 そう、今回俺が最初に選んだ目的地はブレイン法国という、法治国家である。この国は王は存在しているが、法律が1番権力を持つとされる特殊な国家であり、アンスラル魔法国の統治下にある国のひとつだ。

 「だが何故、ブレイン法国を選んだんじゃ?魔法の近くにも国はあるぞ?」

 師匠の言う通り、たしかにある。しかし、ブレイン法国にはある目的のために行くのだ。

 「それは、ブレイン法国は治安が最も良く、そこを旅の休憩として立ち寄る冒険者も多いからだよ。だから、仲間集めには最適化と思って。それに、今年は4年に一度の『魔闘大会』が行われると聞いてな。」

 「なるほどのぉ。より強い仲間を求めるランクらしい選択じゃな。」

 「俺には強い仲間があと4人必要だからな。」

 実は、魔王や魔王幹部クラスとの戦いともなると、4〜5人のパーティを組む必要があるのだ。これは、魔法国が決めている規定であり違反することは出来ない。

 すると師匠は、首を傾げて「あれ?3人じゃないのか?」と言ってきた。うーん。ボケたのかな?師匠。

 「俺一人で冒険者として旅に出るんだぜ?魔王討伐は4〜5人必要だから、俺は最大数の5人でカリオットと魔王を討伐するって前言ったろ?なのに3人じゃ4人じゃねぇか。まぁ、規定内ではあるけども。」

 「いやいや、そういう事じゃなくてのぉ…」

 師匠がそう言いながらあたふたし始める。まるで時間でも稼いでいるかのように。

 すると、後方から走ってくる女の子が一人。肩にかかったミディアムくらいの金色の短い髪をなびかせ、翡翠色の瞳が日にあたり輝いている。そして、髪からほんの少し尖った耳がひょこっと出ていた。そう、リリアルだ。

 「ちょっと待ってくださいよー!!」

 そう言いながらリリアルは走ってこちらへと向かってくる。

 うーん。ちょっと待ってね?俺はリリアル巻き込みたくないから出発時間はリリアルに話さなかったんだよ?

 そして、俺は気づく。なぜ師匠があんなに、あたふたしながら時間稼ぎとも取れる行動をしていたのか。あのクソジジイ!やりやがった!

 「おい!師匠!事情を説明しろよ。これはどう言う…」

 すると、それを遮るようにリリアルが息を切らせながら喋り始める。

 「それは私が説明しましょう!ランクが私に心配をかけないように、何も言わずに出発しようとしていることを魔法王様から聞きました!なので、来ちゃいました!」

 「いや、来ちゃいましたじゃねぇよ。師匠も師匠だ!俺言ったよな?」

 すると師匠は、リリアルの肩を持つように「だってリリアル可哀想じゃん?」と言う。こんの、クソジジィ…

 「ランク!私も連れていってください!!私だってあの被害者だし…それに、ランクを助けたいんです!仲間として!!」

 リリアルが真っ直ぐにこちらへと思いをぶつけてくる。しかし、こちらにも譲れないものはあるというものだ。

 「だめだ。お前のことだから、ついて行くとか絶対に言うと思った。だから、俺はお前にあえて伝えなかったんだ。」

 「なんでですか!あなたは私を仲間と言ってくれた…だから、私はあなたの助けになりたいんです!」

 気持ちはありがたい。だが、さっきも言った通り、俺にも譲れないものがある。

 「だからこそだ。お前は仲間だからこそ、もう失いたくない。リリアル、お前は人一倍努力家で仲間思いなやつだからな。そんなお前を傷つけられたくないんだ…」

 すると、師匠から怒りの声が発せられる。

 「コラ!ランク!!お前ちとリリアルを舐めすぎじゃぞ?実は言っていなかったが、リリアルにもわしは修行をつけてたのじゃ。どうしてもお前の力になりたいからとお願いされてのぉ。」

 すると、リリアルは頭を下げて、「黙っててすみません!」と言ってくる。

 「私、魔法王様にお願いをして癒しの魔法の援護系の魔法を学んでたんです。そして、あなたを助けたくて…!」

 「癒しの魔法を!?」

 俺がそう言うと、師匠はリリアルの肩に手をポンと乗せてその経緯を説明する。

 「癒しの魔法はわし以外は使えない魔法じゃった。しかし、ハーフエルフという潜在能力の高さや高い魔力操作性。そして彼女の努力がそれを可能にしたんじゃ。それに、援護系の魔法もランクを助けたいという一心から習得したんじゃ。」

 どうやらリリアルは陰でものすごい努力をしていたようだ。癒しの魔法というこの世界で魔法王のみしか使えないとされていた魔法は、才能だけでは習得はできない。

 「まさか、お前がそこまでして俺について行きたいなんて思わなかった…分かった!分かったよ!着いてきてもいい!好きにしやがれだ!」

 俺がそう言うと、リリアルは師匠に「やりました!!魔法王様!!」とかいいながら喜んでいた。

 「ただし!お前になにか危険があったり、これ以上ついてきたらダメだと思ったら国に返すからな。それが条件だ!」

 すると、プクッと頬を膨らませて「分かりましたよー」と拗ねたように言ってきた。可愛い。

 そして、師匠もリリアルに続くように「ケチケチー」と頬をふくらませながら言ってきた。ジジイ。あんたは可愛くない。

 「師匠。そういう事だから、二人分になるけど大丈夫か?」

 「無論、最初から2人行けるように用意しとったわ!」

 そう言うと、師匠はすぐに空間転移術式(キャリーウェイ)が発動させた。

 「じゃあな、師匠!今までありがとう!」

 俺がそうお礼を言うと、リリアルも続くように「魔法王様ありがとうございました!」と挨拶をする。

 「たまには戻ってくるんじゃぞ?頑張れ2人とも!」

 師匠がそう言うとあたりが光り始める。

 そして、俺とリリアルの2人は北街の門の前へと転移した。

  「こっから先は危険なことも多いだろう。しっかり着いてこいよ。リリアル!」

 「はい!ランクのお役に立てるよう、修行の成果を見せちゃいます!」

 そして、俺とリリアルはブレイン法国へ向けて歩き始めた。

 集めるべき残る仲間はあと3人。長い準備期間を得て、俺たちの長い長い旅が今、幕を開けた。

【エピローグ】今の話

 春の爽やかな風が、国の少々雨露の着いた木々をほのかに揺らし、まるで雨で濡れた国全体を乾かしているようだった。この国、アンスラル魔法国は春前の1週間にも及ぶ大雨を終え、今は、新しい季節が始まろうとしていた。

 現在は、冒険者適性試験で起こった、カリオットによる冒険者の殺害事件から、およそ4ヶ月が経っていた。この事件では、今年加入の冒険者がSランク組とEランク組を残し全員が死亡。そして、魔獣の出現により冒険者組合のギルド本部も壊滅状態。その周辺の街にも被害を及ぼした。俺が事件後師匠の助けにより、すぐに魔法王の城へと行ったため、この事実を知ったのは既にすべての事が済んだあとだったのは言うまでもない。

 壊滅したギルド本部と被害があった周辺の街はほぼ復興を終えていて、まるでそんな大きな事件が起こったのかという程であった。

 「あ!ランク!こんな所でなにしてるんですか!?」

 聞きなれた敬語と可愛らしい声が後方から飛んでくる。リリアルだ。

 実はあの事件の後、リリアルはカリオットの能力から唯一解放された冒険者として、重要参考人となった。だが、ハーフエルフだという背景や俺が上層部へと説得をしたのもあり、約1ヶ月で地下の収容所からは開放されていた。その後は街の復興に協力しつつ、街に部屋を借りて生活しているとの事だ。

 「あー、ちょっと買い物にな?かれこれこの街にも計4ヶ月ほどいたからな!もはやここら辺は俺の庭ですよー!」

 俺が冗談っぽく言うと、「なんですかそれー!」とリリアルは俺をぺちぺちと叩きながら笑って言ってきた。その顔からは以前の、主人を傷つけられ、ハーフエルフとしての一人での生活に不安を抱いていた彼女の顔とは違ったものを俺は感じていた。

 「で、そんなお前は何してんだ?もう復興の仕事もないんだろ?」

 俺がそう質問するとリリアルは少し照れくさそうにモジモジとする。え?なに?新手のテクニック?

 「じ、実はですね…今日はこれをランクに渡したくて!」

 その手から差し出されたのは、魔法向上の付与がなされた腕輪だった。

 「なに?これ」

 本当に、なんで急に腕輪を渡されたのかよくわからなかったので、恐らく聞くのは野暮なのだろうが、俺は思わずリリアルに聞いてしまった。

 「え?忘れちゃったんですか!?今度会ったらお礼するって言ったじゃないですか!!結局会って直接渡す機会がなくて、4ヶ月も経っちゃいましたけど…」

 すると、リリアルは申し訳なさそうに肩をすくめる。 

 「あ、あーあれね!いやーすまんすまん!最近はずーっと修行だったし、そんなこと考える暇なかったからなぁー。ありがとな!」

 そして、そんなリリアルをフォローする意味も込めて笑いながら頭をポンポンとする。

 「えへへ…どういたしまして、です!そう言えば、買い物って言ってましたけど今日は修行ないんですか?」

 「そうなんだよー。だから、どうしても欲しいものがあってな…」

 すると、「その欲しいものとは?」とリリアルは首を傾げて聞いてくる。

 「これだよ。」

 俺はそう言って、少し古い本を手に持っていた布製のカバンから取り出す。その本の題名は、『Legendary hero』。それはこの世界に伝わる昔話である英雄王の話の本だ。

 「あ!それ私好きでした!かっこよくて、いつか結婚するとか昔は思ってましたよ!」

 「あー、それシュナも言ってたよ。やっぱ女の子ってそう思うのかね?」

 懐かしいことを思い出してしまった。元々、この本もシュナが好きだった本という理由だけで買ったものなのだが、シュナは小さい頃毎日のように「私は英雄王と結婚するの!」と言っていた。リリアルのその言葉でその時の記憶が鮮明に蘇る。

 「へー!シュナさんも好きだったんですね!シュナさんが起きたら私、英雄王の話をしたいです!」

 「お!頼むよ!あいつも喜ぶと思うぜ?俺は昔色々あってその本好きじゃなかったから、あんまり話し相手になってやれなかったんだよ。」

 俺がそう言うと、「任せてください!」と握った手を胸にポンっと当てて自信ありげにリリアルは言った。しかしその後で、「でも、私の出番はないかもですねー」と、付け加える。

 俺は「ん?」と思ったので、リリアルにその言葉の意味を聞くことにした。

 「え?どういう意味だ?」

 「だってそれ、シュナさんが起きたら一緒にその話をするために買ったんですよね?」

 俺はまさかの図星を疲れたので「え、いや」と変な返事を返してしまう。リリアルの言うことは照れくさいがほとんど合ってる。

 「バレバレですよー!」

 リリアルが茶化すようにそう言ってきたので、「うっさい!」と俺はリリアルにツッコミを入れる。

 それを聞いて、なぜだかリリアルは「えへへー」と嬉しそうにしていた。え?ドMなの?

 今は、こんな感じで楽しく話しているが、リリアルのことは最初、油断ならないなんて思っていた。

 しかしそんなことは無く、リリアルがクロムのことを守りながらSランク2位の地位を獲得出来ていたのは、ハーフエルフという魔力操作のプロフェッサーだったからであり、別に疑うようなものでもなかったのだ。そして、リリアルは今では良き友人となっている。

 「腕輪ありがとな!早速明日からの修行で使ってみるよ!!」

 「はい!それでは失礼します!また機会があればご飯でも!」

 リリアルはそう言って、手を振りながら去っていった。

 そして俺も、「おう!またなー!」と言って手を振り返すと、帰るために城へと歩き出す。

 季節が代わり、あれから4ヶ月が経っていてもなお、心にはポッカリ穴が空いたままだった。恐らくはリリアルも同じだろう。

 だが、俺はいつも通りを貫くことを決め、リリアルもそれに賛同し、同じくいつも通りを貫いている。別にそれは、今も尚カリオットの能力に苦しむみんなのことを忘れたからとかでは無い。俺たちは一時の時間だけでも仲間だったのだから。

 みんなはまだ死んだ訳では無い。俺たちが前を向き続ければ必ず助けられる存在だ。だからこそ、俺とリリアルは前を向き続け、いつも通りでいることを決心したのだ。

 明日からも、みんなを助けるために俺は修行に励む。魔法王と竜王。2人の師匠の元で。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それから約1年6ヶ月…あの事件から2年が経った頃、俺の修行も終わりを迎えていた。

 「いやぁ〜、ランク。お主やるのぉ!たった2年で、わしと戦えるようになるとは…」

 「いやいや、師匠がまだ本気じゃないからだよ。いつか本気の師匠に勝てるくらい強くなるよ!」

 俺は師匠にお疲れ様の意味を込めグッと拳を出し、師匠もそれに応え、トンっと拳を当ててくれる。

 「ほっほっほ!楽しみじゃな!明日からはとうとう出発か…長い準備期間となってしまったが、大丈夫かね?」

 「あぁ、今の俺の実力がどれだけ通用するかはまだ分からない…でも強くなれた気がするんだ!試したい。それが今の気持ちだよ。」

 そう言うと、師匠はにっこり笑って「ほっほっほ!」といつもの笑いをして見せる。

 「その意気込みはよしじゃ!お主はわしですら到達出来なかった、“無詠唱の境地”へと至った。恐らくはどんな相手でも勝てる。わしが保証しよう!」

 「そうだといいんだがな…まぁ、まずは仲間探しもしなきゃダメだし、やることはいっぱいさ!」

 俺がそう言うと、師匠は俺の目を見て話を始める。

 「ランク。君の目的はたしか、カリオットの討伐、そして仲間たちの能力からの解放…じゃったよな。なら、その目的を達するために、お前の全てをぶつけてくるんじゃ!あと、君たちの仲間はわしを筆頭に絶対に守る。安心しなさい。」

 その言葉を聞いた俺は、師匠へ向けて深くお辞儀をする。

 「ありがとう…何から何まで本当に。絶対にカリオットを倒して、師匠にも恩を返すよ!今日の最後の修行、本当にありがとう!!」

 「ほっほっほ!まぁ、気長にやりなさい。」

 そして、俺と師匠は固い握手を交わした。

 俺は明日冒険者として旅立つ。長い長い、準備の期間だったが、全ては整った。もう、誰も傷つけやしない。全てを守る。そのためにはまず、冒険者として4人の仲間を集め、カリオットを倒す。俺はそう静か決意を固めていた。

 ここから始まる、長い長い物語。ランク=アインメルトの英雄への物語。

【第1章】竜王との修行!

 ここは俺の心の中。いわゆる精神世界だ。俺は今、竜王との修行の最中である。

 《まず、無詠唱魔法に関しては2種類の方法があるんだよ。》

 「2種類?」

 《まずは1つ。君も魔法にはイメージを必要とするということは知っていると思うが、これは普通なら精霊の力を借りなければ不可能だ。だが、イメージ力は鍛えることが出来るんだ。これがあまり浸透してないのは、通常の魔法を行使する人は、精霊召喚と属性変換の仕組みさえ知れれば、イメージ力なんて鍛えず詠唱を覚えて、魔法を使うからだね。》

 「で、その鍛え方ってどーやんだ?」

 すると竜王は、なんの変哲のない丸い玉を手に出す。

 《この玉は君の記憶にあったものを具現化したものだよ。まずはこれをただただ眺めてもらう。》

 「へ?」

 唐突におかしなことを竜王が言い出したので、俺は気の抜けた声が出てしまう。

 《そして、その玉を眺めたあとはその玉を触り、硬さや温度、味、感触、大きさとかのさまざまな情報を知る。》

 「え!味もか!?」

 すると竜王は「味もだよ?」と真面目な顔でそれに答える。

 《最後は玉をなしで玉を感じてもらう。1つ目と2つ目を真面目にやるとイメージだけで何も無くてもそこに玉のすべての情報を感じることができるようになる。その時に初級魔法程度の魔法を無詠唱で行使できるようになるのさ。》

 「でもよ、初級魔法だけか?それじゃあ、無詠唱で唱えられても勝てないんじゃ…」

 そう質問すると、竜王は「ほんと学ばないねぇ」と言い、やれやれという感じのジェスチャーをして見せる。こいつ、いちいち腹立つ幼女だ。見た目は可愛らしいのに。

 《君と僕が最初に戦った時があっただろ?僕は初級中の初級の球炎(ファイアボール)だったのにも関わらず、君の上級魔法どうしを組み合わせた混合魔法に勝っただろ?それさ。》

 「すまん、もう少し詳しく頼む」

 《要するに、イメージ力を鍛えるということは無詠唱で唱え、魔力を節約することに加え、魔法のレベルアップの意味もあるということさ。精霊に補強されたイメージで扱う魔法よりも、強化した自分のイメージで作られた魔法の方がより強力となるんだよ。》

 それを聞いて、俺は感心したようにコクコクと頷き、「じゃあ、2つ目は?」と竜王に質問をする。

 《2つ目は、能力で強引に無詠唱という状況を作り出すということさ。》

 「でも、能力って自分の意志で決められるものなのか?」

 俺の質問に竜王は少々浮かない顔でこたえる。

 《まぁ、正直こっちはオススメしない方なんだよね。能力はしっかりとした鍛錬を積めば任意の能力を手に入れることは可能。だけど能力には制約(ルール)が必ずついてくる。》

 「制約(ルール)ってのは?」

 すると、竜王は能力について詳しく説明を加える。

 《それについては、順を追って説明していくよ。それにはまず、能力には“系統”があるということを知ってもらう。》

 「その系統ってのは何種類あるんだよ」

 俺が質問すると、竜王は指を2本立てて答える。

 《大きく分けて2種類ある。魔法に関係がある能力を密接系、魔法とは関係の無い能力を分離系という。君は無詠唱を売りにした能力にしたいという事だから密接系を学ぶこととなる。》

 「へぇ。でもそれだけだったら1つ目のやつよりも楽そうだけど?」

  すると、竜王は能力についての問題点をあげる。

 《2つほど問題はあるんだ。能力は一見万能とも思える力だけど、リスクがあるんだ。まず1つは自分の任意の能力にすることは可能。しかし、本人の潜在能力。いわゆる才能が大きくかかわる。》

 「でも、可能なんだろ?」

 俺の言葉を聞いた途端、竜王は伝え方を考えてるのか、「うーん…」と悩み始める。

 《例えばの話をするけど、すごい大きい瓶と小さい瓶。どちらの方が水が入ると思う?》

 竜王が子供でもわかるような質問をしてくる。

 「馬鹿にしてんのか?そりゃ大きいほうだろ」

 すると、竜王は「正解!」と言うと、先程の話の続きを話し始める。

 《それが能力にも言えるんだ。大きい方を才能のある人、小さい方を才能のない人とした時、より強く大きい能力を扱えるのは才能のある人だろ?ない人はその能力を使おうと思っても、その10分の1の力も扱えないんだ。》

 「要するに、どんなに強い能力を使おうと努力をすれば、習得することは可能。しかし、才能がなければその全てを使う事ができないってことだろ?」

 そして、竜王は「そういうことー!」と言って次の問題点について説明を始める。

 《そしてもう一つの問題点が、制約(ルール)にある。これは、能力を縛る行為だ。》

 「能力を縛る?なんでそんなことを…」

 《能力を縛るのは、自らの能力を強化するためさ。例えば、『木を武器にする能力』があるとする。これに『変えられる数は1日10個に限定する』という制約(ルール)を付けると、能力をつける前は大した剣が作れなかったのに、その制約(ルール)を付けた瞬間に業物の剣を作り出せたりするんだ。》

 竜王の話によれば、制約(ルール)とはそれを使うことで能力の質を飛躍的にあげることが出来ると言う。だが、ここで少し疑問が生じる。

 「でも、一体何が問題なんだ?それだけ聞けば何も悪いことはないんじゃないのか?」

 《ここからが本題さ。前の話にもでた才能のない人がいるだろ?そいつらは能力を実戦まで使えるようにするために制約(ルール)を使うんだ。でも、ちょっとしたものでは強くはなれない。だから、自分の命を制約(ルール)に取り入れるんだ。》 

 「命を!?」

 竜王の言葉から出た「命」という単語への驚きのあまり声が大きくなってしまう。

 《うん。命っていうのはすごく重くてね。よくやるのは『能力を使って勝てなければ死ぬ』とかかな。これが『能力の使用後確実に死ぬ』だったらもーっと強力になるんだけどね。》

 「それがお前の言っていた問題点か…たしかに、問題だな。」

 《そうなんだよ。まぁ、才能があれば別にいいんだけど、それに乏しい力を求める人達が、制約(ルール)に死を取り入れて破滅する姿を僕は何回も見てきた。今の君が後者にならなきゃいいけどね。》

 才能がない人間…この世界が完全な実力主義であり、才能がないものの努力など無意味であるのは明白な事実だ。この世界は才能がある人間もない人間も等しく努力を惜しまない。だからこそ、より力を求め、死をも惜しまない人間がいるのだろう。

 「そう言えば、最初あった時から今とは違う俺を知っているみたいに言ってるけどどういう意味なんだ?ずっと気になってるんだよ」 

 《あー…いや、それは言い間違い?ってゆーか言葉のあやっていうかー…あはははは!》

 竜王は笑ってそれを誤魔化す。

 「まぁ、いいか。それはまた今度聞くことにする。じゃあ、イメージの修行と能力の修行を付けてくれよ!問題ない!俺は後者じゃなく、才能のある人間だ!心配すんな竜王!」

 俺はそう言いながら竜王の頭を優しくポンポンとする。 

 《お、おい!子供扱いをするなー!僕は君よりもずーっと長生きしてるんだぞ!それに心配なんかしてないぞ!》

 竜王がムキになって反論してくるので俺は「はいはい」と軽くあしらう。

 《まぁ、それはいいよ!僕の修行は魔法王のやつよりもずっと厳しいよ!》

 「あぁ、望むとこだ!」

 そして、俺と竜王は俺が起きるまでの時間のおよそ6時間を精神世界で修行をして過ごした。

 この魔法王と竜王による徹底された修行が、俺を一気にレベルアップさせるのだが、そのことに俺が気づくのは、もう少しあとの話…

【第1章】修行開始!

 《そう言えばランク。君はカリオットと戦っているとき、悲しみや憎悪が溢れていたが、魔法王に出会ったあたりから言動や感情が落ち着いているよね?なぜだい?》

 城へ向けて走っていると、竜王が突然変な質問をしてくる。

 (なんでだ?)

 《いや、特に理由はないが、少し気になってね…》

 (まぁ、そうだな。師匠は魔法でシュナたちを助けてくれた。それで、気持ちが落ち着いたってのもあるんだが…)

 《あるんだが?》

 竜王は本音の理由を知りたいのか催促するように聞き返してくる。

 (うーん。いや、今言うのはやっぱ辞めとく!今度機会があるときな。)

 《えー!教えてくれてもいいじゃないかー》

 竜王は俺の心の中で「ケチケチー」と言いながらブーブー言っている。何だか、シュナと会話していた時を思い出してなのか懐かしい気持ちになる。

 そうこう話をしていると、城が見えてくる。

 (ギリギリだけど間に合いそうだな。)

 《とは言っても後5分くらいだけどね》

 (余計なお世話だ。遅れなければ、何分前だろうが、ピッタリでも問題なし。)

 俺がそう言うと、竜王は両手を上げ、首を振りながら「やれやれ」と言っていた。

 《出る時はすんなり行けたけど、門番の人に言わたろ?入る時は3分程時間がかかるって。》

 そう、実は組合長へ会いに行くために修行開始

 前の残り時間を使い外出してた訳だが、その時門番に「3分程入る時には時間をもらいます」と注意を受けていたのだ。

 (やばい!完全に忘れてた!!)

 こうして、俺の修行初日は遅刻から始まった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 俺は今、修行のために魔法王専用に造られたという魔法実践用の訓練場にいた。

 「気の緩みは心身の緩み!今後は気をつけるのじゃ!」

 「すまない師匠。これからは気をつける」

 俺はそう言って謝罪の意を込めてお辞儀をする。

 すると、「まぁ、今日は大丈夫じゃ」と言って師匠は話を進める。

 「それはそうと、ランクくん。少し顔つきがかわったのぉ。なんだか、覚悟が決まった男の顔をしているぞ?」

 「まぁ、守るものを。守るべきものを再確認出来たからかな。」

 俺は、師匠の目を見て今思ってることを真っ直ぐに伝えた。

 「やはり君は良い。さて、早速始めるとしようか、ランクくん」

 「おう!」

 俺は拳と拳をドンッと叩き合わせ気合を入れる。

 「さて、ランクくん。突然だが、君は“精霊”と“詠唱”について知っているかね?」

 「精霊って、詠唱のときに言うなんとかってやつだろ?あと、詠唱はわかる。魔法を使う時の定型文みたいなやつだ。」

 「うむ。不正解じゃ!」

 そう言うと、師匠は精霊と詠唱について説明を始める。

 「精霊とは、魔法を扱う上で我々が召喚している存在なんじゃ。」

 「召喚?」

 俺は、聞きなれない単語に首を傾ける。

 「君たちは恐らく定型文を覚えて、魔法をただただ唱えていると思うが、本質は全く違う。定型文と思われているあの詠唱は、精霊の召喚と魔法のイメージを精霊に伝えるという役割がある。その結果、召喚された精霊は属性へと変化させた魔力を魔法という形へと変化させてくれるのじゃ」

 「精霊?でも俺たちはたしかに自分の魔力を変化させて魔法を使っているはずだが、んん??」

 すると師匠は俺の理解出来てない様子を見て、「順を追って説明するぞ」と言って説明を加える。

 「まず精霊についてじゃ。精霊はこことは違う世界に無数に存在しているとされている。そして、その精霊は魔法発動の補助役と呼ばれているのじゃ。」

 「補助役?」

 「そうじゃ。そう呼ばれる所以は後々話すとして、彼らは我々の声に答え、詠唱の際に召喚される。その際魔力を対価として無意識に我々は精霊に魔力を渡している。それが召喚に伴う魔力。“召喚の魔力”じゃ。」

 師匠は左手の平を見せ、「これが召喚の魔力とする。」と言って俺に見せる。

 「次はこっちの右手じゃが、これは属性となる魔力。“属性の魔力”じゃ。ランクくん、五大属性と変質二属性を知っておるかな?」

 「五大属性って言うと、火、水、地、風、雷だろ?確か、火は風に強く、風は地に強く、地は雷に強く、雷は水に強く、水は火に強いだっけか?あと、変質二属性は、五大属性の法則に全く当てはまらない光と闇の属性で、お互いに弱点であり得意であるっていう…」

 俺が記憶を辿りながらそれについて話すと、師匠は「大正解じゃ!」と言ってさっきの説明の続きを話し始める。

 「魔法を使う際、魔力をその5つと2つの内どれかに変えるじゃろ?その時に使う魔力が属性の魔力じゃ。まぁ、何が言いたいかと言うと、この2つを合わせる。これが“魔法の魔力”じゃ。」

 すると、師匠は両手をパンっと合わせて見せる。

 「分かったかな?精霊を召喚するのが“召喚の魔力”、属性へ変化させるのが“属性の魔力”。そして、それを合わせたものが“魔法の魔力”なのじゃよ。」

 「でもよ、なんで精霊を召喚する必要があるんだ?」

 「それは、魔力を属性に変えれても、それを魔法として変化させることは不可能に近いのじゃ。魔法はイメージによって形作る。じゃが、人のイメージ力だけでは無理だから、精霊の力を借り、イメージを補強するというわけなのじゃ。これが最初の方に話した魔法発動の補助役と呼ばれる所以じゃ。」

 「それは知らなかった。ってことは俺たちは無意識にその一連の流れを詠唱をすることで行っていたのか…」

 「そのとおり。昔は、召喚と属性の変化に多大な時間を要したが、今では決まった詠唱で2つを同時に行い、戦いへと魔法を発展させたのじゃ。」

 なるほど、と掌に握った拳をポンッと乗せるととある疑問が頭をよぎる。

 「もし…もしもの話だけど、精霊を召喚せずとも魔法を使えたら。それはどうなるんだ?」

 「面白いことを考えるな…試した人物がいないから確証はないが、詠唱が必要なく、魔力を属性へと変化させた段階で魔法が使用できる。大幅な時間短縮と効率の良い魔力使用が可能になる。だが、先程も言ったが不可能だと思うぞ?」

 その言葉を聞いた時に、俺の頭にとある記憶が思い出される。竜王の魔法を見た時だ。あの時竜王は、詠唱を詠まずに初級魔法の球炎(ファイアボール)を使っていたのだ。

 「なるほど。見つけた!俺だけの技を…!」

 「まさか、ランクくん!無詠唱の魔法を使おうというのか!?やめた方が…いや、ここでは、止めるのは無粋じゃな。ランクくんよ、無論ここでは、しっかりと基礎と応用を学び、魔法への見識も広めてもらう。だがその挑戦、わしも微力ながら協力するぞ。」

 そう言いながら師匠はこちらに手を差し出す。そして俺は、その手を感謝の意を込め。すぐに握った。

 「ありがとう、師匠!」

 「なーに、大船に乗ったつもりで任せなさい!さぁ、魔法については教えた。これからは実戦形式での修行じゃ!!覚悟はいいか!」

 「覚悟は出来てる…!なんでもやってやる!!」 

  そして、修行は約4時間の間ノンストップで進んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「痛ててて…師匠強すぎるよ。」

 「まだ若いのぉ。だが、流石じゃな!分身とはいえ、カリオット倒すだけはある!」

 「でも、まだまだだ…結局師匠に攻撃当てられなかったしなぁー!」 

 そう言って俺は、地面に倒れる。

 「あ、そうじゃ。今日はこのあと何も無いから、リリアルちゃんのとこでも行ってきたらどうじゃ?」

 「リリアルのとこ?なんでだ?」

 「はぁ…分かってないのぉ。女の子が1人で、罪人とかもいる地下で事情聴取を受けてるのじゃぞ?心細いじゃろうて…そういうことも学ばないとダメじゃぞ?」

 「そういうもんなのか…」

 そう言って俺は、疲れきった身体を動かし、尋問室へと向かった。

 尋問室は城の地下に存在していて、罪人などを幽閉している場所だ。さすがに、1人では迷子になるので看守の人にあんないをたのんでいる。にしても寒い。地下だからだろうが、上との寒暖差がありすぎて凍えそうである。

 すると、尋問室と書かれた看板のある扉で看守の人は立ち止まった。どうやら到着のようだ。

  「ここが事情聴取を行っている尋問室です。」

  「ありがとうございます。」

 看守の人へお礼を言って中へ入ると、そこには中央に机がと椅子があり、そこにはこちらを向くようにリリアルが座っていた。

 「久しぶり、リリアル」

 「ランクさん!お久しぶりです」

 俺が声をかけると、パァと顔を明るくして立ち上がる。最初の方から思っていたけどこいつ小さいし可愛いな。小動物みたいだ。

 「朝は本当にありがとうございました。アンクさんがいなかったらもしかしたら今頃幽閉されてたかもしれません…」

 「いや、礼は良いよ。礼を言われることもしてないしな。」

 そう断ると、リリアルはプクーとほっぺを膨らまし、「ダメです!ランクさんが良くても私が良くないんです!!」と俺の方を見ながら言う。おいおい、ほんっとに可愛いな。

 「あ、そう言えば、俺の事をさん付けするのやめてくれよ。呼び捨てで頼む。仲間からはそう呼ばれた方がしっくりくるんだ。」

 「仲間ですか…本当にありがとうございます。なんだか貰ってばかりですね…」

 そう言いながらリリアルは涙を流し始める。

 「おいおい泣くなよ!なんでそんな泣いてるんだよ。」

 すると、リリアルは涙を流しながら俺の質問に答える。

 「私、昔から一人ぼっちで…しかも奴隷の出身だったんです。この耳のせいで…」

 すると、リリアルは髪で隠してた耳を出す。その形状はエルフよりも少し小さく、尖った特徴的な耳が出てくる。ハーフエルフの証拠である。

 「私はエルフ国の出身で、人とエルフの間に産まれました。」

 「でも、エルフって言ったら人族の中でも美しい部族として有名だよな?人気あるし。なんで奴隷なんかに…」

 俺が、そう質問するとリリアルは下唇をグッと噛みながら、堪えるように答える。

 「ハーフエルフは異形の存在とされていて…たしかに、エルフは人族の中でも特異な存在ですが、魔力の操作に長けている点や美しさから人々から好かれています。しかし、ハーフエルフは人間でもエルフでも無いという点で嫌われているのです。」

 「そうなのか。俺の村にはそんなのなかったから全然知らなかった。」

 「たしかに、奴隷制度が取らているのも一部の国のみですからね。知らないのも無理はないです。」

 この世界の半分に存在する人族は大きく分けて3種類いる。人間、エルフ、亜人である。エルフは基本人間の容姿だが、耳が尖っているという特徴があり、魔力コントロールに長けているという特徴もある。そしてもう1種類の亜人は、動物の耳と尻尾を持っていて、こちらも基本的には人間だが、力がとてつもなく強いという特徴がある。

 「奴隷になるのは、基本的にはハーフエルフや半亜人といったどちら側でも無い中途半端な人達です。私もそういう経緯があって嫌われていました。それに、もうひとつだけあるんです…」

 「もうひとつ?」

 「エルフは魔力コントロール亜人は超人的な力がありますが、そのハーフはどちらもその特殊な力が強化されているのです。これにより、人間とエルフ、亜人から嫌われる異形の存在として奴隷にさせられるのです…」

 「そうなのか…」 

 リリアルは一瞬悲しそうな顔をするがすぐに顔を明るくして、笑顔で話を続ける。

 「ですが、そんな時に助けてくれたのがクロム様でした!あの人は、そんな異形の存在である私たちハーフを従者として雇ってくれました。あの人が他人を馬鹿にしたり、下に見るのは、なめられて馬鹿にされないようするためで、私たちハーフに危険が及ぶことを危惧してなんです。」

 「そうだったのか。あいつもただのバカで間抜けな貴族じゃなかったのか…」

 「そうなんです!!」

 リリアル目をキラキラさせてこっちへ近づく。

 「そう言えば、話は変わりますがランクさん…あ!ランクははどうしてそうも前へ向けるのですか?私は大事な人が傷つけられるのを見て、とても恐怖心などがあります。でも、あなたは試験で会った時と同じです。」

 リリアルが朝に竜王から聞かれたことと同じような内容のことを聞いてきた。

 「あー、まぁ言うのは恥ずかしいんだが…」

 「お願いします!ずっと気になっていて…」

 こうもお願いされると、無下にできないということで、俺は包み隠さず答えた。

 「たしかに、俺も大事な人を傷つけられたよ?でもさ、それで悲しんでなんにもしないなんて、ダメだと思ったんだ。だから、前向いていつも通りでいようって…もちろん復讐したいって気持ちや魔族への憎悪とか怒りとかはあるさ。でも、戦いの時以外はシュナといた時のいつも通りの俺でいようと思ったんだ。」

 そう言うと、リリアルは目を輝かせて、コクコクと頷く。

 「へぇ!素敵ですね!私もそう思えればいいのですが…」

 「思えるさ!クロムは確かに、今は拘束状態だ。でも死んだわけじゃない!だから、リリアルもクロムといた時のいつも通りの自分でいて良いんだよ!」

 俺はリリアルの肩を掴み、目をみて言った。

 すると、リリアルは頬を少しだけ赤く染め、「ありがとうございます!」 と何度もお辞儀をしながら言ってきた。さすがに、こんだけ感謝されると照れてしまう。

 帰り際、俺が「また会いに来る!今度はここじゃなくて外で会おう!」とリリアルへ言うと、「まだ、尋問室なので、お礼は何も出来ないですが、必ずお礼しますね!!」言って手を振ってくれた。その姿もとっても可愛い。

 そして、看守の人に再度地上へ案内してもらっていると竜王が話しかけてくる。

 《僕には言わないで、無自覚にあざといチビ女には言うんだね!》

 (なーに、怒ってんだよ。お前もチビだろ?嫉妬してんのか?)

 すると、竜王が慌てて否定を入れる。

 《し、嫉妬じゃないさ!それに、今はチビだけど僕の本当の姿はボッキュボンのスーパーボディなんだからね!》

 (へー。それが本当ならすごいな。)

 《あ、信じてないなー?本当なんだぞ!》

 (ハイハイわかったよ。)

 俺はあしらうように竜王へ言った。そして、ふと師匠との会話を思い出し、竜王に頼み事をする。

 (そうだ、俺に無詠唱の魔法を教えてくれよ!お前がやったみたいにさ!!)

 《あー、魔法王の彼と言っていたやつだね?》

 (そうそう!)

 俺は、その経緯を詳しく説明する。

 《いいよ。君を強くすることは僕の願いだからね。》

 竜王が快諾してくれたので、ホッとしているととある問題を思い出す。

 (ありがとう竜王!だが、問題があって、朝と昼は師匠との修行だし、夜は事情聴取も入ってるらしいんだ…)

 《それなら問題ないよ。僕が君の心の中に居るということを忘れたのかい?君が寝ている時間に心の中で修行さ!!》

 (なるほど!マジで助かるよ!)

 俺がそう言うと、竜王は自慢げに「だろだろー!感謝はー?」と言ってくる。ちょっとだけウザイな…まぁ、とりあえずこれで、修行漬けではあるが、強くなるための算段はついた。これから絶対に強くなって、カリオットのやつを倒す。

 こうして、俺の修行ライフが始まったのだ。

【第1章】知らなければいけないこと

 今は、カリオットによる冒険者大量殺人事件が起きてから約1日が経っていた。街は、洗脳をとかれた組合長とギルド長を筆頭に復興作業が行われていた。

 「さて、そろそろいいかな。」

 ここは魔法王の城。俺は昨日、魔法王へと弟子入りをした訳だが、その修行の前にとある場所へ赴かなければならない。それはどこかと言うと、ここ。シュナたちがいる安静室だ。

 ここでは、24時間いかなることからも緊急的に避難することが出来る魔法が付与されているのでとても安全で安心だ。

 シュナ以外は少しの時間しか一緒にいなかった。しかし、俺たちは少しの間だけでも仲間として戦った。だからこそ俺はこの復讐心をもってみんなを助ける。

 「だが、お前は別だ。リリアル=リーチェ」

 俺は、リリアルの寝ているベッドへと近づき、彼女の肩をトントンと叩く。

 「全く、バレているとは思いませんでしたよ。ランクさん」

「やっぱりか。師匠が現れた時あのフィールド全体を感知したが、明らかにお前だけ様子がおかしかった。たしかに、致命傷の傷を負ってはいたが、お前だけ意識はハッキリしているようだった。能力にかかっていないという証拠だろう?」

 リリアル=リーチェ。こいつは出会った時から警戒していたが、やはり油断ならないやつだった。どうやったかは分からないが、カリオットの拘束を完全に打ち破っている。

 「フフ…不思議そうな顔ですね、ランクさん。あ、わたしを捕まえようとか思わないでください。ほかの皆さんが死にますよ?あなたの大事なシュナさんも…」

 「あぁ、捕まえる気なんかねぇよ。ぶち殺す…!」

 俺は、復讐心が高まり魔力が徐々に上昇して行く。安静室のベッドもガタガタと俺の高まる魔力に反応して音を立てる。

 「え、ちょ、ちょっとタンマ!!ストップですストップー!!」

 「タンマはなしだ。敵なら殺す!」

 俺がリリアルに殴りかかろうとした瞬間リリアルが叫ぶ。

 「からかってすみませんでした!あなたの実力が知りたくてわざと煽りました!!」

 俺は思わず拳を止める。

 どうやらリリアルの話によると、自分が拘束の力を受けてないのはカリオットから唯一命令を受けたからだという。

 「すみませんでした…私カリオットにあの時命令をされて、あなたを魔法で殺そうとしました。」

 「は?でもあの時全員倒れていたけど…」

 「ランクさん。あなたを殺そうとした瞬間、あなたが膨大な魔力を身に宿し立ち上がりました。その時にカリオットは緊急事態の対処のため、命令を解きました。それで、私だけは命令が終了し、拘束を受けてないのです。」

 リリアルの言ってることはどうやら本当の事のようだ。たしかに、あの時怒りのあまり周りを見ていなかったが、リリアルの位置が少しだけ変わっていたような気がする。

「私も、カリオットに主人を拘束状態にされました。だから、その復讐のためにあなたの実力を確認したかったのです。私は命令が解除された際、気を失ってしまったので、どうしてもあなたの実力を見たかったのです!」

 「そうか…とりあえず、すまなかった。事情も聞かないで殴りかかって。でもお前も悪いぞ!魔力を見してくれって言ってくれればいくらでも見せたのに。」

 「本当にすみませんでした!」

 そして、俺はリリアルを師匠の元へ連れていった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「ほぉ、リリアルと言ったか?お主命令を解除されたのか…?」

 師匠はリリアルへ向けて疑いの目を向ける。

 「師匠大丈夫だ。こいつの目は嘘をついてない目をしていた。言っていることに嘘はない。」

 すると、リリアルは俺の言葉に続くようにコクコクと頷きながら「嘘はついてません!」の大きな声で言う。

 「まぁ、ランクくんが言うのなら間違いないのだろうな。じゃが、当分は事情聴取も兼ねて身柄はこちらで引き取らせてもらう。まだ命令されてるかもしれないしのう。それも確認させてもらう。」

 「分かりました。それで構いません。」

 リリアルはそう言って師匠へお辞儀をすると、次に俺の方へ向いて、「ありがとうございまた。次に会う時はお礼をしますね!」と言って、俺の方にもお辞儀をしてきた。

 その後、リリアルは城の兵士たちに連行されて行った。まぁ、疑いは晴れてるようだし不当な扱いはないだろう。しかし、クロムのやつを慕うやつもいたんだな…

 「あ、そうだ。師匠!組合長のラルフ=ストロノーフって人に合わせてくれないか?今は洗脳を解かれて現場復帰していると聞いたんだが…」

 「会えるぞ?なるほどのぉ。お主の知りたかったこととはそれか…よし、修行開始の時間まではまだ時間がある。彼は組合のギルド本部の立て直しをしているはずじゃ。」

 そして俺は、「分かった!ありがとう!」と言って、その場を後にした。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ここは、広場。試験が行われていた場所だ。ラルフ=ストロノーフはそこで職員と復興員たちへ指示を送っていた。

 そして、俺は近くの職員に名前を教え、面会をと伝えてくれと頼んだ。

 すると職員は「アインメルト…分かった。着いてこい」と言うので、ラルフの元へとついていく。

 「ラルフ様。面会したいと言っているものがいるのですが…」

 「今は忙しい。後にしてくれ。」

 「いえ、それが“アインメルト”の姓を名乗るものでして…」

 すると、ラルフは俺の姓を聞いたからなのかこちらを向き俺の肩を掴み俺の事を凝視する。

 「君がランクくんか!会いたかった。この度はすまなかった。私の落ち度だ。」

 「いや、気にしてない。あれは魔族が悪いからな。それに今回はその話じゃなくて、“4人の英雄”についてなんだ。」

 「なるほど。わかった、私の知る限りのことは話すこととしよう…」

 そして、俺はラルフとともに盗み聞きなどをされない場所へと移動する。

 「ラルフさん。今回の事件の主犯が、『呪術皇(カースエンペラー)』のカリオットということは知ってるよな?」

 「あぁ、存じているぞ。」

 俺は、単刀直入に話を切り出す。

 「やつは、俺の両親を含めた4人のパーティが幹部を倒し、その後報復として俺の両親はカリオットの手で殺された。そう語っていた」

 「その通りだ。“4人の英雄”とは、私と君の両親。そして、君の幼馴染のシュナ=リーリルの父親、グリル=リーリルの4人のことだ。」

 ラルフは全てを認め、その時のことを語り始める。

 「第5位の幹部『未現物体(ストレンジゴーレム)』を倒したのだが、その後カリオットに報復を受けた。その時君の両親は私たちを逃がすために時間稼ぎをして逃がしてくれた。要するに私とグリルは2人を見殺しにしてしまったのだ。」

 ラルフは俯きながら、俺に謝罪をするように事の全容を話してくれた。

 「ありがとう、ラルフさん。これでスッキリしたよ」

 「怒らないのかい?ランクくん。私は君殴られるつもりでここに来たんだ。その覚悟ならとっくの昔に出来ている。」

 「何言ってんの、ラルフさん!父と母が命張って守った人を俺が殴るわけないし、リーリルさんは俺の育ての親だ。そんな人たちを恨んだりはしない。俺は親のことを知りたかっただけだからさ」

 俺のこの気持ちに嘘はなかった。たしかに、両親が死んだのはすごい悲しかった。だが、オレにはシュナやリーリルさん。そして村の仲間。たくさんの人たちがいたから、ラルフさんやリーリルさんへの憎しみなどはない。

 そして、俺はラルフさんに一言「ありがとう!」と言って城へと歩き出すと、「また話そう!ランクくん!」と言って手を振ってくれた。

 《良かったのかい?ランク。まだ聞きたいことはあっただろ?》 

 (いや、それはまた今度。その話はリーリルさんに聞かなければいけない事なんだ。)

 俺はもうひとつあった質問を、またいつかラック村を訪れた時にリーリルさんにするためにあえて言わないでおいた。別にそれはリーリルさんを責めるためじゃない。俺はリーリルさんへ両親についてどう思ってるのかを話したかった。だから、あえてラルフさんには質問しなかった。それだけである。

  (あ、城へ戻る前に少し寄りたいとこがあるんだ。大丈夫か?竜王)

 《あぁ、問題ないよ。》

 そして、俺はシュナと苦労してあの日見つけたボロ宿へと向かった。

 ボロ宿を見た瞬間ポロッと声が自然と出てしまう。

 「たった数日前とかの出来事なのに随分懐かしく思えてしまうな…」

 俺は、ボロ宿のボロボロの部屋に入り、今回の目的のものを探す。シュナの写真立てだ。あいつは意外とホームシックになるとこがあって、俺とシュナとリーリルさんの3人で撮った写真を肌身離さず持っていた。

 「確か、試験の時は壊れたらやだって言ってここら辺に閉まってた気がするんだが…」

 俺はシュナのベットの近くにあった棚の中を探り、写真立てを取り出す。

 「懐かしいなこの写真…」

 目から自然と涙が零れ、ポツポツと写真立てに落ちる。

 「絶対…絶対呪いをとくからな。シュナ!」

 俺は心の中でなく、あえて口にした。自らに言い聞かせるように。

 ボロ宿のすきま風が肌と涙の痕にあたり、少し冷たい。だが、それはまるで俺の心を形容しているかのようでなぜだか親近感があった。そして、俺はその風を身に受けながら、自然と心の中で静かに意志を固めていた。

英雄と6人の王【第1章】終わり、そして始まる

「お、おい!あんた誰だ!?」
俺は、自らの感情を平常心に無理やり戻し謎の老人に問う。
「いやぁ、こんなになってたとはのぉ…はて、これをやったのは君かな?ランク=アインメルト君」
その老人は俺の言葉を無視するように自分の質問を問いかけてくる。
「い、いや、俺がやったといえばそうだが、正確にはカリオットと戦っていてこうなって…」
俺はその老人に起きたことをありのままに伝える。
「ほう、なるほどのぉ。はて、先の話にあったやられてしまった仲間とは彼らのことかな?」
その老人は俺にそう聞くとシュナたちの方向へと歩みを進め始める。
「ま、まぁそうだが…て、じいさん何やってんだ!?」
その老人はシュナの前でかがみ込み、額に手を当てて、魔法の詠唱を始める。
「力の源である“魔法王”が命ずる。全てに調和をもたらし、世界の均衡を護りし癒しの精よ、魔法王の名において全てのものを癒せ」
「治癒魔法『木枝(ブランチ)の恩恵(キュア)』」
すると、シュナの体から木々の枝のように緑色の魔力が溢れ出し、俺を含めた仲間の傷が一瞬のうちに癒えていく。
「こ、これは魔法王が使うとされる癒しの魔法!?でもなんでじいさんがこんな魔法を…」
するとじいさんは俺の言葉に反応しニコッとしながらこちらを振り返る。
「おー、まだ自己紹介してなかったのぉ。わしは“テスカト=タナトール”というものじゃよ。地元では名が知れ渡ってるとは思うのじゃが…」
「テ、テスカトってそりゃ、魔法王の名前!じゃああんたが!?」
「その通りじゃ。」
そのじいさんは、自慢げに自分が魔法王本人であることを認める。
「ところでじいさん…いや、魔法王様!一体何をしたんだ!?」
「ほっほっほ!じいさんでいいぞい。癒しの魔法で傷は治した。しかし、能力による傷までは治すことはできないから、そこは許して欲しい…」
「そ、そうだ!能力ってのは一体…」
すると、魔法王のじいさんは能力について語り始める。
「この世には様々な魔法があるが、その魔法をある程度まで習得し、熟練したものに現れるいわば副産物みたいなものじゃ。」
そして、じいさんはカリオットの能力にも解説を加える。
「アイツは…カリオットの能力はたしか『呪言(カース)』じゃ。」
「呪言(カース)…!?おい、それは一体なんなんだ!!」
じいさんの話によると、どうやら呪言(カース)とは、自らの魔力を拘束力に変えて、相手を言葉のままに操る能力らしい。そして、シュナたちはその影響に晒されて未だに拘束を受けているらしい。
しかも、この能力は命令をされて、それを遂行した瞬間に切れるらしいが、カリオットからは命令をされなかったので、このままだと言う。
「じゃあ一体どうすれば!」
「とりあえずわしの城へ来い。こうなったのもわしの責任じゃしな。さ、魔法陣を作った。これに全員入れるんじゃ。」
そして、俺はシュナたちを魔法陣の中に置いて、俺もその中へと入る。
「さて行くかのぉ。『空間転移術式(キャリーウェイ)』発動!!」
すると、辺りは一瞬で荒野から豪華絢爛という言葉がピッタリと合う、そんな場所に移動した。
「ここは一体…」
《王座の間って言ったら分かるかな?ランク》
(お前、この場所知ってんのか?)
俺は心の中の竜王に直接話しかける。
《お、やっと声に出さなくても僕と会話できることに気づいたんだね!》
(茶化すな。で、ここはどこなんだ?)
すると竜王は「おっと失礼」といって話を続ける。
《恐らく覇王がいた城を魔法王の城として改装したんだろうね。香りとかは違うけど、何となく構造とかが一緒だ》
「なるほど、もと覇王の城ってことか…」
「ん?何か言ったかい?ランクくん」
じいさんから疑問の言葉が飛んでくる。
どうやら、つい癖で声に出てしまっていたようだ。
「あ、いやなんも言ってない!それより、じいさん。シュナたちはどうやったら治るんだ!?」
俺は話題の転換も兼ねて、シュナたちのことを聞いた。
「能力には能力しか効かない。だから、呪いの解除系能力を使えるやつを探すことじゃが、これほどの能力じゃ…恐らくそんなやつにはなかなか会えないじゃろう」
「そんなに難しいのか…」
俺の深刻そうな顔を見て、じいさんはもう1つの解決方法を提案してくる。
「あとは1つ。カリオットを倒すことじゃな。」
「カリオットを?」
俺はその言葉の真意を知るために質問を聞き返す。
すると、じいさんはそれについての解説を始めた。
「能力の解除法には能力を用いるしかないと話したが、その他にも使用者を殺すという手段があるんじゃ。そうすれば自動的に解除されるはずじゃよ。」
(おい竜王、それはほんとか?)
《本当さ。嘘はついてないと思うよ。能力には基本的に死後にも永続的に続くものは存在しないはずだからね。》
俺は竜王に確認をとって、それが真実であることを確認すると、具体的にどうすれば良いか質問をした。
「じいさん。具体的にどうすればカリオットには出会える?」
すると、じいさんは「簡単じゃ」と言い、説明を始める。
「魔王軍には、下級魔族の悪魔や不死者(アンデット)を従える10柱。その上に4人の幹部。さらに上には魔王が存在しているんじゃ。ちなみに、幹部は“4人の英雄”に倒される前は、元々5人じゃった。」
「そ、そう言えば、カリオットが『我は魔王軍の幹部にして10柱が1人。』みたいなことを言ってた気がする…!」
「なるほど!わしがこの前腹いせに10柱の一体をぶちのめしたから、やつが幹部と共に兼任しているのじゃな。ほっほっほ!」
じいさんは嘘みたいなことを笑いながら話す。いや、10柱の魔族を腹いせに倒すとか笑い事じゃないんだが…
そしてじいさんはあとに続ける。
「幹部は基本的に魔王城にいるとされてる。だから、冒険をしていれば会えるんじゃ。そして、その内のやつは第3位の幹部のはずじゃ。」
じいさんの話によると、4人の幹部には順位と2つ名が付与されているとの事だ。
幹部第1位『不死(アンデット)王(キング)』
幹部第2位『悪魔(デーモン)将軍(ジェネラル)』
幹部第3位『呪術皇(カースエンペラー)』
幹部第4位『変幻者(シークレットモンスター)』
俺が狙うべきは、第3位『呪術皇(カースエンペラー)』カリオットである。
「君の前に現れたカリオットは恐らくその分身じゃろうな。やつは、自分の4分の1の力を持つ分身を作り出すことが出来る。」
「分身…?でも、やつは転移石を使ったぞ!なら本物じゃないのか?」
「恐らくは情報収集も兼ねていたのじゃろう。分身は死ねば記憶がなくなるが、本体と一体化すれば記憶は共有されるのじゃ。おそらく君という新たな脅威を記憶するためにな。」
そしてじいさんは、もう1つの今回の問題を俺に切り出す。
「あと、今回のカリオットの引き起こした事件じゃが、組合長ならびに全ギルド長。そして職員までもが洗脳され生き残ったのは、君たちSランク組と試験に参加出来なかったEランク組だけなのじゃ。現在洗脳を解いて、組合長たちから事情を聴取しているのじゃが、どうやら何も覚えていないらしくてな。」
「そ、そんな…じゃあカリオットのことは俺しか知らないってことか…」
「そういうことになる。しかし、君には色々話してもらえて、今回の主犯がカリオットということを聞くことが出来た…ありがとうランクくん」
そうお礼を言うと、カステルが深く頭を下げる。
「じいさん!王様がそうな簡単に頭下げちゃいけねぇよ!!」
「いや、今回の件はわしの不覚じゃ。謝らしてくれ!そのお詫びと言ってはなんだが、ランクくん。わしの元で修行をせんか?」
「え?修行!?俺が、あんたの元で!?」
俺は驚きのあまり、聞き返してしまう。
「その通りじゃ!君は遅かれ早かれ、カリオットを倒し、魔王と対峙する存在となるじゃろう。それの準備と思ってくれていい。どうかね?」
「うーん」と悩んでいると竜王が語りかけてくる。
《僕は賛成だよ。カリオット戦のとき君には僕の魔力に耐えうる器がないと言ったが、彼と修行をすればある程度は完成されるだろうよ?それに、これから能力もなしに僕の魔法だけでは確実に無理なこともある。君自身のレベルアップが必要さ。》
(なるほど。確かに一理ある。お前、最初嫌なやつかと思ってたけど、なんだかんだ良い奴だな!)
俺が素直な気持ちで褒めると竜王は「な!?」と言って照れてるようだった。そんなやり取りを心の中でしていると、現実にいるじいさんから「聞いてるかー?」と問いかけが来る。
「聞いてる!あんたとの修行の件だけど、お願いする!俺はみんなの呪いを解くために、今よりももっともっと強くならないといけない。それに、知りたいこともできたし…」
俺がそう言うと「知りたいこととな?」とテスカトは首をかしげながら聞いてくる。
「いや、なんでもない!!とりあえずよろしく頼む!じいさん!!いや、師匠!たのむよ!!」
「師匠か…ほっほっほ!久しぶりに呼ばれたぞ!」
そして、俺が魔法王に弟子入りをしていた際、時を同じくして魔王の城では不審な動きが起ころうとしていた。
ーーー魔王城
ここは魔王城。薄気味悪い明かりが灯る玉座。そこには魔王が足を組んで座っていた。
そして、魔王の目の前にはひれ伏すカリオットの姿がある。
「カリオットよ、我は悲しいぞ。作戦が失敗と言うことにな。我は貴様のことを信頼してこの作戦を実行させたのになぁ?」
「すみませぬ魔王様!このカリオット、一生の不覚でございます!しかしながら、今回収穫もございました…」
「収穫…?なに、申してみよ。」
「はい。竜王の、復活について…」
すると、魔王は高笑いをあげて魔王軍全体に命令を下す。
「フフ…フハハハハ!面白くなりそうだ!全魔王軍に通達。戦いに備えよ!全ての準備を整えるんだ!!久方ぶりの戦争だ!!」
魔王城でも、不吉な動きが始まろうとしていた。
そう、それはまるで、全ての歯車は揃ったかのように、魔法王の城でも、魔王の城でも、完全に止まっていた全てが動き出した。足りなかったランク=アインメルトという歯車のパーツが組み合わさり、噛み合い出したかのように…

英雄と6人の王【第1章】冒険者適性試験⑦

 「てめぇの、その余裕そうな面に1発叩き込んでやるよ!お前だけは絶対ぶっ殺す!」

 俺の怒りに反応するかのように、地面に亀裂がはいる。

 「ほう…面白い。それでは打ち込んでみなさい。あなたの魔法を。そしてわたしを楽しませなさい!人間!!」

 すると、カリオットの言葉に反応するように心の中から竜王が語りかけてくる。

 《ランク。憎いね、悔しいね。じゃあ、今こそ僕があげた力を使うときさ!君のその復讐心に比例するように、この竜王の力をは何倍にも膨れ上がる!僕を真似て詠唱をしてくれ。それが君に教える最初の竜王の技さ!》

 「分かった、竜王!これでお前を倒す!カリオット!!」

 「なにをブツブツと言っているのですか?さぁ、あなたの最高の魔法を見せなさい!」

 「あぁ、もちろんだ…!」

 そして、俺を完全に舐め切っているカリオットに向かって、竜王と共に、魔法の詠唱に取り掛かる。

 《力の源である“竜王”が命ずる。世の理を読み解き、魔の深淵を覗きたる偉大なる竜の精よ。我が竜王の名において、この拳に全てを焼き尽くし、全てを壊す力を与えたまえ!》

 「力の源である“竜王”が命ずる。世の理を読み解き、魔の深淵を覗きたる偉大なる竜の精よ。我が竜王の名において、この拳に全てを焼き尽くし、全てを壊す力を与えたまえ!」

 俺は、竜王に続くように魔法の詠唱を唱える。だが、この魔法を俺は1度使ったことがある。そんな気がしてならない。

 「竜王が命ずる?ヒーフッフッフ!傲慢なことを言う人間もいたものですね!!」

 「傲慢?違うぜカリオット。竜王の力の片鱗…お前に見せてやるよ!」

 《さぁ、ランク。準備はいいかな?》 

 竜王から確認の言葉がくる。

 「当たり前だ!いくぞ竜王!!」

 そして、俺は右の握った拳を左手で包み込むようにして、グッと引く。そして、魔法発動のために竜王に続くように魔法名を叫ぶ。

 《超魔法『竜拳(ドラゴンフィスト)』!》

 「超魔法『竜拳(ドラゴンフィスト)』!」

 魔法の発動の瞬間、真紅の炎に包まれた拳に、竜の顔が 浮かび上がる。俺はその拳を一気にカリオットに向けて突き出すとその炎は凄まじい威力となり、カリオットの元へと放たれる。

 「これは…この威力は…本物の竜王の超魔法!?なぜ、急にこんな力が人間に!?」

 すると、カリオットは両手を前に突きだし、慌てて魔法詠唱を始める。

 「力の源である魔王軍の幹部にして、10柱が1人の我が命ずる。最悪の魔の精よ、絶望を全てを防ぐ二重の魔防の盾に変え、我を災厄から守りたまえ!!」

 「大魔法『二重(ダブル)の絶望(ディスペアー)』!!」

  すると、カリオットの両手から二重の巨大な魔法の盾が浮び上がる。

 「この魔法は、周囲の人間の絶望が大きければ大きいほど、防御力を増すのです。私があなた達から集めた絶望と、私が放った魔獣によって他の人間から得た絶望により大幅な強化がなされていますよ!!」

 それを聞いた竜王が、余裕そうな口調で語り出す。

 《ふーん。大魔法の『二重(ダブル)の絶望(ディスペアー)』か。随分絶望を集めて強化したようだが、果たして防ぎきれるかな?》

 竜王の言う通り、カリオットは押し負けているようだった。俺たちを一瞬のうちに倒した魔族とはまるで、全く違う魔族なのかと思うほどに。そして、展開された盾に亀裂がはいる。

 「こ、このカリオットが…幹部にして10柱のうちの一人である私がこんな、と、所でぇぇええぇ!」

 そして、俺はさらに魔法に残りの魔力を込める。

 「いっけぇぇぇ!!!」

 その瞬間、カリオットの防御魔法は完全に粉砕され、竜拳(ドラゴンフィスト)がカリオットを貫く。 

 「ク、クソがァァアァアァァ!!!」

 カリオットの叫び声とともに、辺りは魔法の影響で深い煙に包まれる。

 「や、やったのか!?」

 《いや、残念ながら、まだのようだ。ちっ!魔王のヤツめ。保険をかけていたな!?》

 カリオットはボロボロになりながらもそこに立っていた。

 「こ、これはなんとも計算外。まさか、竜王が…魔王様の加護が無ければ消滅していました。」

 どうやらカリオットは魔法の加護とやらでギリギリ生き延びれていたようだ。しかし、そう上手くことが進むわけがない。いや、進ませるわけがない。先程の攻撃で、このときの魔力はほとんどなかったが、弱ったカリオットを倒すには十分な程だった。

 そして、俺はカリオットの元へゆっくりと近づく。

 「おい、カリオット。お前はもうすぐ俺が殺す。お前の悪運もこれまでだ。だが、最後に聞きたい。俺が気を失う寸前、『さらばです。アインメルトの子よ』と言っていたがそれはどういう意味だ!」

 俺は、両親のことを知りたいという気持ちもあったので、カリオットへとその疑問を投げかけた。

 カリオットはニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

 「そ、その事ですか…ゲホッ…あ、あなたの両親を殺したのはわたしです!あなたの両親は幹部を1人殺しました。なので、私の手で始末して差し上げたのです!」

 カリオットはダメージからか吐血をしつつも、淡々と語り出す。

 「ゼェ…いやぁ、最後は滑稽でしたよ?仲間を含め4人のパーティでしたが、あなたの両親を残し、残りのふたりは逃走。そして、あなたの両親は必死にこちらへと懇願していました。『息子がいるからどうか助けてください』ってね!ヒーフッフッフ!」

 カリオットは「ゼェゼェ…」と息を切らせながら語り、そして不気味な笑い声をあげる。

 「その後、一体どうしたんだ…」

 「どうした?愚問ですね。もちろん殺しましたよ!1番ながーく苦しめるやり方でね!!」

 カリオットは嬉々としてそれを語る。

 「この外道が!!てめぇだけは絶対許さねぇ…!」

 この瞬間俺の復讐心は一気に最高潮へと至る。そして、それに比例するように、尽きかけていた魔力が上昇していき、その影響で辺りに地響きが鳴り渡る。

 《ランク、いいよ!その調子だよ!今なら絶対に殺れる。あの憎き魔族を倒そう!!》

 そして俺は、カリオットに力の限りの魔力を向け、それを一気に炎へと変化させ力の限り拳を振るう。

 しかし、カリオットを殴ろうとした瞬間、拳から炎は失われ、体から力が抜ける。

 「な、なんだ…!?」

 その瞬間、俺は体を支えることが出来なくなり、膝を着いてしまう。

 「ヒーフッフッフ!魔力の過度の使用によるオーバーヒートですよ!」

 「ど、どう言うことだ!!」

 《どうやら、身体が僕の魔力に耐えられなかったようだね。君のその復讐心はたしかに、大きな力をもたらした。しかし、それに耐えうる器を君はまだもてていなかったという事だよ。》

 竜王の言った通りのようだった。さっきまで膨大にあった魔力は体から抜けていき、力がどんどん抜けていく感覚がある。

 「ヒーフッフッフ!この勝負。引き分けとしましょう!私ももうずいぶんとダメージを負った。それに、目的の八割は果たしていますしね…」

 「おい、それは一体…」

 俺がカリオットに問いかけようとしたその瞬間、辺りに光が満ちる。

 《転移石か!?》

 すると、そこからカリオットは綺麗にいなくなっていた。まるで最初からいなかったかのように。

 「な、何が起こったんだよ。竜王!」

 《転移石さ。場所を記憶して、割ることで記憶された場所に移動する石をやつは使ったんだ。とことん抜け目のないやつだよ。》

  「クソ!カリオットめ…!俺をわざと怒らせて、オーバーヒートを誘ったのか!」

 俺は悔しさと自らの未熟さのあまり、地面を何度もなぐった。血が滲むほどに。

 今回逃した獲物はでかい。やつは恐らくさらに強くなってまた俺の前へと現れるだろう。今ここで消すべきだった。それに、他の人間にも危害を加える可能性もある。だが、何度現れても俺がこの手で倒す。絶対に…。

 「そうだ。シュナたちは!あいつらは大丈夫なのか!?」

 俺は後ろを振り返り、少ない力を振り絞ってシュナたちの元へと走る。

 どうやらまだ息はあるようだ。しかし、脈が薄い。危ない状態には変わりないようだ。

 《これはまずいね。早く医者を呼ぶべきだよ。カリオットの“能力”にも侵されてる。》

  「カリオットも言っていたが能力ってのはなんなんだ!どうしたら治るんだよ!」

 《僕は壊せても治すことはできない…それにランク。警戒した方がいい。なにか…来る!》

 「あぁ、わかってる!」

 すると、大きな衝撃音と風圧とともに、後ろに何やら巨大な魔力が現れるのを感知する。また魔族の襲撃かもしれない。せっかくシュナたちを助けられる可能性があるのに、今度はカリオットよりもさらに大きな魔力だ。

 衝撃の影響か、土埃が舞っていて何者かは確認が出来ない。俺は直ぐに全員を守れるように魔法の準備をしようとした。しかし、力が入らずうまく魔法が展開できない。

 「竜王!お前の魔力をもっとよこせ!」

 《無理だよ。今渡せばさっきの二の舞になるだけだよ!》

 万事休す。そう思っていた瞬間、風が吹き始め、あたりが晴れる。そして、その晴れた先に立っていたのは魔族ではなく、白髪で髭まで白い老人だった。

 「ありゃりゃ、こりゃ酷くね?」

 「は?」

 俺はこの緊急事態を目の前に、発されたその老人の軽率ともとれる言葉と巨大な魔力の正体に呆気に取られ、不覚にも「は?」という言葉が出てしまった。

 だが、この出会いが、俺のこれからを大きく変えることになることを、このときの俺はまだ知る由もなかったのだ…